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第十六話 厄介者たち

雨がポツポツと降る放課後、教室には雨でありながら大勢の生徒が各自の仕事を全うしていた。

アニマルメイドカフェの装飾は中々にも凝ったものになるらしく、クラスの美術部と被服部が合同で作った計画書には端から端までびっしりと装飾のことについてが書かれている。

こういう時の文化部はとても頼りになるな。

準備をする時は文化部の言う事を聞いて行動するべきだ。


そう思いながら近くにあった段ボールの中から使えそうな装飾を取り出す。

輪飾りに紅白のボンボン、それにこれは……モアイ像のミニチュアか?

なぜこんなものがこれに入っているんだ。


この段ボールは美術準備室の奥底に眠っていた言わばガラクタである。

増田さんに何か使えるかもしれないと言われクラスの部員から許可を貰って教室まで持ってきたはいいものの特に使えそうなものは見当たらない。

この年代には似合わないロックバンドのポスターは何に使われたのか絵の具が飛び散っている。

これはさすがに捨てていいんじゃないのか。

俺は段ボールをまた床へと置き手をパンパンと払った。


「火月、一緒に買い出し行こうぜ!」


黒板の方からそう言う直継の声が聞こえ、何か買ってこいと頼まれたのかその両手には買うべきものリストと趣味の悪い長財布があった。

意外だ、直継はこういった雑用系の仕事はやらない主義だと思っていたんだがな。

まあ特に嫌そうでは無いようだし、俺も別に行けない理由があるわけでも無い。


「わかった、行こう」

「よし!」


俺たちは雨の降る中傘を差して近くの百均へと向かう。

こっちにきてから何回か目の雨、あっちにいた時と何か変わるわけでもないが東京の雨の方が少しうるさく感じる。

だが、買うものリストの紙を見ながら歩いているのでそこまで気にはしていない。

というか俺はどっちかと言えば雨の方が好きだ。

雨は一定のリズムで音が鳴るため気持ちが軽くなる。

特に本を読む時は絶好な天候だ。

とも甘夏は言っていた。


百均へ着くと直継は一直線に買うべき物の方向、ではなくお菓子コーナーへと走り出す。

どうせこいつは元々買い出しを俺にやらせる気だったんだろう。

わかりきってはいたが流石直継と言った感じだ。

呆れながらもリストにある物のコーナーへと歩く。

店内にはちらほら同じ制服を着ている人の姿があり皆どれも俺と同じような紙を持っていた。

他のクラスの生徒たちもきっと同じ考えなのだろう、俺は二人でではなく一人でだけど。


数分掛け商品を籠に入れ終わると重くなった籠の中がさらに直継によって重量を増す。

菓子と飲み物ばかり……パーティでもするつもりなのかこいつ。

クラスのやつらに配るつもりなのかもしれないからその時は何も言わず仕方なくそれを持ちレジで支払いをする。

何でついていくだけだったはずの俺が払ってるんだ。

さっきまで持っていたあの財布はどこにやったんだよ。


店の外に出ると雨はさらに強くなりポツポツからザーザーへと変わっていた。

このまま学校へと戻ってもいいが、さすがにもう少し止んでからの方が良いだろう。

傘を差し近くのファミレスに足を運ぶ。

一応月冴には連絡しておいたから問題はないはずだ。


店内には大雨のせいか意外にも多くの人がいる。

このファミレスで初めて人が沢山になっているのを見た気がするな。

故郷の方ではほぼ俺たちしか入り浸っていなかったからあまり有名な店ではないかと思っていた。

これが都会と田舎の差ということか。

俺たちは空いているテーブル席に座りとりあえず注文をする。

窓の外を見る限りまだまだ雨が止みそうな気配はない。

梅雨入りというやつだな。


「火月、あれから仕事には慣れたか?」

「慣れたよそれなりに」

「流石、特訓の成果だな」


特訓か。

あれは思い返せば中々に辛いものだった。

何年かぶりに筋肉痛になったほどだ。

部活でも筋肉痛にはならなかったのにやはりスポーツと戦闘では体の動きも筋肉の使い方も違ってくるものなのかもしれないな。

だな、刀の感覚には完全に慣れ自由に扱えるようにはなった。

妖術の方はまだまだだがそこらの妖怪に負ける気はない。

というか負けれないと言った方が正しいか。


料理を待つ間再度直継にも極夜のことについて質問をした。

しかしもちろん回答は「わからない」

やはり直継も進展はないようだ。


「まあまだ焦らずとも、特訓の期間が増えているだけだと思えば良いんじゃないか?」

