秘する想いの行方 【月夜譚No.321】
ロックでも聴いていそうな恰好だ。
Tシャツに革ジャン、ダメージジーンズの足許は編み上げのブーツ。黒で統一された色合いは地味なのに、酷く目立った印象だ。
「……どう、かな?」
恐る恐る尋ねる彼は及び腰で、お世辞にも似合っているとは言えない。彼の中の〝恰好良い〟がこういうイメージだったとは、幼馴染みの彼女も驚きである。
まさかこんな恰好でくるとは思わず、彼女は頭を押さえて深い息を吐いた。それをどう捉えたのか、彼の肩がびくりと跳ねる。
クラスの気になる女子と日曜日に文化祭の準備の買い出しに行くことになったと、嬉々として彼女の許へ報告にきたのが数日前。服装をどうしようと悩む彼に、半ば勢いでアドバイスをしてやると言ったは良いが、これではアドバイスだけでは埒が明かないだろう。
彼女は彼の手首を掴むと、そのまま歩き出した。
「ちょ、ちょっと何処行くの?」
「もうちょっとマシなの選んであげるから、黙ってついてくる」
ピシリと言いながら、ショッピングモールへ足を向ける。
幼馴染みとの久し振りの買い物が、こういった目的なのはいただけない。それでもどうにかしてやりたいと思ってしまうのは、数年前に芽生えた想いのせいだ。
複雑な感情に胸の痛みを覚えつつ、彼女は口元に苦い笑いを浮かべた。