第2部 大地の勇者はかく戦えり 第1話
「すまないが、あなたを愛することはできない。白い結婚を貫きたい」
新婚の初夜のベッドで待っている私に対し、このような無慈悲な言葉を吐いたのはゴールド王国の王太子殿下でした。
新婦の私をまえにしてよくそのような言葉を吐けたものですね。
私はゴールド王国の貴族の令嬢。
王族の要請で王太子と婚姻を結び、子をなすために初夜にベッドの上で王太子殿下をお待ちしていました。
しかし、王太子殿下はそんな私に対し、さきほどのセリフを言い放ったのです。
この時から王太子殿下に対する愛情はなくなったと言っていいでしょう。
翌朝。
王太子殿下は妻である私をともなって親であるゴールド王国の国王陛下と王妃殿下のもとへ参上しました。
私は、婚姻関係を破棄してくれたらいいなと考えていましたが甘い考えでした。
王太子殿下はさらに頭がお花畑のようなことを言ったのです。
「父上、母上、私には愛する方がいます。身分の壁があって結婚と言う形をとることはできませんが、その方とは魂でつながっています。そしてその方は私の子をすでにみごもっているのです!!!」
このあとは、私自身も義理の両親であるゴールド王国の国王陛下も王妃殿下もそばにいた侍従も阿鼻叫喚の嵐でした。
そんななか、王太子殿下は毅然とした顔と姿勢で罵詈雑言を受け止めていたのです。
王太子殿下は無駄に顔の良い方でした。
燃えるような赤い髪と真っ赤な瞳をしています。
この容姿はゴールド王国初代女王から続いた王族の証といえるもの。
私はその横顔を見ながら無駄にかっこいいなあと思いながら、王太子殿下の決意が固いことを悟ったのでした。
その後。
王太子殿下の思い人である令嬢は子供を産み落とすのを待ってから処断されたらしいです。
子供の行方は知らないほうがいいと国王陛下からは言われました。
王太子は国の法を犯したものとして国王陛下自ら罰をくだし離宮にて幽閉。
数年後には病死と発表されました。
結婚は創造神さまとの契約と言う形をとっておりそれをないがしろにするものは王族であっても厳しく罰せられることになっていたのです。
国王陛下と王妃殿下は息子に処罰を下したもののそれが原因なのか2人ともに体調を悪くされ、引退を余儀なくされました。
そして次の後継者としてなぜか私が選ばれたのです。
私が王太子妃として選ばれた理由の1つに王家の血筋を引いているということが大きかったらしいのです。
万が一のときには女王としてたつことが可能だから。
そしてその万が一が起きてしまい、私は若くしてゴールド王国の女王に即位することになりました。
名もいままでの名をすてゴールデア女王と言う名を受け継ぐことになったのです。
しかし、こんな無茶がまかり通るのも実家の力は言うまでもないことですが、ゴールド王国独自の事情も大きく関係していました。
ゴールド王国には人族だけでなく魔族、龍族、エルフ族、ドワーフ族に獣人族とあらゆる種族が暮らしているのでその種族の意向は無視できません。
近年、他種族の影響が大きくなりこの際積極的に取り入れようとする推進派と、それに消極的な保守派に分かれて派閥争いが起きていたのです。
我が家は推進派。
推進派の家と王家が結びつくことで融和を示すための政略結婚だったのです。
それをぶち壊しておしまいになった王太子は王国の繁栄のために切り捨てられたといえるでしょう。
それに、この王国をとりまく中央平原の情勢は非常に厳しいのです。
つねに魔物との戦いを余儀なくされており、その魔物は無尽蔵にわいてくる。
魔物は瘴気から生まれてくるのです。
瘴気は中央平原のいたるところから発生し、それに比例して魔物がはびこると言っていい。
幸いにして、同盟国のウィスタリア聖教国には「ウィスタリアの剣」とよばれるほど強い戦士が現れたので救援としてきてもらいゴールド王国周辺の魔物を黄金の精強六武威とともに討伐してもらいました。
精強六武威とは、その名前のとおり六人の武威をしめすほどの武人がいて、ゴールド王国と聖教会にとっては守護神のような存在です。
国の平和と安全を守ってきたのが精強六武威なのですが、近年といっても100年前ですが、六人のうち魔族であった2人がゴールド王国とは別行動をとりだしたのです。
どうやら魔族だけの国を興そうとしているようです。
それに対して猛烈に反対の意を示したのが聖教会とそのトップである教皇だったとか。
さらにさらに、実は教皇は龍族であり、数少ない龍族をまとめる龍族の長でもあったのです。
そして、その教皇が魔族の2人に対し敵対することを宣言しました。
それに対抗して2人の魔族は魔王とその側近として名前をかえて聖教会とゴールド王国に反旗を翻したのです。
困ったことに、六武威は4人に減りましたのですぐさま補充する必要が出てきました。
そこで近年勇名を馳せる「ウィスタリアの剣」の2つ名を持つクラレットと言う少年を六武威に入ってもらうよう打診することにしました。
幸いクラレットからは快い返事をもらえました。
なので王城へ勇者殿とともに来てもらうことにしましたが、なんと託宣の巫女からはこのクラレットこそが15年前に捨てられた王太子が本当に愛した方との間に生まれた子というではありませんか。
私はずっと探し続けていました。
きっとどこかで生きていると信じて。
王太子殿下もその愛する方も死んでしまったけれど、その子は多分生かされているのではないかと思っていたのです。
15年間ずっと我が子と思い探し続けてきましたので、たとえ私自身が生んだ子ではなくても我が子同様に思っております。
そしてゴールド王国の正統な血筋をもった王子であることには違いありません。
だってあの方と同じ赤い髪に赤い目なんですもの。
この話をわたしは愛する我が子クラレットと新しく空の勇者となったラベンダー嬢に聞かせていました。
その間私は何度も涙を流しました。悲しかったため、嬉しかったため、そして辛かった15年間のために。
私はクラレットにお願いしました。
もうどこにもいかないでほしい。側にいてほしい。そしてこのゴールド王国の王太子となってほしいと。