「……確かにな、特に急ぐ理由も無いよな」


直継の言う通り、俺が極夜を倒しても何かが起こるわけではない。

ただその行いに満足して後は妖術師の仕事を続けるかどうかを決めるだけ。

今の生活とは変わらない、これはただの仕事だ。


「あ、そういえばこの前古水とバスケで勝負したぞ」

「ふーん…………負けたな?」


ニヤリとしながら直継はそう聞いてくる。

俺が負けると分かりきっていたみたいに。


「ああ負けたよ、こっぴどく」

「そうだろうな、あいつのバスケ力は天賦の才だ」


天賦の才、ね。

確かにあいつはバスケが上手い。

きっと元々の身体能力も相まって実力は他の高校のエース以上。

それなのにあいつはズルをした。

おかし過ぎる体の動き。

いくら現役の選手だとしても相手の動きを全て捌き切れるわけがない。

古水の能力「水眼」条件は液体を通すこと。

今でも思い出す。

目から溢れ出す蒼色の火花、美しいほどに綺麗な火花。

多分トリガーは試合前に差した目薬だ。

だが、なぜあいつはズルをする必要がある。


「古水から聞いたぞ、お前もバスケやってたんだって?」

「俺? あー小学校までな」


小学校までということは中学ではやってないのか。

そんで中学では部活をやっていたかは知らないが高校で帰宅部になった……よくよく考えたら俺とほぼ同じようなものだな。

それに古水と勝負をした時、あいつは「私が始める頃には直継辞めちゃったけどね」とかなんとか言っていた。

それから必然的に考えて古水は中学からバスケを始めたことになる。

中学生からであの実力だったのならそれはもうプロと言っても過言ではない。


スマホから通知音がする。

月冴からだろうか?

ブレザーのポケットをまさぐりスマホを取り出す。

来ていた通知は二件。


「……直継、後のことは任せた」

「なんだ急に、仕事か?」

「ああ、甘夏と合同でやるらしい」

「そうかわかった、気をつけろよ」


俺はただ頷きさらに勢いを増し乱れ打つ雨の中を走り出した。



* * *



雨の中、コンビニの外で紺色の傘を差し気怠げそうにあくびをしながら甘夏は本を読んでいた。

一瞬わざわざ外にいなくてもコンビニの中に入れば良いのにと思ったが、中では本が読めないから外にいるのだろう。


「甘夏」

「……」

「甘夏ー」


歩きながら喋りかけても返答がない。

雨音と本に集中していて俺の声が聞こえないのだろうか。

仕方なくそばまで近づき甘夏の肩を優しくポンポンと叩いた。

そこで髪の毛の間からチラッと見えたのは有線のイヤホン。

どうやら雨音で俺の声が聞こえなかったのではなくただ単にイヤホンをしていて俺の声が聞こえなかったようだ。


「来ましたか、早速仕事内容について話しましょう」


落ち着いた声でそう言いながら俺に足跡のついた地面の写真を見せつけてくる。

今回の依頼は「あしあと」という妖怪の退治で通報したのはここのコンビニの店長。

特徴は音と足跡らしくどうやら、晴れの日にピチャピチャと水面を歩く足音と共にコンクリートに黒い水の足跡をつけて徘徊しているそうだ。

最初は単に子供の仕業か無視していたそうだが、日に日にクレームが増え、このコンビニの客足も遠さりそれを見かねた店長が警察に連絡して俺たちに回ってきたという話らしい。

経営者というのも大変だな。


「なあこれ、晴れの日の方がいいんじゃないのか?」

「私も最初はそう思っていました、でもこれを」

「黄色のかっぱ?」

「はい、どうやら雨の日はこのレインコートを身につけているみたいなんです」


こんなにわかりやすいものを妖怪がつけるのか?

と疑いたくなるがあの甘夏が言っているのだから間違ったことではないのだろう。

それにしてもこっちではかっぱとあまり言わないものなのか?

都会はわからないな。


それから俺たちは二人で辺りを歩き始めた。

住宅街ではあるが雨のせいか周りに人気はない。

車も通らず閑散としている。


「中々見つからないな」

「コンビニ周辺と言っても広いですからね」


クールにそう言いながら甘夏はスマホで時刻を確認する。

そういえば直継は無事帰れただろうか。

あれから月冴からの連絡もないし少し心配だ。

特に直継、道草食ってんじゃないだろうな。

俺は周辺を見渡しながら軽くため息をついた。

そんな全てに嫌気がさし始めている俺とは対照的に甘夏は嬉しそうにしている。

スマホの画面にはお化けの仮装をする女子生徒が二人。

友達か?

