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第5話 新たな道


第5話 新たな道


雨季が去ったこの村の朝はとてつもなく気持ちの良い朝だ。


「テオ殿、今日作業が終わる予定だ」

そう報告してきたのはオーク兵長だ。


「ソルジャー!今日までありがとう」

そう言って朝食を食べ終え家から飛び出した。



魔族の支配に打ち勝った村との噂はどうやら各国に瞬く間に広がり、

土地の条件も良く、安全なため、村はすぐに今まで以上の活気を取り戻した。


テオの交渉術で、秘伝のブドウとブドウ酒の作り方を交渉材料に、

道づくりをモンスター達に手伝ってもらう事になった。


「よう、若大将!あとは境界線に杭を打ったらこの道作りもおしまいだ」

そう話すのはオークキングだ。


「忘れてないだろうな?俺との約束」

「わかっている大将。珍しい酒、たくさん仕入れてくる」

「おーうわかっているじゃねーか!楽しみだな」


これが、おそらくこの世界の歴史で初めて行ったモンスターとの交易だ。

…たぶんね。


そうして、俺たちは開通した道に馬車を走らせ、隣の街へ行商に行った。

「帰ってくる頃には全部終わってるぞきっと」

と言ってオーク達が見送ってくれた。


街への道が開通したら、次は港への道だ。

港であるエニール港から隣街のスエレドの街までの道が2つに増えるのだ。


きっと想像できないほどの人が来るに違いない。あ、宿が足りないな。

「アムリ!宿と料理屋を増やそう!あとで村長のところへ交渉だ!」


そして1か月が経過し、港までの道も開通した。


「大将、今までありがとう!森に入れないよう君たちが手伝ってくれたくい打ち。そして、

この森に入った人間は無条件で襲われる。と書いた看板も作ったし、

これで森では平穏な生活が送れるだろう」


オークとゴブリンの絵も入れた。

これを見て立ち入ろうとする人間はいないだろう。


「お安い御用だぜ、若大将。

これからも何かあったら呼んでくれ、こっちも困ったことがあったら呼ぶからよ」


そうしてオークキングと硬い握手をした。手が握りつぶされそうだった。


「スライム達!思えば何もかも君たちのおかげだ!」

「たいしたことないップ。平和に暮らすためだッペ。レッツスローライフッポ」


「ははは、なあ、君たちに俺から名前をプレゼントしていいか?」

「名前ップ?全然かまわないップ」


「手前から順に、ユノス、ウルス、シャール 頭文字をとって、お前たちは勇者だ!」


「変な名前ッペが、一応もらっとくッペ」


そう言って俺は3人に3色の手作りのネックレスをプレゼントした。

またもや勇者の3人は不思議像な顔をしていた。


「じゃ、また遊びにくるッポ テオばいばいッポ~」

そうして小さな3人の勇者は森に帰っていった。


不干も条件とした今回の約束だが、人間には足りない部分をモンスターが、

モンスターが足りない部分を人間が補い、村の発展は恐るべき速さで進んだ。


彼らに手伝ってもらって改めてモンスターの数の多さを実感した。

あれだけの数が生活するのに、やはり広大な面積が必要だと思った。


そして、賑わい始めたこの村も、半年もしないうちに、町と呼ばれるようになった。


「いや~もうそろそろ冬だなテオ、冬支度しないとな」


俺たちは町の枯葉をホウキで集めていた。すると

「町長さんはどこかね」と尋ねられた


「い、一応俺が町長だ」


今回の功績でテオは町長に任命された。

肩の荷が下りた前の村長は、上手いことやってのんびり楽しい日々を過ごしている。


「ずいぶん若い。私は商人だ、役に立ちそうな道具を売りに来た」

そして頼んでもいないのに、見たこともない道具を出してきた。


「これらはの、名工のドワーフが作ったすごい役に立つ道具ばかりだ。

そこのでかい人、これをもて」

そう言ってアムリは1つ渡された。


「これは…桑?」

「おお、いい目をしている、そうそれは桑だ」

見たこともない形をしていたが、確かに桑のように見えた。


「こ、こんなに軽い桑があるのか?世界は広い!」

「なーに軽いだけじゃない、あそこの岩をおもっきりぶん殴ってみろ」


そう言われてアムリは力の限り桑を振り下ろした。

こーんという音とともに手にものすごい衝撃が走った。


「いった!!!」

思わず桑を落としてしまった。


「ほれ、この桑見てみ」

なんと、

「全く傷ついていない、刃も欠けていない。なんて丈夫なんだ!俺の手のほうが壊れそうだ」


感動していると間髪入れずに商人が喋る。


「そしてそこの土を耕してみな」

そう言ってアムリは土をさくった。


「???こんなにきれいに…あれ?草が枯れていく!?

