表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

FRAGILE VAMPIRE

作者: 波野


暗闇、大雨が振る、午後19時半。


目に映るのは、自分のことをじっと見つめる、

人間のようで、人間ではない何か。


そいつは言う、


「俺の役目は、お前を守ることだ。その使命が、こうやって、目に見えて果たせた。本望だ」




--


都心にある、とある住宅街の一軒家から出てきて、

「おとーさーん」

そう呼ぶのは、花月一正(かづきかずまさ)、8歳。


笑顔で、

「はいはいー、行こうね」

そう答えるのは花月正成(かづきまさなり)、35歳。



「今日は猫さんいるかな~」

と、一正が呟きながら向かうのは、

いつもお参りをしている、自宅から徒歩10分ほどの場所にある神社だ。


神社に着くと、一正と同じくらいの背丈の男の子がお参りをしていた。


「あ!(じゅん)~!」

一正が呼び、男の子に近づいていく。



その間、正成は、心の中で次のことを考えていた。


「この子は…」


正成は、1週間前のことを思い出す。


この神社で、純という少年に出会った。

一正がはしゃぎ回り、転んだ際に出た血を見て、

動揺している姿、僅かに生えつつある右側の八重歯を見て、なにかに気づいた。


この子は…幼い吸血鬼だと。


吸血鬼の研究に勤しむ正成には分かった。

それと同時に、子供の吸血鬼が存在すること、人間の容姿に似た吸血鬼が存在すること、研究者として未知の新たな発見があった。



一正と純は走り回り、楽しそうに遊んでいる。


その姿を見ながら、


こんなに人間と変わらない容姿のヴァンパイアがいるのか…?


正成は自問自答を続けていた。


--


10年後。



一正は18歳になっていた。


仏壇に手を合わせる。

そこに映るは、優しい笑顔の正成だった。


「お父さん、行ってきます」


そう呟いて一正は家を後にした。



雨上がりの雲がまだ抜けない、6月の薄暗い午後16時。

いつもの神社にお参りに向かった。


突然、大きな風が吹く。

一正の目の前に、黒い重みのある装飾を纏った、人ではない何かが、立ちはだかる。


そこに現れるは、1体のヴァンパイア。


ヴァンパイアが一正に向かって手を振り上げたそのとき、

別のヴァンパイアが対抗し、追い払う。


追い払ってくれたヴァンパイアは、一正のことを一目見て、飛んでいく。



一正「なんだ…?」

呆然と立ち尽くす一正。


飛んでいくそれをよく見てみると、見覚えのある姿。


一正「飛行能力を持つ吸血鬼…」




-------------------------


一正は、父親の研究のことを知っていた。

それは正成の遺品整理をしているときのこと。


吸血鬼研究の資料の中から、重要そうなノートを見つける。


そこには、人間と近い見た目のヴァンパイアがいることが書かれていた。


契約…

人間の血を供給する代わりに契約者の盾となる等…


資料の中には、解像度は低いが、日本に生息するヴァンパイアとされる写真もあった。

そこには、「飛行能力を持つ吸血鬼」とメモ書きがされてある。


-------------------------


翌日。


資料の中で目にした、ヴァンパイアが現れたことがあるという、朤独谷(ろうどくだに)の方へ向かう。



日本の都心からは外れたところにある谷。

周りは森林で囲まれている。

過去に事件があったり何かと物騒で、人は近づかない。いわば樹海のような場所。


ここでは10年前から人間や動物の死体が見つかったり、何かと物騒な事件が発生しており、

日本で吸血鬼の研究に勤しむ花月正成が、吸血鬼の可能性が高いという見解を出したことで、日本での吸血鬼の存在を意識する人が急増した。


だが、誰も見たことがないからか、人々らは吸血鬼に対して恐れる気持ちはなかった。


インタビューで花月正成は、

「吸血鬼に興味を持ってくれる人たちが増えてくれるのは嬉しいことですね、研究してきてよかったです」などと発言している。


だが同時に、ヴァンパイアは恐ろしいものである、ということも伝えている。


--


一正は、父親の資料を頼りに、朤独谷(ろうどくだに)の入口付近までたどり着いた。


その場所は薄暗く、霧が広がっており、立ち入り禁止エリアとなっていた。


目を凝らして奥を見るも、視界がぼやけてよく見えない。


風が吹いた瞬間、草木がごそっと揺れる。

一正は寒気を感じ、後ずさりして辺りを見渡そうとした瞬間、この前とは違う、金属装飾を纏ったヴァンパイアが現れる。


ウーロ「人間…そちらから出向いてくれるとは有難い」


ヴァンパイアが一正に近付こうとした瞬間、

この前助けてくれたヴァンパイアが現れ、

「あっちへ走れ!」

そう言い、一正にジェスチャー指示を出した。



一正は全力で走り、遠くへ離れた。



なぜこんなに自分の目の前に現れるのか…?

ヴァンパイアの領域に踏み込みすぎているのか…?


