冒険の始まり
【1階層】冒険の始まり
目を覚ますと、そこは見知らぬ石造りの部屋だった。湿った空気。ほんのりと苔の匂いがする。
(……どういうことだ?)
混乱しつつも、周囲を見回す。持ち物はバッグとナイフ一本。記憶はある。だが、なぜここにいるのかはわからない。
次の瞬間、頭の奥に情報が流れ込んできた。
——99階層のダンジョン。最下層まで到達すれば脱出できる。
(は?)
意味不明な直感だが、拒否する余地はない。進むしかないらしい。
目の前には一つの扉。そしてその向こうから、小さな何かが動く音がする。慎重に扉を開けると……
「スライム、か」
青白いゼリー状の生物が、こちらを認識したようにうねる。冒険者なら誰でも知っている、最弱の魔物。だが、今の俺にはナイフ一本しかない。油断はできない。
スライムが跳ねた。攻撃か? いや、違う。天井に張り付き、そこから飛びかかろうとしている。
「なるほど、意外と頭は回るな」
横に飛び退く。スライムが床に激突し、べちゃりと音を立てた。隙だ。すかさずナイフを振り下ろす。
……しかし、手応えがない。刃がゼリー状の体を滑っただけだった。
「そう簡単にはいかないか」
スライムは形を整え、再び飛び跳ねる。何か手がかりはないか——。
(そうだ、スライムの弱点は……)
周囲を見渡すと、壁にある小さなたいまつが目に入った。
(燃やせばいい)
素早くたいまつを引き抜き、スライムに向けて振るう。火に反応し、スライムがたじろいだ。
「これで決まりだ」
たいまつを押し付けると、スライムの体がぐつぐつと煮えたぎり、やがて弾けるように消えた。
……ふぅ。
初戦から楽ではなかったが、どうにか勝利。頭に何かが浮かんでくる。
(スキル……『炎の心得』?)
これは、火を扱う技術が向上するスキルらしい。
「悪くないな」
ダンジョン攻略の第一歩としては上々だ。
——次の階へ進むとしよう。
・リソース更新
スキル: 炎の心得
アイテム: 松明
装備: バッグ / ナイフ