枯草はそのまま肥料になるじゃないか」


「な?すごいだろ、この手の道具、全部驚くような機能ばかりだ。

幸いこの村は農業が向いてそうだ」


そう言われて、次々に不思議なハサミやピッケルなどの道具を紹介してきた。


「ま、まいったな、まだそこまでうちの町はお金がないんだ…」


「お金の心配なら無用ですよお客さん、

ちょこっと利子はつきますが、貸すこともできます」


「え、えああほんとに参ったなぁ」

「毎度あり」そう言ってこの村の歴史で初めて借金ができた。


「またくるよ町長 私は商人のクレール。

毎月5日 隣のスエレドの街の銀行で手続するの忘れないでくれよ」


「…やっぱり武器は売れなかったか…」

とつぶやくクレールの声は二人には届かなかった。


「また一生懸命町を発展させて、お金稼がないとなぁ。はぁ…。」

「おいテオ、交渉術を持ったお前が交渉されてどうするんだよ!」


「あぁ!値段交渉、その手があったのか!」

俺達もまだまだ学ぶことが多い。テオの荷が下りるのはまだまだ遠い未来の話しだ。



村を取り戻してから2年の歳月が流れた。


「アムリ、この町もだいぶ変わったな…」


どこから聞いたかわからないが、安全な場所だと聞きつけて、移民もかなり増えた。

だがこの町の発展には限界がある。精霊やモンスター達と取り決めた土地があるからだ。


「ああ、そうだな、子供もだいぶ増えた」

「俺たちは村長から勉強を教わってきたが、それだけでは限界だ」


そう悩んでいると、一人の女性が声をかけてきた。


「ここがリオの町でしょうか?」

そういう女性は装束をまとっている。


「ああ、そうだ」とアムリがうなずいた。


「見たところこの町には学校が無いようですが」

「学校?なんですかそれは」

聞いたことのない単語だった。


「子供たちに学問を学ばせる施設です」

痒い所に手が届く。まさにそんな状況だった。


「ちょうど子供たちの勉強に困っていたんだ!」

装束のフードを取り女性は顔を見せた。


「もしよければ私を雇っていただけませんか?

これは有名なエルフの学者が書いた本ですが、

これを元に勉強を教えることはできます」


そう言うと彼女はカバンから5冊の分厚い本を取り出した。


「願ったりかなったりだ!ぜひ!私はテオ、この町の町長です。こっちはアムリ」

アムリもどうもと挨拶をした。


「私はファーリスと申します。慈悲を感謝いたします」


「施設を建てる面積はあるが、ちょっと新しい家作りは待ってくれないか?」


もうこの町が使える面積はかなり少ない。

街道の農地面積を見直す必要がある。


「すまないが、しばらくはうちに…という訳にもいかない、うちには男しかいないから。

宿で寝泊まりしてほしい」


女性と同じ屋根の下という訳にはいかない。

「全然かまいません。宿代もお支払いいたします」


「すまないね、賃金も安いが勘弁してくれ!

その代わり食べ物には困らせないように配慮しよう」


限られた土地を発展させるとしたら、どうしても商売便りになってしまう。

そのための勉強になるならいいだろう。のちに聞いた話だが、こういうとの投資というらしい。


「ありがとう御座います。あなた方に神のご加護を…」

そう言って、彼女と子供達のために、学校という場所を作ることにした。


「また大将にお酒買っていかないとな。」



そうして、町は安定した生活の実現が見えてきた。


ある日、テオの元に1人の女の騎士とマントに身を隠した人が馬車に乗って訪ねてきた。


「ここはリオの町であっているか?テオ町長を訪ねてきた」

自分の名が出てくることに驚いた。


「テオは私ですが」

マントの男は見た目では怪しいが、ともにいるのは女性の騎士なので多分大丈夫だろう。


「あなたがゲスタフを打ち負かし、村をこのような大きな町まで発展させたと聞いている」

やけに詳しい。何か訳ありだろうか?


