第2話
浪人は一瞬で三間も飛び、身体をくの字に曲げたまま微動だにしない。
目線を戻すと、いつの間にか大男の手には浪人の刀が収まり、その切先はひたと頭目の首元に向けられている。
「…っ!」
静まり返った街道に、鳶の鳴き声が響く。
大男はゆっくりと刀を下げ、
「火の粉が舞えば……払うぞ」
とだけ言うと、再び西へと歩き始める。
この僅かなやり取りでびっしりと汗をかいた浪人たちだったが、男が投げ捨てた刀の音で我に返り、三人同時に斬りかかる。
最悪の結果を思い浮かべ、思わず目を瞑る惣兵衛。生木を割くような音やくぐもる呻き声が耳朶で木霊する。
ゆっくりと目を開けると、そこには樫の巨木が立っていた。
風が吹き、巨木の袖を揺らす。
ぼきぼきと左右に首を鳴らし、襟を直すと、静かに歩き出す男。
その足元で身動ぎもしない浪人たち。
一拍遅れて惣兵衛が声をかけ、後を追う。
「お侍さま、お待ちください」
小走りで男の前に周り、深く頭を下げて、
「有難うございます。私めは鍋島の商家、山崎屋惣兵衛と申します。ぜひお礼を…」
男は、それに目もくれず歩み去る。
「それでは私の気が済みません。看板に懸けましてもお礼…」
「いらん!」
「お待ちください!」
やっと追い付いた手代の一郎太が、
「命の恩人を手ぶらで返したとあっては……山﨑屋の名折れでございます。おみ足にしがみついてでも、主人の話を聞いていただきます」
と覚悟を決めた表情でにじり寄ると、
「わかった、わかった……小便臭い、寄るな!」
やれやれといった表情で手を振る大男。どこか愛嬌のあるその表情に惣兵衛は思わず笑みを浮かべ、
「改めまして、山崎屋惣兵衛です。これは手代の一郎太。お侍さまは?」
「……武州」
「失礼ですがご家名は——」
と惣兵衛が尋ねると、頭を掻きながら、
「武州。今は、ただそれだけだ」
とぶっきらぼうに言い放つ。
「武州さま、兵庫津の宿で一席設けさせてくださいまし」
「オイラが先に宿に話をつけておきます!」
と走り出す一郎太に、先に着替えるよう諌める惣兵衛。ふたりの気心知れたやり取りに口元が緩む武州に、すれ違う旅人たちも笑顔で頭を下げる。
西宮宿の外れ、鍋島まで百八十里。白い雲が蒼天を流れて行く。
秋風が吹くたび、三人の歩みは自然と揃っていった。
読んでいただきありがとうございます。
初執筆、初投稿の第2話です。
タイトルいじってみました。「インディアナ・ジョーンズと魔宮の伝説」っぽく。笑
武州は、三船敏郎とアーノルド・シュワルツェネッガーを足したイメージです。
キャスティングするとしたら——室伏広治一択です(断言)。
その他のキャラのイメージもぼちぼち書いていきます。
引き続き10話まで毎朝8時に更新予定です。
よろしくお願いいたします。
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