というか友達がいたのか。


「いますよ友達ぐらい」

「心の中を読むな」

「いえ、顔に書いてあります」


似たことを言う姉妹だ、全く。


「そっちこそ、お姉ちゃんたち以外にはいないんじゃないですか?」


う、痛いとこをつかれてしまった。

確かにあいつら以外話しかけられはするがそこまで親しいやつはいない。

もしかして俺は今甘夏に何も言えない立場なのか。


下から俺の様子を伺ってくる甘夏を無視して前へと進む。

甘夏は俺をからかうことを謎に楽しんでいるみたいだ。

なぜか昔から甘夏の様な人間にからかわれることが多い。

そういう宿命なのか標的にされやすいのかは知らんが、そろそろやめてほしいと思っている。

まあもう甘夏という存在が出来てしまった時点で既に遅いみたいだがな。


目の前に公園が現れる。

もちろんここにも人はいず、ただ遊具が雨に濡れているだけだった。

喉が渇いたし自販機で何か買おう。


「何か飲むか?」

「いいんですか?」

「たかが自販機の飲み物でケチは言わないよ」

「ありがとうございます、じゃあこれで」


甘夏がグレープジュースを指さすので躊躇なく下のボタンを押す。

オレンジジュースではないのか。

てっきりそうだと思って手を構えていた。


俺は自分のコーヒーとグレープジュースを取り出し片方を甘夏に手渡す。

自販機のミネラルウォーターを見て思い出したが、最初から古水に頼めばすぐに見つかっていた様な気がする。

古水の妖術ほどこういった仕事に適したものはない。

なんなら今からでも古水に感覚共有してもらうべきなのではないのか?

そう思いながらスマホで古水のメールを開く。

前々から思っていたがこの黄色い生物の謎のアイコンは何なんだろう。


「なあ、この黄色いの」

「黄色いの?」

「ああこの……」

「……先輩、流石ですね」


このアイコンのどこに流石要素があるんだ。

……いや待て、もしかしたらこのアイコンの生物は巷で流行っているキャラクターなのかもしれない。

俺はよく周りに興味を示さないことから流行りがわからなあいことがある。

もしかしたら俺はまた流行りに置いてかれてしまったのか。

スマホを勢いよく出しこの生物について調べる。

結果こいつは「ノッポギ」というキャラクターだということがわかった。

この変な顔で人気が出るものなのだな。


「わかった、ノッポギだろ、これ」


そう甘夏に話しかけるが返答は返ってこず、そこにもう甘夏はいない。

次に気づいた時にはもう公園の外に出ていた。

その奥には黄色いかっぱの……黄色いかっぱの……


「普通にいるじゃん……」



* * *



俺はずぶ濡れになりながら学校に戻った。

すっかり来た時の傘が火月の傘だったことを忘れてたぜ。

寒い、五月の後半といっても寒いものは寒いからな。

俺はタオルで頭を拭きながら教室全体を見渡す。

誰か一人ぐらいは俺のことを気にかけてくれても良いのではないでしょうか。


「直継さんお疲れ様です」

「お疲れ、どうだ装飾の準備」

「順調ですよ、それよりそんなに濡れてしまってどうしたんですか?」


流石姫様、従者の状態をちゃんと見てくれていらっしゃる。


「帰る時傘を忘れたんだ」

「火月さんがいたはずでは?」

「火月なら甘夏と仕事ですよ」


俺はわしゃわしゃっとした後タオルを鞄の中に突っ込みジャージを上から着た。

制服がグチョグチョして気持ち悪いがわざわざトイレにまで行って着替えるほどのことでもない。

まあただただめんどくさいだけ、火月の省エネ癖でも移ったか?


「直継さん、制服が濡れているのなら帰った方がいいと思いますよ?」

「いや俺は……」

「同感だ、さっさと帰れ」


横から口を挟んできたのはクラス委員長の橋本。

一年の頃から俺に絡んで来ては尖った口をピーピーと。

人のことを気にすんならまず自分の言動を気にしろよ。

はぁ、正直面倒臭い。

絡むなら火月だけにして欲しかったところだ。


「いや、皆んなが頑張っている中帰えれないでしょ」

「でも風邪引いちゃいますよ?」

「大丈夫大丈夫。馬鹿は風邪を引かんのですよお姫様」

「お姫様だと?」


めんどくさ、なんだこいついちいち絡んできやがって。

よく火月はこんなやつを相手にしてイラつかなかったものだ。

嫌気がさした俺はイライラとするため息をつきながら橋本がイラつきそうな言葉を考えた。

馬鹿、ヘンテコ眼鏡、几帳面野郎。

色々出るが少し幼稚的か。

目線の先には月冴のブレザーから垂れ下がるペンギンのキーホルダー。

そうか、これだ。


「あーそういえば、姫様はこの前の休日どこ行ったんだけ?」

「この前の休日は……火月さんと水族館に行きましたけど、確か直継さんにも言いましたよね?」


静寂が訪れる。

クラスにいた生徒たちは皆俺たちの方を見て静止した。

クラスの美男美女成績優秀の最強カップルがそんなデートイベントを起こしていたら誰でも驚いてしまう。

現に、さっきまで猛犬みたいに噛みついてきていた橋本も眼鏡を揺らしながら固まっていた。

ざまあみやがれブルブル眼鏡野郎。


「ちょ、ちょっと直継さんどこに行くんですか!?」

「どこ? えーD組」

「そういうことじゃなくて、この状況を……」

「この状況を、後は任せましたよお姫様」


驚く月冴を無視しながら俺は教室を出てD組の方に向かう。

いい気味だ、さっきまでの不快感が嘘みたいだな。

うろ覚えの歌を鼻歌混じりで歌いながら廊下を歩く。

はぁ、火月の野郎本当にめんどい奴に絡まれたみたいだな。

面倒臭いほどに嫉妬深い、ヤバい奴に。

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