「よければ中へどうぞ、そこでお話し伺いましょう」

そしてアムリ同席のもと、客人を招き入れた。


「実は一つ頼みがあって、伺った所存だ」

えらい強い話し方だ。だが品がある。


「名前も言わず失礼な奴だと思うが許せ。私の名は明かせないが、彼女はグレイス」

そう言って女騎士は立ち上がった。


「グレイスです。私の名前と存在は秘密にしてください」

相当訳ありだ。


「率直な願いだが、テオ町長、我とサンドラ城へ来ていただけないだろうか」

「え、サンドラってあのサンドラ国のサンドラ城のことですか?」


この世界で3番目に大きい大陸だ。

このエニルランド国なんかより遥かに大きい。


「そこへ行って、私は何をすべきでしょうか?」


「国は領地を争っている。あのゲスタフを退けたお前の力、参謀として招きたい。」

そしてマントの男は横にいるアムリに視線を変えた。


「そして、横にいるアムリ、お前はだいぶいい体格をしている、我が隊の騎士にならないか?」

アムリも困った顔で俺を見た。彼も同じだ。そう言われても即答はできない。


「か、考えさせていただけないでしょうか?」


「わかった。2週間ほどスエレドの街の宿屋に滞在する、

その帰りにまたこの町に寄るので、答えを聞かせろ」


そうして客人は出発するということで、街道まで送っていった。


戻ったらアムリが、

「おいテオ、棚の上に置いておいた木の実、お前食べた?」

と失礼なことを聞いてきた。


「人の物勝手に食べるほどマナーは悪くないはずだ」

「ふーん、じゃあ妖精が食べに来たのかな?」

自分で食べちゃったんじゃないのかと言おうと思ったが、今日はやめておいた。


「ところでよ、どうするんだよテオ…」

「アムリ、お前にとってはまたとないチャンスだぞ…」


「でもよ、テオ、お前が一方的に交渉されてどうするんだよ」

「それを言うな、俺も落ち込んでいる」


本当に交渉術のスキルが宿っているのだろうか、一杯食わされてばかりだ。

そう言って二人は眠れぬ夜を過ごすことになった。


翌朝、朝食を食べている所でアムリに話し掛けた。

「なあ、アムリ」

「なんだよテオ」


「不思議な力を持つ道具、学校いう施設、世界って広いなぁ」


きっと世界にはまだまだ見た事もない、

聞いたこともない事がたくさんあるのだろう。


「そうだな、あんなにきれいな人がいるなんて思わなかったな」

お前はそっちか。


「なあアムリ、一緒に村長のところにいかないか?」

「わかった、オレもちょうど行きたいと思っていたんだ」


そう言って、元村長の家を訪ねた。

「村長、少々お話しが…」

「なんだね二人して、まさか金か?」

と聞いたがどうやら違うようだ。

「実は…」



本格的な冬が来る少し前のこと、

青年二人は街の入り口に立ち、この風景を目に焼き付けていた。


「行ってこいテオ!アムリ! でっかくなって帰ってくるんだぞ!」

「お土産よろしくな!若大将」

俺たちは町のみんなや、オークの大将、そして三人の勇者たちに見送られた。


「ありがとう!必ず役に立つことを学んでくる!」

そうして馬車に乗った。


馬車に揺られながら外を見た。


生まれ育ったリオの村の面影は残っていないが、

ここは間違いなく俺たちが育った場所だ。


外には雪が降り始めていたが、

その雪は地面には落ちずに空高く舞い上がっていった。


こうしてみんなに見送られながら、

俺たちはリオの町からサンドラ国へ出発するのだった。


『かがり火 -魔法去りし世界-』を最後まで読んでいただき、心より感謝申し上げます。

本作は、以下の4つの視点を意識して執筆しました。


単発作品としての完成度

続編への可能性

『現世もつらいね』読者へのサービス

初めて読む方でも楽しめる構成


いわば、スターウォーズEP4のような「世界観の入口」としての位置づけです。

もし「続きを読みたい」と思ってくださる方がいらっしゃれば、ぜひコメントをください。

一人でもいたら、すぐに続きを書きます(笑)

実は『現世もつらいね』を書き始めた頃から、元の世界をどう活かすかをずっと考えていました。

魔法やバトルを排除した異世界ファンタジーをどう面白く描くか──それが本作の挑戦でした。

正直、どちらがスピンオフなのか分からなくなるほど、両作品は密接に繋がっています。

そして今、長期連載の次回作として『かがり火』を本命に考えています。

反響がなくても、勝手に連載を始めるかもしれません(笑)

最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

また次の作品でお会いしましょう。

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