自問自答を繰り返す一正。


逃げるよう指示を出したヴァンパイアがいつの間にか隣に現れ、口を開く。


「お前は今後もずっと狙われることになる」


一正は、顔を上げると、そこにはすらっとした立ち姿に、黒髪で色白のヴァンパイア。

そのヴァンパイアは、ジスと名乗った。



ジス「お前を生かすための契約だ。決して損はさせない。」


そうして、2人は血の契約を交わすことになる。


--


「契約って…血液を渡す必要が、あるんだよね?」


そう一正が聞くと、ジスは、


「そうだ。だけど直接貰うのは気が引ける」

「これに入れてくれ」

と採血管を一正に渡した。



人間への思いやりがある…

気が引けるといった感情を持つのか…

なぜ、ヴァンパイアが自分を守ろうとしてるんだろう…


一正は頭で様々なことを考えながら左腕の血管から血を抜き、ジスに渡した。


一正「僕の血が、キミの役に立つならいいよ」


ジスは、「ありがとう」

と言い、受け取った採血管を左の太ももに思い切り打った。



それからの2人は、共に日々を過ごした。


ジスの姿は、血の契約を交わした日以降、徐々に人間味を増した。



一正「ジスは、あんまり笑わないよね」

ジス「八重歯が片方にしかないから、あまり見せたくない」

一正「いいじゃん。見せてよ」

ジス「やめてくれっ」


からかい合い、笑い合った。


一正「ジスは家族はいるの?」

ジス「父親がいた。ただ幼い頃の記憶は、あまり覚えてない」

「ただ1つ、鮮明に覚えているのは人間と楽しく遊んだ記憶。それだけが俺を生かす気力になっている」

一正「そうなんだ。だから僕のことも助けてくれたんだね」

ジス「そうかもしれない」


一正「僕の家族も父親だけだよ。僕が8歳の時に、病気で亡くなってしまったけど」

「吸血鬼の研究者だったんだ。ジスのような優しいヴァンパイアと友達になれていること、自慢したかったなあ」

「きっと羨ましがられたと思う」

ジス「実験台に乗せられるんじゃないか?」

一正「まさか!…いや、ありえるかも」


2人は笑いながら、夕方の木の立ち並ぶ小道を歩いた。


一正の家では、

一正「これが、ニンニク。ニンニクが苦手なんでしょ?」

と言いながらニンニクを見せる一正に、

ジス「これは、たしかに得意ではないな。ウウ…匂いが漏れ出ている」

一正「じゃあ、こっちをどうぞ」

そう言い、にんにくチューブをジスに渡した。

ジスは、苦笑いをしていた。



こうした何気ない日常が、2人とって、とても楽しかったのだった。



--


ここは朤独谷(ろうどくだに)


そこにある、とある小屋での出来事。


ヴァンパイアたちが集まって会話をしている。

フォル「落ちたもんだなジス…」

ウーロ「奴をみると虫唾が走る」

フォル「愚かな人間という生き物と契約を交わすなんてな」


その一番奥には、黙って話を聞いていた1人のヴァンパイア。

名はヴァオパルト。

その容姿は、岩を積み上げたようにゴテゴテしている。






吸血鬼。

それは日本に30体ほど存在するとされている。


中には、ほとんど人間と見分けがつけないものもいるとされるが、人間と同じようには生活できない。


人間から血をもらって生きる者は、吸血鬼のうちの1割以下だ。

反対に、科学的に生み出された血液で生きている者が9割以上で、ここは対立している。


ほとんどの吸血鬼が、人間を愚かな敵種だと認識している。


人間と契約しているヴァンパイアは容姿も人間に近い。

中でもジスはほぼ人間みたいな容姿である。


そうでないヴァンパイアは、悪に近づけば近づくほど容姿に怪物感が増してくる。


ここにいるヴァオパルトのようにだ。



--


神社で出会った純に対し、違う何かを感じた日、

正成はより研究熱心になった。


人間と同じように暮らしているヴァンパイアもいるのか…?


これまでヴァンパイアは、「人の血を吸う悪魔」だという研究結果が一番浸透していたが、そうではないかもしれないと。

危害を加えないヴァンパイアもいるかもしれない。


また、ヴァンパイアの見た目は人間で言うところの20~30歳前後で、年は取らないはずだ。

あの子は年を取るということなのか…?


…様々な疑問が浮かび上がってくる。


ヴァンパイアの見た目には、栄養となる血液が一番重要となっている。

人間の見た目…

人間の血液…

血液をどう供給しているかが分からない…


外を歩き、ふと目に入った、ビルのモニター映像。

とある企業のCMだ。


「人体を流れるエネルギーが人生の全て」


人体を流れるエネルギー…?


