第2話
ウィスタリア聖教国第二騎士団団長、ヘリオトロープだ。
いま、俺は自身のふがいなさを恥じるとともに、一人の部下が示した勇気と覚悟の重さに、胸を締めつけられている。
あのとき――
第二騎士団は、魔物の大群を相手に善戦していた。
堅固な城壁を盾とし、交代制の戦術を徹底し、犠牲を最小限に抑えながら、防衛拠点を死守していたのだ。
だが、想定外が起きた。
防衛の要であった城壁の一部が、轟音とともに崩れ落ちた。
あの瞬間、この拠点は突破される――
そう覚悟した者は、俺一人ではなかったはずだ。
城壁を失えば、人族と魔物の力の差は埋められない。
ここを抜かれれば、国都、ひいてはウィスタリア聖教国そのものが危機に陥る。
そのときだ。
ある団員が、前線から一人、魔物の群れへと突撃していった。
腕には、禁忌とされる自爆用の魔道具。
命と引き換えに、周囲すべてを巻き込む最終手段。
止める間もなかった。
次の瞬間、地を揺るがす大爆発が起きた。
眩い光と衝撃が走り、魔物の群れは、その中心からごっそりと消え失せた。
残った魔物は、指揮を失ったかのように統率を乱し、我が第二騎士団と、北を守っていた第一騎士団の連携によって、すべて討伐された。
ほどなくして、第一騎士団団長から連絡が入った。
――北の魔物の群れも、退いた。
ウィスタリア聖教国は、救われたのだ。
間違いなく、その引き金となったのは、あの一人の団員が起こした大爆発だった。
たしか・・・・名は、ホワイト。
それが、俺の記憶に残っている唯一の情報だ。
戦闘が終結したあと、宮殿へ提出された戦果報告書を、俺は目にした。
そこには、こう記されていた。
「第二騎士団所属騎士一名、戦死」
それだけだ。
名もない。
行動の詳細もない。
なぜその選択をしたのかも、書かれていない。
紙切れ一枚で、すべてが終わらされていた。
俺は、その報告書を強く握り潰した。
「・・・・・・ふざけるな」
命が、
覚悟が、
ただの数字で片づけられていいはずがない。
だが、宮殿は静まり返っていた。
まるで、最初からこの結末を織り込み済みだったかのように。
自爆をしなければ、防げなかった。
その事実は、俺たち指揮官の無能を、はっきりと突きつけている。
部下の命を捨て駒にしなければ成り立たない戦いなど、あってはならない。
あっていいはずがない。
俺は誓う。
二度と、部下にあのような選択をさせない。
そのために、訓練を重ねる。
戦術を磨く。
国に頼らずとも、部下を生きて帰す戦い方を、必ず見つけ出す。
名も残らなかった一人の命を、無駄にしないために。
その誓いを胸に刻みながら、俺は再び、剣を取った。




