第12話
しばらくのあいだ、ラベンダーとホワイト、そして邪神との攻防が続いていた。
ラベンダーは人族である。
空の勇者とはいえ、所詮は人族。
その魔力量は常人とは比べものにならないほど膨大だが、邪神という存在の前では、どうしても限界がある。
時間が経つにつれ、ラベンダーの誇る魔力量は、確実に削られていった。
一方で、ホワイトは、自らの生命力と寿命を削りながら、「魔法剣」を振るっている。
長引けば、長引くほど。
ホワイトは、確実に死に近づいていた。
そして――
邪神の放った魔法の衝撃が、ホワイトの身体を正面から打ち抜いた。
「っ!」
ホワイトの身体から力が抜け、ゆっくりと、その場に崩れ落ちていく。
倒れていくその光景が、ラベンダーの目には、まるでスローモーションのように映った。
(だめ)
(ホワイト君が)
(せっかく、せっかくまた会えたのに・・・・・)
胸が締めつけられる。
視界がにじむ。
――怖い。
――また、失うかもしれない。
その恐怖が、ラベンダーの心を支配しようとした、その瞬間。
(どうか)
(どうか、お願いします)
(創造神さま・・・・)
(私に力を、貸してください)
ラベンダーは、祈った。
声にはならない祈りを、ただ、必死に。
そのときだった。
空が、歪んだ。
いや、違う。
空間そのものが、静かに裂けたのだ。
裂け目の向こうから、一人の女性が、ゆっくりと姿を現した。
その姿を見た瞬間、ラベンダーの瞳が、大きく見開かれる。
「・・・・・イオニーアさん?」
それは、いつも自分のそばで助言をしてくれていた、従者の姿だった。
だが――
その姿は、いつもとは違っていた。
認識阻害の魔法は使われていない。
ローブも纏っていない。
艶やかで、気高く、人ならざる存在であることを、否応なく感じさせる姿。
イオニーアは、倒れているホワイトに向かって、静かに左手をかざした。
次の瞬間――
ホワイトの身体が、白く光り始める。
傷ついていた肉体が、削られていた生命力が、まるで時間を巻き戻すかのように、急速に修復されていった。
「っ!」
息を呑むラベンダー。
そして、思わず叫んでいた。
「イオニーアさん!!ホワイト君を助けてくれて、ありがとう!!」
胸をなでおろしながら、しかし、どこか慌てたように付け加える。
「で、でも・・・その・・・イオニーアさんを見たら、ホワイト君が好きになっちゃうかもしれないから、は、早くローブを着てください!!」
その言葉に、イオニーアはわずかに口元を緩め、苦笑する。
だが、ローブを着ることはせず、淡々と、こう告げた。
「しばらく様子を見させてもらいましたが・・・・あなた方には、この魔物は、少々荷が重いようですね」
そして、小さく――
本当に、ラベンダーにだけ聞こえる声で、呟く。
「すべては、誇らしきご主人様のために」
次の瞬間。
イオニーアは、右手をゆっくりと掲げ、邪神へと向けた。
――ぎゃあああああああああああ!!
邪神が、悲鳴とも絶叫ともつかない声を上げる。
その巨大な身体が、見えない力で押し潰されるように、急速に圧縮されていく。
やがて。
そこに残ったのは、小さな、小さな、闇の玉だけだった。
イオニーアは、それを見下ろし、静かに呟く。
「削除するには、惜しい存在。今回も、封印に留めましょう」
そして、イオニーアの視線が、ふと、キースへと向けられた。
「ほう、珍しい。あなたの血筋には力があるようです」
その言葉の意味を、この場の誰も、まだ理解できていなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その光景を、少し離れた場所から見つめていた者がいた。
大地の勇者パウダーの従者――シェーラである。
先程までパウダーの側で従者として補佐をしていたのだか、急にその場を去り地上へ戻って来た。
(この少年では、ない)
シェーラは、はっきりと理解した。
今この瞬間、パウダーという少年から、「ご主人様である可能性」が、完全に消えた。
そして、黒い鎧の剣士――ホワイト。
彼が「魔法剣」を使うたび、その魂と魂が持つ魔力が減っていくたび。
――なぜかその魂が、“ご主人様のもの”に、近づいていく。
しかしホワイトなる者はご主人様ではないはずだ。
(なぜ?)
答えは、まだ出ない。
だが、確かなことが一つある。
本当のご主人様はパウダーではない、ということだ。
シェーラは、静かに決断した。
これからは、イオニーアと共に、空の勇者ラベンダーを守る。
それが、今なすべきことだと。




