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第2話 


クラレットに連れられて、野営地の中心――王太子のテントへ入った。

中は静かで、布の匂いと香草の匂いが混じる。


「座って。食べながら話そう」


言われるまま腰を下ろすと、すぐ皿が出てきた。

温かい。香りがいい。

そして――クラレットの手作りだと言われて、僕は言葉を失った。


どこの世界に料理を手作りする王族がいるのだろう。


そんな僕の考えをよそにクラレットは僕に料理をよそおってくる。


「ホワイト。これ食べてみて。味の感想を聞きたいな」


空腹に勝てず、僕は勧められるまま食事をしていると会話がさらに弾む。


そのうち、僕が携わっている行商についても、とくに儲けの出る商品の相談にものってくれた。


「ふむふむ。交易で儲けの出るルートが知りたいんだね。ならクラウド王国の王都近くにあるアスターの村の周辺に出没するクマの肝臓は薬として珍重されていると聞く。とくに都市部なんかでは大人気じゃないかな」


幼なじみが有能すぎる。


僕は料理を作ってくれて、商売の知識までカバーしているクラレットに感動した。


「クラレットみたいな幼なじみがいてくれて僕は本当に幸せだよ」


クラレットはその言葉に、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。


「もう、そんなこと言って。ぼくの気持ちをもてあそぶんだから」


あれ?なんかまずいことを言ったかな。


だって料理はおいしいし、喉から手が出るほど欲しい儲けの出る情報も知っているし。


こんな幼なじみがいて本当に恵まれていると思ったんだけどなあ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


食事もおわり、一通り落ち着いたころ、クラレットが僕の顔を覗き込む。


「ホワイト、顔色が悪い。何かあったでしょ?」


見抜かれたか。クラレットに隠し事はできないな。


言うつもりはなかったけど、口が勝手に動く。


「行商の合間に、コパー農業国の軍と魔物討伐をしたんだ。・・・・・そこで、すごく嫌な目にあった」


クラレットの目が、細くなる。

怒りを押し込めるときの癖だ。昔から。


「詳しく話して」


僕は短く、事実だけを話した。

コパー農業国の将軍に功績を奪われ、逆に罰を匂わせられたこと。

平民だから、という理由で。


話し終えるころには、クラレットの指先が震えていた。


「そんなの、ひどい」


声が低い。

怒りが、抑えきれていない。


「ホワイトのおかげで討伐できたのに。褒章どころか罰? ありえない!」


僕は慌てて手を振った。


「いいんだ。よくあることだ。貴族ってそういうものだし」


「よくある、で済ませちゃだめだよ!」


クラレットが言い切る。

僕は黙った。


反論できない。


だけど、怒ってくれる人がいるだけで、心が温かくなる。


「ありがとう。分かってもらえただけで、救われるよ」


言うと、クラレットは一瞬だけ、柔らかく笑った。


「ぼくから言っておくよ。コパー農業国には」


「いいよ。そんなの。クラレットの立場もある」


「立場なんて、そんなもの・・・・」


そう言い放ち、クラレットは僕を見つめた。

熱を含む――その目。


僕は居心地が悪くなり、立ち上がった。


「ちょっと外の空気を吸ってくる。すぐ戻る」


「・・・・うん。気をつけて」


その声が、少しだけ寂しそうだった。


テントの外へ出ると、夜の野営地は騒がしい。

焚き火。酒。笑い声。

兵は戦いの前に、気を紛らわせる。


僕とナイルは、情報収集も兼ねて歩き回った。

すると、兵の雑談が耳に入る。


「なあ、最近のクラレット殿下、色っぽくないか?」


「は? 男だぞ。美形なのは認めるけど」


「いや、そういう話じゃなくて、・・・・・なんか“女の人みたいな色気”っていうか。近くに行くと、いい匂いもするし」


「お前、不敬だぞ」


僕は足を止めた。

胸の奥が、妙にざわつく。


隣でナイルが、楽しそうに口元を押さえて笑った。


「ね? あなたもそう思ったでしょ」


「思ってない」


反射で否定した。

ナイルは肩を揺らして笑う。


「へえぇ~。じゃあ、あなたの鼻が壊れてるのかしらん」


「もういい。行くよ」


僕が歩き出すと、ナイルは小さく呟いた。

「“女性っぽい”というか、もう中身は完全に女性よねぇ。・・・・・」


「好きな人に尽くすことに喜びを感じちゃってるしぃ。肉体にかかっていた認識阻害の魔法も解けかけてるしぃ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


野営地の通路を歩いていると、向こうから数人の将軍が来た。

その中に――見覚えのある顔がある。


「・・・・・スレート」


盾を担いだまま、相手も僕に気づいた。


「あれ、ホワイトかい。久しぶりだね。こんなところで会うなんて」


声が変わらない。

安心する。

僕は短く頭を下げた。


「久しぶり。スレート、・・・・・男爵様」


「やめてくれよ。堅いのは苦手だ」


スレート・シルバーナ男爵。

かつて大地の勇者パウダーと旅をした時の仲間。

当時は盾役で、敵の攻撃を引き付けることで仲間の攻撃を支援していた。


僕はサンドベージュ団長から受けた任務――後方支援の物資調達のため各地を回っていることを説明した。


スレートも答える。


「ボクも勇者ラベンダーの支援だ。各地で魔物の襲撃が激化している。討伐のため、クラウド王国の軍に参加して将軍を任された」


将軍?

あのスレートが?

なんだか現実味がない。


スレートは少し声を落とした。


「それでね。君が今ここにいるのは、賢明だったかもしれない」


「近くの砂漠地帯に、魔物の大群が確認された。町を狙ってる」


「町はクラウド王国領だから、国から軍が派遣されたってわけさ」


僕は頷く。

そのうえで、スレートはさらに小声で言った。


「ここだけの話・・・・・魔物の大群は、魔族に率いられているらしい」


言葉が、妙に耳に残る。

魔族か・・・。

嫌な予感がする。


「討伐が始まったら、君は離れたほうがいい。巻き込まれるといけない」


スレートは本気で心配してくれている。

僕は、答えに迷った。


安全に逃げる。

それは正しいことなんだろう。

でも、クラレットがいる。スレートがいる。

僕だけ逃げるのか?


僕は拳を握りしめた。そして、


「・・・・・僕も参加する」


スレートが目を見開いた。


「ホワイト、君は――」


「逃げない。僕は、そういう性分だ」


言いながら、自分が馬鹿だと分かっていた。

でも、口が勝手にそう動く。

ここまで来たら、もう止まれないんだ。

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