第10話
第二騎士団団長ヘリオトロープだ。
現在、第二騎士団は南の防衛拠点にて大量の魔物を相手にしている。
いま、団員たちは魔物相手に激戦を繰り広げており、俺はその指揮をとっている。
「そっちへいったぞ!!気を抜くな!!!」
「周りを見て連携しろ!!ケガをしたものは様子をみながら退避させ、速やかに手当を受けさせろ!!!」
「ぎゃおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ぐおおお!!。離しやがれ、この馬鹿力め!!」
妙だな。
この魔物たちは本能のままにおそいくるのでなく、何者かの指示で動いているような統率された動きをしているのだ。
なぜなら魔物のほうでもけがをして動けなくなると後方へ移動し元気な魔物が前線へ出てくるという行動をとっているからだ。
このような行動は本来の魔物の行動としてはあり得ない。
まるで第二騎士団のように入れ替わり立ち代わりで、休みなく防衛拠点の城壁を攻め続けてくる。
第二騎士団の面々も最初は偶然かと思っていたが、1昼夜がすぎ、2日目にはいってもなお、前線に出てくるのは、いつも傷一つない魔物ばかりだった。
それを見て、俺たちは最悪の予想が当たり始めていることを実感していた。
魔物は強力な膂力があり魔力をまとっているが本能のままに動くので、人族でもなんとか撃退することができたのだ。
それなのに、魔物が本能を抑え集団として行動してきたら人族に勝ち目はあるのだろうか??
俺は脂汗を流しながら最悪の事態に備え打開策を考えていた。
現在は第二騎士団も堅固な城壁と巧みな戦術をないまぜにして互角の戦況を保っている。
しかし、ギリギリの綱渡りのような攻防であることをヘリオトロープは感じているのである。
なんとか犠牲を最小限に抑えつつ、防衛を維持すれば1週間ほどで第三騎士団が救援にかけつける予定だ。
いまは、耐えるしかない。
それは同時にウィスタリア聖教国を守ることにもつながるのだから。
俺は頭を冷やすため、一度前線への見回りをしようと考えた。
見回りの途中、ふと思い出したことがある。
先日、宮殿にあがったおりのことだった。
一人の上級神官に呼び止められたのだ。
上級神官が騎士団の私に何の用だろうと思って話を聞くと、内容はとてもくだらない事だった。
「第二騎士団員のホワイトというものが、第一騎士団副団長のラベンダー様と親密な関係を持っているようなウワサを聞いたがどうなのか」
「我々の大切なラベンダー様に変なウワサを立てるような真似をして困らせないでいただきたい。この卑しい平民風情が!」
俺はそれを聞いてめまいがするほど腹を立てた。
若い2人が惹かれあうのを励ますどころか呪いの言葉を吐くとは何事か。
だいたい、俺は軍事の専門家だ。色恋沙汰にかまけている余裕などないのだ。
物資もろくに補給してくれない宮殿の連中の、平民を侮辱する発言をきき、余計に腹が立った。
しかし、ホワイトといったか。
たしか第4小隊に所属していた騎士であったと思うが、これほど高位のものから嫉妬と妬みをうけるとあらば思わぬ危険を招くかもしれぬ。
俺はそう考え、少しばかりの危惧を覚えた。
そしてまだ上級神官からの罵倒は終わっていなかった。
「実力もないくせにラベンダー様に取り入り、媚びるしか能のない騎士団など魔物に滅ぼされればいい」
フンと見下した表情で上級神官は言ってはいけない言葉を吐いた。
おもわず上級神官にむかって剣をぬくところだ。
まあ、俺の殺気をかんじて逃げていきはしたが。
そんなことを思い出しながら前線をまわり、その後本部へ戻った時、副官から報告があった。
「団長、宮殿のほうから法具が届いたようです。遠慮なく使ってほしいと。これで国をまもってほしいという伝言つきであります」
法具とは、魔道具のことを指し、腕輪や指輪のような装飾品の形をとっており、身に付けると身体能力や魔力など能力をあげる力をもつものの総称だ。
もちろん、ウィスタリア聖教国の宮殿内にも多くの法具、もとい魔道具が保管されている。
めったに貸し出すことなどない宮殿が、こんなに素直に寄越すのか?
一瞬、そんな考えがよぎったが、今は疑っている暇はない。
このような国の存亡の危機において頭の固い神官たちもようやく騎士団に魔道具を与えて国を守らせる必要があることに気づいたのだろう。
俺はそう解釈してすぐ副官に必要な魔道具を前線の騎士たちに配るように命令を下した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いま、僕は前線で虎型の魔物と対峙している。
2時間全力で魔物の攻撃を防いだら、退いて後ろに待機している団員と交代する手筈なのだ。
この戦術を考案したのが第二騎士団団長ヘリオトロープ様だ。
本当にこの戦術はすごい。この戦術のおかげで第二騎士団は戦ってこれたと言える。
この戦術と騎士団の実力、そして第二騎士団団長ヘリオトロープ様がいれば魔物の大群も防げるに違いない。
僕は心の底からそう信じて戦っていた。
「そろそろ、交代していいぞ。うしろへさがって休憩するんだ!!」
後ろにいる団員が僕に大声で交代をうながしてきた。
僕はその声にしたがい、周囲に合わせながら後退し安全なところまで下がって休憩に入った。
ふぅ、なんとか自分の与えられた役目を果たせたようだ。
休息のとれる広場へ足を向けるとそこにいる同僚から水の入ったコップをもらい、一息つく。
やっと落ち着いた。
全身から冷えた汗を感じ始め疲労が鉛のように重くのしかかって来た。
僕は生きている実感をようやく感じることができ、壁にもたれて体を休めた。
そのとき、なにやら向こうから声が聞こえる。
副官様がわれわれに命令を下していた。
「これから宮殿より貸与された魔道具を配布する。各人、戦いにでるときは魔道具をつけてから魔物と戦うように」
ありがたい。
魔道具をつけて戦いにでるのであればより生存率はあがるだろう。
そう思い、僕は魔道具を配っているところへ向かおうとした。
すると、以前から僕に、いやみばかりいってくる先輩が僕の目の前にやってきた。
うわ、まじか!!
普段ならともかく、いまのような実戦に出て疲れているときにこのいやみな先輩の相手はつらい。
そう考えていると、案に相違していやみな先輩がにこにこと笑顔で手に持っている魔道具を僕に差し出してきた。
「おお、ちょうどいい。あちらまでいかなくてもお前に渡してやるよ。ほら。魔道具。この魔道具をしっかりつけて戦えよ」
そう言ってにこにこ話しかけてきたのだ。
ものずごく違和感を感じるが僕はホッとして魔道具を受け取り、それを身に付けた。
そのとき、ほんの一瞬だけ、胸の奥がざわついた気がした。
いやみな先輩は僕が魔道具をしっかり身に付けたことを確認してから「じゃあな」といって去っていった。
なんだろう。
いやみを言わないなんて。
今はそんな事態じゃないってことを理解しているからかな??
僕は変なことに巻き込まれなかったことに感謝して休憩をつづけた。




