厨房
【8階層】厨房
階段を降りると、目の前に巨大な厨房が広がっていた。
金属製の調理器具、巨大な鍋、香ばしい匂いが漂う。
(……飲食店か? いや、ここダンジョンだよな?)
その厨房の奥で——
大柄なモンスターが歩いていた。
ゴリゴリの筋肉質な体に、白いコック帽。
まるでレストランのシェフそのもの。
(……まあいい、先手必勝!)
俺は飛びかかり——
次の瞬間、視界がぶっ飛んだ。
「がっ……!?」
一撃で吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられた俺は、床に転がる。
激痛が全身を駆け巡った。
「……何しやがる!!」
モンスターは低く唸った。
「材料が潰れちまったじゃねぇか」
(……は?)
モンスターは俺のことを歯牙にもかけていないようだ。
「仕方ねぇ。お前は厨房で皿洗いだ」
(……いや、意味がわからん)
反論する間もなく、俺は無理やり厨房の端へと引きずられた。
そこには大量の皿と、ゴミ捨て穴なる謎の装置があった。
巨大な食べ物のカスを捨てると、その食材の大きさに合わせた穴が開き、どこまでも消えていく。
(……やばい代物じゃないか? これ)
皿洗いをしながらチラチラと様子を見る。
とりあえず、食材にはされずに済みそうだ。
しばらく働くと、ようやく解放された。
モンスターは腕を組み、俺を見下ろす。
「お前さんみたいなへなちょこが、いっぱしの冒険者を名乗るなんて100年早いな」
「……へなちょこ……?」
「99階まで行かずにダンジョンを出る方法を考えた方がいいぜ」
モンスターはため息混じりに言いながら、ポケットから紙切れを取り出した。
「これは大したもんじゃねぇが、持ってりゃどこかで一回くじを引ける。いい当たりを引ければダンジョンを脱出できるらしい。 そういう方法を探して回るんだな」
そう言って、紙切れを俺に渡した。
『くじ引き券』を入手。
(……こんなので脱出できる可能性があるってことか?)
正直、信じがたい。
厨房から解放されて歩いていると、『へなちょこ冒険者の動き』、のスキルを覚えた。
(……バカにされてる気しかしないが)
何となく肩を落としながら、俺は次の階層へと進んだ。
体に美味そうな匂いが染みついた。
——
・リソース更新
スキル: 炎の心得 / 魚変化 / 蜘蛛の感覚 / 右手強化 / コスモバスター / 伸びる頑丈な首 / へなちょこ冒険者の動き
アイテム: 薬草 / 星の欠片 / くじ引き券
装備: バッグ / ナイフ / 耐熱の手袋 / 鍵爪付きロープ