トランプ兵と女王
【73階層】トランプ兵と女王
逃げていた。
何が起こったのか、よく分からない。ただ、階層に降り立った瞬間、鋼の靴音が響き渡り、無数の兵士が現れた。
そして、彼らは俺を捕まえるために動き出した。
(理由も分からずに襲われるなんて、納得できるか)
丸呑みした。刀を持つ兵士を、槍を構えた兵士を、鎧をまとった兵士を──
だが、何度倒しても次々と現れる。数えきれないほどの兵士が、俺を追い立てるように押し寄せる。
(おかしいだろ、これ。俺一人に何人投入してるんだ?)
回避しながら考える。だが、考える間にも兵は増え続け、やがて俺は逃げ場を失いつつあった。
──そのとき。
「……!」
頭に、強烈な既視感が走る。
(これは──俺の記憶じゃない)
背筋が凍る感覚とともに、脳裏に別の男の視点が流れ込んでくる。
──冒険者アレクセイ。
彼は、過去にこの階層を経験していた。そして、同じように無数の兵に追われていた。
(こいつらの正体は……魔法の女王アリスティアのスキル、《トランプ兵召喚》によるもの)
理解すると同時に、兵士たちが一斉に襲いかかる。
アレクセイの記憶が続く。彼は強力な炎を用いてこの難局を切り抜けたらしい。
(炎、か……)
だが、俺はアレクセイの記憶ほど強力な炎を出すことはできない。炎を出せる装備もない。
詰みだ。
──やがて、俺は力尽きた。
鋼の手が俺の腕を掴む。視界が暗転し、気づけば豪奢な玉座の間に引き出されていた。
***
「あなたが噂の冒険者?」
そこにいたのは、一人の女。
燃えるような赤い髪に、金細工の冠。鋭い瞳に、気まぐれな笑み。
女王、アリスティア。
「ふぅん……なるほどね。まあまあの強さってとこかしら。でも、私の夫にするにはちょっと足りないわね」
(?)
女王は頬杖をつき、俺を値踏みするように見ている。
どうやら、彼女は「強い結婚相手」を探しているらしい。そして、俺はどうやら即座に不適格認定されたようだった。
──だが、問題はそこではない。
「処刑しておしまい」
その一言で、俺の喉が凍りついた。
トランプ兵たちが武器を構える。
(……詰んだな)
俺は膝をつきかけた。だが──最後の悪あがきで、藁にもすがる思いでスキルを発動する。
《買い物上手》
俺の命を買わせてくれ!!!
「──ちょっと待った!!」
俺の口が勝手に動く。
「せっかくだし、ウナギを買っていかないか?」
アリスティアが目を瞬かせる。
「……は?」
だが、俺の口は止まらない。
「恐るべきダンジョンの奥深くで生き延びたウナギ! 極限の環境で鍛え抜かれた、唯一無二の逸品!」
「……?」
「その身にはこの地の神秘を宿し、食べれば無限の力が湧き上がること間違いなし!」
「……」
「なんと今なら特別価格、たったの──」
言葉が次々と溢れ出てくる。
「……面白いわね」
アリスティアが、くつくつと笑った。
「あなた、おかしな男ね」
確かに。
「そのウナギとやらを買わせていただくわ。処刑はやめてあげる」
安堵する間もなく、彼女は手をひらひらと動かす。
「これをあげるわ。まあ、一回くらいなら使えるんじゃない?」
そうして手渡されたのは、魔法の簡易トランプ。
(……トランプ兵、俺も呼び出せるのか?)
何がどうなったのか分からないが、気づけば解放されていた。
(……本当に何だったんだ、今のやり取り)
・リソース更新
スキル: 蜘蛛の感覚 / 激しく踊りながら素早く移動して回避 / タコ殴り / 丸呑み / 地面に溶け込んで移動 / 道草 / くしゃみ / 買い物上手 / 終焉 / 満たされない心
アイテム: 誰かの目玉 / まさひこのネームプレート / 針×2 / 鍵束 / 茶色い液(残り半分) / 巻き戻しの巻物 / 小さな杖 / 銀の音楽アルバム / 冒険者アレクセイの記憶 / 金貨の袋 / 炎竜の鱗 / 魔法の簡易トランプ
装備: バッグ / 耐熱の手袋 / ヴァイオリン / おしゃれな髪飾り / 魔法反射の外套 / 大魔導士の腕輪 / 強者のグラサン / 強欲な盗賊の指輪 / 満たされた盗賊王のブーツ / ヴェルガル族のペンダント




