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第14話

最初は、私ミモザもベルフラワーも――大地の勇者と名乗る少年に不信感を抱いていた。


理由は単純だ。

彼はゴールド王国や聖教会に反目する、フクシア神教国の出身。

その言動もまた、こちらを値踏みするような敵意を隠していなかった。


だが、空の勇者ラベンダー殿が下した人選である。

「最良」だと判断したからこそ、私たちは黙って従ったのだ。


アリザリンの拠点へ潜入してしばらく、敵影はなかった。


異様なほど静かで――逆に、嫌な予感だけが増していく。


拠点の中枢へ踏み込んだ瞬間だった。


魔王の側近、アリザリン。

そして、その配下が十数名。


そこからは激戦だった。


大地の勇者パウダー殿は、確かに強かった。

勇者にしか許されぬ高威力の大技を、惜しげもなく連発する。

配下を屠り、アリザリン自身にも確実に傷を刻んでいった。


・・・率直に言おう。

私には、あれほど明確にアリザリンへ通る攻撃を持っていなかった。


六武威として長く席を守ってきたこの私でも、だ。

私は弓で牽制し、敵の注意を散らし、要所で隙を作ることに専念し。


ベルフラワー殿は回復と補助に回る、それしかできなかった。


パウダー殿が攻撃に徹したことで、敵はそちらにかかりきりになり、私たち二人を狙う余裕を失った。


まさに――「攻撃は最大の防御」。


そして、ついに。

アリザリンをあと一歩、というところまで追い詰めた。


そのとき、アリザリンは切り札を出してきたのだ。


アリザリンは魔王から授かったという召喚魔法で、「創造神がつくりし7つの邪悪な災厄」の一つである邪神を、拠点の“外”へ向けて解き放った。


この邪神は誰の命令も聞かず、ただ世界を壊していくだけの制御不能の災厄。

そして同時に、アリザリンは敗北を悟るや否や、拠点そのものを自爆させ、われらもろとも滅ぼす算段に出たのだ。


大地の勇者パウダー殿は、その企みを瞬時に見抜いた。

降り落ちる大岩を厭わず、壁へ最大威力の攻撃を叩き込み、大穴を穿つ。


「出ろ!!」


その一声とともに、パウダー殿はわれら二人を“魔力で弾き飛ばした”。


外へ。崩落の及ばぬ位置へ。


われらがここに生きているのは、まぎれもなく大地の勇者パウダー殿の手による。


・・・・しかし。


脱出した直後、拠点の中枢から“勇者の加護”が燃え尽きるような魔力の波動が走った。

次の瞬間、パウダー殿から感じていた「大地の勇者としての反応」は、途絶えた。


生死の断定はできぬ。

だが、あの崩落の中心で、あの反応が消えた以上・・・・「大地の勇者パウダー」としての役目は、そこで終わったと見るほかない。


「・・・・ラベンダーどの。疑念を向けられるのは心外だが、説明すればこういうことだ」


私は唇を噛み、続けた。


「アリザリンを追い詰めたのも、われら二人がこうして命を助けられたのも、どちらもパウダー殿の功績でございます」


隣にいるベルフラワーも、黙って涙をこぼしていた。


話を聞くラベンダー殿も、そしてその一行も、言葉を失っている。


パウダー殿の“退場”は、痛手だ。

だが魔王の側近アリザリンを討伐し、拠点を潰したのもまた事実。


私は必ず魔王を倒す。

そう、胸の奥で誓ったのだ。


パウダー殿のもとを離れたスレート、シャドウ、聖女ケイトの三人は――今後、空の勇者ラベンダーどのの旅に同行することになるだろう。



その直後だった。


ラベンダー殿の従者――イオニーアと名乗る者が、静かに前へ出た。

あの者の正体は、私には測れぬ。


だが、邪神を“封印”へ落とした手際だけで、格が違うと理解できた。


イオニーアは、小さな闇の玉を指先で転がすように宙へ浮かべ、キース殿へ目を向けた。


「あなたにこれをさしあげましょう。都合のいいことにあなたの家の血筋は封印魔法と結界魔法の素質があるようです」


「なので、あなたにこの邪神の封印の監視をお願いします。そうすれば多少の恩恵をうけ、あなたもあなたの子孫も魔力が強くなるでしょう」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


