第6話
こんにちは。お元気にしていましたか。
クラレットです。
勇者の認定式から半年が経ちました。
あのことがあって以来、ぼくもショックだったしラベンダーはもっと大変でした。
ラベンダーは一週間目を覚まさず、目覚めてからも精神的なショックで体調を崩し、とても旅に出られる状態ではなかったのです。
ぼくもぼくで、自分がゴールド王国の正統な血を受け継いでいる「王子」であるということを明かされました。
直前にホーネントさんに言われてなかったらもっと混乱しただろう。
でもなんで知っていたのかな??相変わらず不思議な人だ。
さらにホーネントさんは、こう言いました。
「もっと驚くことを知っていますが、知るべき時がきたら教えます」
これよりも驚くことがあるの?!こわいよ逆に。
知りたいような。知りたくないような。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、ぼくは色々考えて、ゴールド王国の王太子の座につきました。
母にあたるゴールデア女王陛下の意向はもちろんですが、国民も賛成してくれましたし、精強六武威の皆さまも推してくださった。
だからこそ、ぼくは王太子として、まず最初に「勇者ラベンダーの休養」を強く求めました。
ラベンダーは休養の甲斐もあって、半年ほどしてようやく体調を取り戻し、勇者として旅に出られるようになりました。
まだ黒い目がうつろだったような気がしますが、仲間の紹介にもきちんと対応していたし大丈夫だと思いたい。
一方で、ぼくはウィスタリア聖教国第三騎士団の団長を辞しました。
残念だけど、一国の王太子になった以上、仕方がないと思ったのです。
そして黄金の「精強六武威」の席の座も辞しました。
本当に残念だけど王太子になったのだから仕方ない・・・・・・
ただ、逆に前線へ出る機会が増えました。
精強六武威と同等の力をもつ王族なんてそうはいないし前線にでれば兵士の士気もあがる。
ぼくだったら前線でもそう魔物にやられることはないし、なにより魔王率いる魔族の脅威は深刻です。
ぼくは「戦う王太子」としてゴールド王国に貢献することになりました。
人々はぼくのことを英雄であり王太子であることから「英太子」と呼ぶようになったそうです。
また2つ名をつけられたことを知ったときは苦笑せざるを得ませんでした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王太子になった以上、婚約、あるいは結婚も求められました。
母であるゴールデア女王陛下にも縁談は絶えず来ていたらしいです。
そりゃそうか。
女王の王配という地位は大変魅力的だろうし女王陛下は三十を過ぎているはずなのに少女と見まがうぐらい年若く見える。
だけど国益になる条件の男性がいなかったそうで、ずっと独り身だったらしい。
そして、ぼくにはそのようなことがないようにと、すぐに縁談が整えられました。
お相手は、クラウド王国のセピア女王陛下。
女王なのになぜ他国の王太子と婚約するのだろう、と不思議に思っていたのですが、先日ぼくがクラウド王国へ遠征に行ったときに、一目惚れしたのだそうです。
クラウド王国は聖教会の影響下にある国で、ゴールド王国とも友好的。
だから国益としては問題ない、と。
ただ――女王陛下が退位してぼくと一緒にゴールド王国へ来るわけにはいかない。
次の王位継承者がまだ六歳で、その子が成人して王位を継ぐまでは、女王のままでいることになったそうです。
ちなみに、ぼくとの婚約はクラウド王国の国民も歓迎しているらしい。
遠征では、ぼく自らが剣をふるって魔物の群れをなぎ倒していく様子を国民が目の当たりにしていたそうで。
その姿が「おとぎ話の英雄みたいだった」と言われたときは、正直、照れました。
こうしてぼくは異例の早さで婚約を結ぶことになり、婚約者となった以上、クラウド王国にも足しげく通うことになりました。
侍女たちからも好意的に見られている。
もちろん、女王からは言うまでもなく。
幸せを感じます。
だけど幸せだからこそ、ぼくの大切な幼なじみを失ったことが、悔やまれて仕方なかった。
・・・・・・・・・ホワイト。
本当に君は死んでしまったのかい。
まだ信じられない。
なぜかわからないけど、どこかで生きているような気がするんだよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シャドウ。
現在、大地の勇者パウダーのパーティの一人として旅に同行する黒い鎧に身を包んだ剣士。
シャドウがパウダーの前に姿を現したのは、空の勇者ラベンダーの認定式から少し経ってからのことだった。
実はシャドウは、ある事件の後遺症のため手足が動かせなくなった。
そのため荒療治として、体内の魔力を操作し、手足を無理やり動かしているに過ぎない。
その魔力操作は、事件が起こった場所から遠くはなれたフクシア神教国内のある場所でたまたま出会った龍族の女性から教わった技術だった。
出会ったときの彼は瀕死。
まさしく死にかけだったと言っていい。
なぜ遠く離れた場所に、瀕死の状態の彼が移動できたのか?
