表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

第1話

江戸時代の始め、三代将軍徳川家光の治世。

肥前鍋島の城下に「化け猫が出た」と噂された。

藩主の正室を食い殺し、家臣を次々と血祭りにあげ、幼子を攫って喰らう——

その禍は歌舞伎や講談の題材となり、「鍋島の化け猫騒動」として今に語り継がれている。


だが、それは幕府の意向で黒塗りされた表の歴史に過ぎない。

最早誰ひとり語ることのない真実、それは——、





「担いだ荷と懐の銭を渡せば、見逃してやろう」


ここは西国街道——京都と下関を結ぶのちの山陽道。西宮の宿場から五里ほど離れた辺り。半年に一度の京都での商いを今回も無事に終え、鍋島への帰路に着く商家の主人、山崎屋惣兵衛。五十路も半ばとなり好々爺然とした惣兵衛と若い手代の一郎太を、どこか酒臭い四人の浪人姿の男たちが取り囲んでいる。一郎太は惣兵衛を庇うように前に出て震える手で道中差を構えるが、一太刀で道中差を弾き飛ばされると尻を突き、後ずさりしてしまう。

「見逃すのは爺いだけでもいいんだぜ」

下卑た笑い声を上げながら、これ見よがしに白刃を振り回す髭面の浪人。一郎太の尻の下にじわりと水溜りが広がるのを見て、浪人たちの嘲笑が街道に響き渡る。


道行く旅人たちは騒ぎに巻き込まれるのを恐れ、街道の両側一町ほど離れた場所に固まって様子を伺っている。その囀りを耳にした浪人衆の頭目が眉をしかめて周囲の様子を伺ったその時、旅人たちの一団が、すうと左右に割れた。


裂け目の奥から、春の空を押し上げるような大男が現れる。


刀を手にした浪人たちが道を塞いでいるにも関わらず、春の穏やかな陽の下で散歩をするように自然体で歩く男。身体も、腕も、拳も、足も、並外れて大きなその男の身のこなしは臆病な猫のように滑らかで、不思議と風の音はするのに、その歩みにだけ音がない。

近づいても歩を緩めるでもなく、目線を向けるでもなく、ただ無心に通り過ぎようとする大男を、見惚れるようについ目で追ってしまう浪人たち、そして惣兵衛たち。


真っ先に我に帰った頭目が慌てて大声を出す。

「おいてめえ、舐めてんのか!」

その声に反応して配下の浪人たちも口々に叫びながら白刃を大男に向ける。

「止まれ!」「おらっ!」


大男は立ち止まり、ようやく気づいたかのように辺りをゆっくりと見回す。

面白そうな表情で見つめる惣兵衛と目が合うと、少し驚いたように左の眉を上げるが、再び浪人たちに目を向けると、ため息と共に静かに一歩を踏み出す。

後退りしながら刀を構える浪人たちのひとりが刀を上段に構え、

「叩っ斬って……」


言い終わる前にその身体が吹き飛んでいた。





読んでいただきありがとうございます。

初執筆、初投稿です。

勢いで10話まで書いたので、最初の10話は毎日更新します。

毎朝8時に更新予定です。よろしくお願いいたします。


カクヨムでも同時掲載しています。

https://kakuyomu.jp/works/822139841117934666


フォロー、応援、コメント等頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
映画のオープニングみたいです。 続きに期待です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