キース殿――本名をキース・マリーゴールドという。

マリーゴールド伯爵家の三男にあたる貴族であり、その家は代々魔力が強く、優れた魔法使いを輩出してきた血筋だ。


イオニーアは、その血筋を選び、闇の玉――邪神の封印核を託したのである。


のち、キース・マリーゴールドは封印魔法と結界魔法の基礎を授かり、防御魔法に磨きをかけ、結界魔法として様々な効力をもつ術を生み出すことになる。

そして彼はプラチナ帝国六大公爵の一つ、“黄”の公爵マリーゴールド家の家祖となっていく。


マリーゴールド家は、イオニーアから与えられた小さな闇の玉のおかげでより高い魔力を保持することが可能となり、同時にこの邪神もまた、マリーゴールド家が中心となって封印を守っていくことになった。


――しかし。

五百年後、マリーゴールド家の子孫が、その封印を解くことになるのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


クラウド王国の王都。


私はクラウド王国を統べる、セピア女王といいます。


私は王宮の私室で、静かに報告を待っておりました。

けれど、待つまでもありませんでした。


クラレット様の気配――魔力の波動は、独特なのです。

同じく魔力に秀でた私には、離れていても分かります。


その波を感じた瞬間、胸が熱くなりました。

まるで深い部分で繋がっているかのようで、嬉しくて仕方がありません。


私はこの国の女王であり、同時に、ゴールド王国の“英太子”――クラレット・ゴールデア様の婚約者でもあるのです。


女王が誰かの正妃になるなど、常識ではあり得ないこと。

ですが、常識を捨ててでも結びたいと思えたのが、クラレット様でした。


国民もそれを許してくれた。

それだけクラレット様が、この国のために骨を折ってくださった証でもあります。


今日も、クラレット様は戻ってきてくださる。


私たちは、忙しい身であるからこそ、日を決めて互いの時間を大切にしているのです。


ポッ、と頬が熱くなると同時に、報告の声が聞こえる。


「クラレット様、王宮へ――」


私は背筋を伸ばし、女王としての顔を整える。

けれど、胸の奥は隠せません。


ああ、早く、お会いしたい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


クラレットです。


王太子となり、政務に追われる日々が続いています。

そして王族の責務として、婚約も結びました。


相手はクラウド王国のセピア女王。

優秀で、慈悲深く・・・・僕にはもったいない人だ。


今日から一週間、クラウド王国に滞在する予定。

政務の手伝いもするし、周辺の魔物狩りにも出るつもり。


けれど――従者ホーネントが、妙なことを言うのです。


「本当にそうですか。自分の気持ちに嘘はありませんか?」


どういう意味だろう。


僕はセピアを大切に思っています。

ただ、正直に言うと、“恋”や“愛”という感情はピンとこない。


でも、好きという感情は分かる。


そして、セピアには言えないけど、僕はホワイトが好きです。


友情として、誰よりも。


今回クラウド王国へ来た本当の目的は二つ。


ひとつ。

隣接地域で起きた「魔王の側近アリザリン討伐」の報告と、その真偽を確かめること。


ふたつ。

討伐を成し遂げた者たちへ、ゴールド王国の女王代理の名で論功行賞を行うこと。


報告には、大地の勇者が拠点の崩壊に巻き込まれ“安否不明”とありました。


たとえ聖教会に対立する国の出身だとしても、命を賭して世界を守った者の“安否不明”を、軽く見るつもりはありません。


そして、もう一つ。

ラベンダーから「ホワイトが生きている」と知らされました。


本当の本当の目的は――ホワイトに会うこと。

そう言っても、過言じゃない。


ああ、早く会いたい。


・・・・生きていてくれたなら、今度こそ。


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