泥棒市
【71階層】泥棒市
目の前に分かれ道があった。
左の道は「王の凱旋」。
真ん中の道は「泥棒市」。
右の道は「踊り子の楽園」。
少し考え、右の道を選ぼうと足を踏み出した――はずだった。
……だが、気づくと俺は雑多な人混みの中にいた。
「……とんでもないところに来たな」
呪いのスキル《道草》が発動し、気づけば真ん中の「泥棒市」に引きずり込まれていたらしい。
周囲は無数の泥棒たちでごった返していた。
仮面やフードで顔を隠した者、堂々と盗品を売り捌く者、怪しげな取引をする者たち――まるで街全体が犯罪そのものだ。
「……ここで買い物しろってか?」
かなり良い品がありそうな気配はするが、果たしてまともに取引できるのか怪しい。
俺は一歩踏み出し、ふと気づく。
周囲の視線が、俺の装備品を値踏みするようにじろじろと這っていた。
「……狙われてるな」
俺の指にはめた《強欲な盗賊の指輪》。
盗まれたら倍にして盗み返すという、強烈な効果を持つ指輪だが――この場にいる連中の中には、それを知った上でなお、俺から盗もうとする者もいるらしい。
こんな場所に長居は無用だ。
なるべく人混みにを避け、速やかに市場を抜ける。
そして、市場の外へ出た瞬間――
違和感を覚えた。
胸の内にあった感覚が、何か抜け落ちているような気がする。
スキル欄を確認すると、《王の風格》が消えていた。
(……盗まれた、のか?)
これが泥棒市。スキルすらも盗み、取引される。
いつ、どこで、誰に――まるで分からない。
だが、一つ確かなのは、もう戻らないということだ。
代わりに、新たなスキルが一つ増えていた。
《満たされない心》。
「……押し付けられたのか」
どうやら、俺からスキルを盗んだ盗賊が代わりに手放したものらしい。
そして、もう一つ違和感があった。
足元が妙に馴染んでいる――
俺はいつの間にか、新しいブーツを履いていた。
《満たされた盗賊王のブーツ》
盗んだやつは……本当には満たされることはないだろう。
何故だか、そんな確信があった。
「……なんなんだ、この泥棒市は」
皮肉な気持ちを噛み締めつつ、俺は足早にその場を後にした。
・リソース更新
スキル: 蜘蛛の感覚 / 激しく踊りながら素早く移動して回避 / タコ殴り / 丸呑み / 地面に溶け込んで移動 / 道草 / くしゃみ / 買い物上手 / 終焉 / 満たされない心
アイテム: 誰かの目玉 / まさひこのネームプレート / ウナギ / 針×2 / 鍵束 / 茶色い液(残り半分) / 巻き戻しの巻物 / 小さな杖 / 銀の音楽アルバム / 冒険者アレクセイの記憶 / 金貨の袋
装備: バッグ / 耐熱の手袋 / ヴァイオリン / おしゃれな髪飾り / 魔法反射の外套 / 大魔導士の腕輪 / 強者のグラサン / 強欲な盗賊の指輪 / 満たされた盗賊王のブーツ




