第9話
ここからは蘭語で話すと前置きして、ウィレムが惣兵衛の話を繰り返す。
ディエゴは俯いたまま、話を聞いているのか終始薄ら笑いを浮かべている。
だが話が進むにつれ、その眼差しに光が戻り、時折蘭語で短い言葉を挟んでいく。
突然、ディエゴが激しく立ち上がって椅子が倒れる。
大声をあげて詰め寄るが、ウィレムが小声で話を締めくくると、ディエゴは力が抜けたようにその場に崩れ落ち、胸の十字架を固く握りしめて小さな祈りを呟き始めた。
いつ降り出したのか、玻璃の窓に雨粒が当たる音だけが聞こえる。
こつん、こつん。暗くなった室内に杖の石突きが硬い床を叩く音が響く。
リュウ・ジンはゆっくり近づくと、祈り続けるディエゴの肩に優しく触れる。
「パードレ、あなたの話を聞かせてください」
商館員の手で灯りがともされる。
ディエゴ・フェレイラ神父が語ったのは、驚くべき話だった。
ひと月ほど前。
激しい野分が九州を襲った夜、有明沖で南蛮船が座礁した。
地元の漁夫らの知らせを受けた鍋島藩の代官が立ち入り、生き残った十一人の南蛮人を保護したのだが、彼らが切支丹だとわかると事態は一転。
幕府との軋轢を恐れた用人たちの進言を受け、藩主の鍋島光茂は密かに全員を斬首するよう命を下す。
空には白露の月が青白く輝いていたという。
それから数日後、集落から外れた場所に居を構える漁師の一家が行方知れずに。
裏の道具小屋には南蛮の木棺が捨て置かれていたが、棺には内部からこじ開けられた形跡があった——。
ウィレムが惣兵衛に尋ねる。
「鍋島で遊廓の大夫が殺されたのは——」
「秋分の夜だったと聞いています」
「鍋島に、化け猫が辿り着いた夜、か。いや——」
武州はディエゴに確と目を向ける。
「化け猫ではないのだな」
読んでいただきありがとうございます。
今回短くてすみません。どうしてもここでカットを変えたかったので——
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