それは、シャドウが転移する魔道具を身に付けていたから。
だが本人はそのことを知らない。
意識ももうろうとしていたので、自分が遠く離れた場所へ転移したことにも気づいていなかった。
そこを通りかかった龍族の女性、ナイルというが、ナイルが瀕死の状態のシャドウを発見し、看病した。
そして手足が動かせないことに気づいたナイルが、シャドウの体内にある魔力を引き出して魔力操作や魔力制御の仕方を教え手足を動かせるまでにしたのだ。
そのときナイルは気づいた。
この者は、魂に宿る魔力が暴走していることが原因で魔力が使えなくなっていることに。
さらに、いくつかの認識阻害魔法を使用した状態にもなっているが、解除は難しそうなので解除はしないでおいた。
そして魂に宿る魔力の暴走の影響をうけない分の魔力を体内から引き出すことにしたのだ。
こうしてシャドウは、傷ついた身体を癒し、魔力制御により手足を動かせるようになってから、ナイルの助力を得てフクシア神教国内のウェッジの村へたどり着くことができたのだ。
そのころには、わずかとはいえ魔法まで使えるようになっていた。
以前は全く使えなかったというのに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シャドウである僕がウェッジの村にやってきた当初、村の人からは怪訝な目で見られた。
しかし、もともと温和な性質であろうか。
無害だと分かってからは、次第に親切にしてくれた。
住むところを与えられ、仕事を与えられ、村で暮らしていけるように取り計ってくれたのだ。
礼を言うと村の人は「すべて創造神さまの思し召しです」と笑顔で応えてくれる。
僕はそんな村人に少しでも恩を返したくてパウダーが自分を旅に同行し力を貸せと言われた時もすんなりとついていくことにした。
勇者パウダーは、少し独りよがりなところがあるが正義感が強く、民を助けようという気持ちが強い。
だけど、僕のことが気に入らないのか、なにかにつけて突っかかってくる。
そんな付き合いにくいパウダーと違って、スレートは僕にも丁寧だった。
スレートはウェッジの村では孤児だったそうだが、体格もよく、重戦士として敵をひきつけパーティに危害を加えないようにするスキルをもっている。
盾担当としての力量は高いと僕はみている。
次に聖女ケイトだが、彼女は大変勇敢な女性だ。
いきなり町にやってきた我々に対し親切に対応してくれ、さらには魔王討伐の旅にも同行してもいいという。
たとえ、聖処女神エリューシオンさまからのお告げがあったにせよ聖女というものはその心も大変清いものだと思い知らされた。
そして聖女ケイトはこんな僕に対しても、身体が十分に回復していないことを見抜き治療することを申し出てくれた。
その気持ちはうれしかった。
だけど実は、この身体は自業自得なのだ。
ある事件をきっかけに、僕はさらなる力を望み、ナイルに頼んで龍族に伝わるある技を使えるようにしてもらった。
その技は強力だ。
強力過ぎるんだ。
強力すぎるその技は、人族にとっては禁断の力と言っていいほど。
僕はその禁断の力を手に入れた。
だが副作用は大きく、戦う力を得る代わりに寿命が短くなった。
それもそのはずでこの禁断の力は人族の生命力を消費して得られるものだったのだ。
だから僕は聖女ケイトの申し出に感謝しつつも断った。
ケイトも何か事情を察したのか、それ以上は何も言わないでいてくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
旅の途中、僕はスレートと一度だけ夢を語り合ったことがある。
久しぶりの町に到着した夜、唯一の酒場に入った。
温かいご飯に夢中になって食べたり飲んだりでいい気分になったころ。
パウダーもケイトもテーブルで眠りこけていた。
僕もそろそろ2人を部屋に連れて行こうかと考えていた時、不意にスレートが話しかけてきた。
「なあなあ、シャドウ、君には夢があるかい?」
「夢というほど大層なものでなくてもいい。例えばこの旅が終わったらしたいこととか、叶えてみたいことってあるか?」
黙って聞いているとスレートは続けた。
「ボクにはある。それも途方もない夢さ」
「ボクはね、自分が孤児だったろう。だから孤児が不当な暴力や理不尽な目にあわない、立場の弱い人をしっかり保護する国を造ることが夢なんだ」
だいぶ酔っているなと思った。
でも僕は黙って聞いた。
立場の弱い人を保護することは必要なことなんだろうけど、多くの国ではそれが実行できないでいる。
ということは、実際には難しいことなんだろう。
「なあ、シャドウ。ふふ、何を言っていると思ってるだろう?そういう表情をしているもの」
「でもいいんだ。どう思われたって。ボクはボクの信念で生きるんだから」
「ねえ、もし君にやりたいことがなければボクの手伝いをしてくれないか」
「もちろんパウダーやケイトも誘ってさ。みんな孤児だから、きっとボクの考えに賛同してくれると思っている」
そう言ってスレートも寝てしまった。
眠気の限界がきたのだろう。話のあいだもまぶたが落ちそうだったもの。
仕方なく僕は3人を部屋へ連れて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この時パウダーの従者をつとめていたシェーラは誰にも聞こえない声で、こう言った。
「そんな理想的な国をつくろうだなんて子供みたい。でも、嫌いじゃないわ。そういうの」
「変ね。ご主人様以外の人族に私が興味を示すだなんて」
そう言って口元に笑みを浮かべるのだった。




