死の先を見据えて
【2階層】死の先を見据えて
階段を降り、次のフロアへと足を踏み入れる。
静寂。
どこからか、水滴が落ちる音が響いている。湿った空気は前の階層よりも濃い。
……何かの気配だ。
慎重に進むと、やがて視界の先に何かが転がっているのが見えた。
「……死体か」
白骨化した死体が、壁際に寄りかかるようにして残されていた。
装備や衣服の大半は朽ち果てているが、かつては冒険者だったのだろう。
俺もいずれ、こうなるのかもしれない。
「……備えはしておかないとな」
そう呟き、死体の近くに落ちているものを探る。
耐熱の手袋。
まだ使えそうだ。手にはめてみると、意外にもしっくりくる。
「悪くない」
さらに、小さな布袋の中に乾燥した草の束を発見した。
「……薬草か」
多少効果は落ちているだろうが、使えないことはない。バッグに入れる。
その時。
水音が響いた。
「……来たか」
気配を感じて振り返る。
影が揺らめくように飛び出してきた。
槍を構えた——魚?
青白いウロコの体に、人間のような手足が生えている。槍を巧みに操りながら、俊敏な動きで間合いを詰めてくる。
「魚なのに、陸上でそんな動きができるのかよ」
冗談を言っている場合ではない。
槍が閃く。紙一重で避ける。
二撃目が来る。低く身を沈めてかわす。
「……速い」
この狭い空間で槍を振るうスピードは脅威だ。下手に動けば貫かれる。
ならば、こちらも速攻で決めるしかない。
間合いを見極め、懐に飛び込む。
松明を突き出す。
「燃えろッ!!」
炎の心得——!
炎が魚人の青白いウロコを舐める。
「ギィッ……!」
苦悶の声を上げ、魚人はのたうち回った。
そのまま炎に包まれ、焼き尽くされる——
と、その瞬間。
「……しまった!」
松明が壊れた。
「……失敗したな」
松明はもう使えない。しかも、魚が消えたと同時に槍までも消えてしまった。
「くそ、使えそうな装備だったのに……」
そう呟いた時。
脳内に新たな情報が流れ込んできた。
スキル——『魚変化』
「……魚変化?」
何かの冗談か? しかし、スキルには意味があるはずだ。
試しに使ってみる。
ポンッ
……え?
「……うおっ!? なんだこれ!!?」
突然、視界が変わる。
体が縮み、手足が消えた。
ピチピチと床を跳ねる。
まさか……本当に魚になってるのか!?
慌てて解除。
瞬間、元の体に戻る。
「……何に使うんだ、これ」
困惑しつつも、新たなスキルを得たことに満足するしかない。
「まぁいいか」
こうして、俺は次の階へと向かった。
・リソース更新
スキル: 炎の心得 / 魚変化
アイテム: 薬草
装備: バッグ / ナイフ / 耐熱の手袋