第10話
シャドウたちはアリザリンの拠点を目の前にしていた。
岩山をくり抜いたような黒い建造物。
瘴気が薄く漂い、周囲の草木は生気を失っている。
「間違いない。ここが拠点だ」
最後の作戦会議が始まった。
話し合うべきは、アリザリンを討つためのチーム編成。
1つは、拠点に入り、直接アリザリンを討つチーム。
もう1つは、拠点の外で不測の事態に備えるバックアップのチームだ。
戦力の高い勇者たちが突入班になる。
当然、誰もがそう思っていた。
だが空の勇者ラベンダーが、静かに異を唱えた。
「私、外で見張りをします」
「拠点の外に出る魔物の迎撃と、後方支援を担当したいの」
その言葉に、場の空気が揺れた。
「ラベンダー! お前が突入しないでどうする」
空の勇者パーティの面々が説得する。
「あなたがいれば短期決戦になる。危険を減らせるんだ」
「背中は私たちが守る。だから――」
けれどラベンダーは、頑なに首を振った。
「いいえ。これは、私が決めたことです」
理由は言わない。
ただ、目を伏せたまま、その意志だけは譲らなかった。
その横で――大地の勇者パウダーの瞳が、妙に輝いた。
(・・・これで、俺が討てる)
そんな感情が透けて見えるほど、分かりやすい顔をする。
結局、突入班はラベンダーを除いた少数精鋭になった。
アリザリンを討つメンバーは大地の勇者パウダー、六武威弓騎士のミモザ、十賢者の一人ベルフラワーの3人となった。
「三人で十分だ。数が少ない方が、拠点の隙を突ける」
そう判断され、突入は三名に決まる。
ところが作戦会議はそれで終わらなかった。
パウダーが、やけに張り切った声で言い出したのだ。
「三人で動くなら、リーダーが必要だろ」
「当然、俺だ。俺が指揮する」
ミモザの方が経験豊富で、ベルフラワーも冷静な判断が持ち味だ。
周囲はそう思ったが――ミモザもベルフラワーも、あえて異を唱えなかった。
(いま揉めるのは得策じゃない)
二人がそう判断したのだと、シャドウは感じた。
満足げなパウダーは、会議を締める。
「よし、行くぞ!」
意気揚々と、パウダーはミモザとベルフラワーを引き連れ、アリザリンの拠点へ忍び込んでいった。
外で待機する者たちは、じっと拠点を見つめる。
空の勇者ラベンダーも、拠点を見ている。
だが時折、彼女の視線が“黒い鎧の剣士”へ流れていることに、周囲はうっすら気づき始めていた。
最初に気づいたのは聖女ケイトであった。
もともとシャドウのそばにいたが、同じ女同士、その視線をむける様子にすぐ気づいたようだ。
ただ、聖女ケイトはこう考えた。
さすが、ラベンダーさま。
シャドウ様の身体の異変にきづいて、心配されているのね。
なんて慈悲深い方なんでしょう尊敬しちゃうなあ、と。
まさか空の勇者ラベンダーが名も知れぬ剣士に恋の視線を向けているとは。
聖女ケイトは思いもしなかった。
だって2人は釣り合いが取れていないから!!!
そのときだった。
空気が、ざわりと歪んだ。
次の瞬間、拠点の上空から、禍々しい魔力の波動が放たれた。