帰宅後、すぐにその企業について調べた。


会社名は、VoS(ブイオーエス)

その企業の社長の写真を見て、正成はハッとする。


正成「遊佐…?」


正成の大学時代の同級生だったのである。


-------------------------


遊佐天(ゆさたかし)

大学時代に、正成と共に研究に勤しんでいた。

主に血液関連の研究で、研究室で朝まで過ごすことも多かった。



卒業を機に、連絡を取り合うことはなくなっていた。


大学時代の大事な時期に、学校で大きな火事があり、研究資料の何もかもが燃え、お互いに多忙になってしまった。


吸血鬼の研究に、唯一興味を持って話を聞いてくれる友だった。

勝負事が大好きで、負けん気の強い優秀なやつだった。



卒業式の日、

遊佐「本当に色々あったけど、楽しかった」

「次会う時は、ビジネスの場かな」

そう言いながら、ハハッと笑い、遊佐は背を向けて先を歩いていった。


-------------------------


正成「あのときが最後か」

正成「社長になったんだな…」


懐かしい思いに駆られ、正成は遊佐に会いにいくことにした。



--


都心の45階建ての高層ビル。

ビルの上には「VoS」の文字があった。


社長室に案内され、待ち人を待つ。


机端の写真立てには、見覚えのある顔…。


あのとき、神社で会った少年。

正成は、目を丸くする。


正成「間違いない…純くんだ」

「なぜ…」


正成は、ふと、何か嫌な予感がしていた。



会社の理念…

人体を流れるエネルギー…

血液研究…

子供の吸血鬼…

大学での火事…



遊佐「久しぶり。花月はまったく変わらないね」


声がした方に視線を向けると、

そこには10年前とは全く別人のような表情をしている、遊佐天が立っていた。


正成「遊佐はなんか、変わったな」


遊佐「そうか?10年以上ぶりだからな。あれから会社を作り、日々の業務に追われ、忙しくしすぎたのかもしれない」

「そういえば、あの頃も忙しかったよな」



そう聞いた瞬間、正成の記憶がフラッシュバックする。


-------------------------


大学時代、2人で図書室で正成が開いている本を見ながら、

遊佐「吸血鬼…?」

正成「ああ。昔から少し、興味があって。血液の供給をどうしているのかとか」

遊佐「イギリスの研究か」

正成「この研究者によると、ヴァンパイアは「人間の血を吸うタイプ」と「人間のエネルギーを吸収するタイプ」の2種類に分かれていると」

正成「なるほど、エネルギーで生きていられる種もいるのか」

遊佐「定期的な会合が開かれている…」

「ファンタジーだな」

正成「そうだけど、そうでもない気もしている」

遊佐「ヴァンパイアの血か…」



それから半年程経った、ある寒い冬の日。

2人が通っていた大学で大きな火事があった。

原因は、研究室にあったヒーターからの出火、とされたが…


正成「吸血鬼関連のレポートやデータが全部灰になってしまった」

遊佐「俺の研究のものもだ。全く。また朝まで研究だなー」

「時間は十分にある」


2人は笑い合った。



-------------------------



遊佐「花月の名前をネットニュースで見たよ」

「丁度、久しぶりに顔を見たいと思っていたから、来てくれて嬉しい」


遊佐「あの頃から変わらず、吸血鬼の研究に勤しんでいるんだね」


正成「ああ…」

「遊佐、その写真の子は…?」


遊佐「俺の子だ」

正成「結婚したのか、おめでとう」

遊佐「いや、結婚はしていない。どうも俺には向いていないようでね」

正成「そうだったのか。うちと同じだな」

遊佐「花月もシングルファーザーなのか?」

正成「ああ、経済面のことで元妻と揉めてね」

遊佐「それはそれはご苦労さま。研究者は儲かる仕事ではないからな」

「心身疲労に効く商品もうちにはあるぞ?」

正成「いやあ遠慮しておくよ…」


正成「それより、その…その子は、遊佐の子ではないんだな?」


遊佐「何が聞きたい」


正成「その子に、会ったことがある…」


正成「人間とは違う何かを、感じている…」


遊佐「さすが。奥さんに逃げられても尚、伊達に研究者をやってるわけではないな」



まさか…!

いや、そんなはずは……


遊佐「昔から、勘が鋭いお前のことはあまり好きではなかった」


正成「遊佐…お前は何をやってるんだ…」


遊佐「ハハハハ、そんな大袈裟な顔をして。犯罪を犯しているわけではないさ。人々に感謝されるビジネスをしているだけだ」


遊佐「花月、キミの研究には大変感謝しているよ」



正成は、遊佐の言葉、表情から感じ取った。

遊佐は、勝利宣言をしていると。

どんなやり方であれ、自分の勝ちであると。



--


大学時代。

遊佐天は、同級生であった花月正成に嫉妬していた。

正成の、事象への鋭い指摘指摘や、自らの意見を言語化する能力、結論への導き方など、全てにおいて優秀で、自分が酷く劣って見えたのだった。


ある日、その思いが頂点に達し、

正成のレポートや、データを全てすくねて、研究室に火をつけた。


その日から、遊佐の表情は雲行きが怪しくなった。

笑っていてもどこか怖い、目は鋭く、見るものを燃やすようだった。





大学を卒業し、数年後。


とある砂漠のような場所。

そこで見つけたミイラから採取した物質から、何かを生み出す。


それが、V1(ヴァンパイア試作1)。

そこに宿る血液が、人間に多大なるエネルギーを与えることが分かった。


しかし、研究に実験を重ねても、人間からは生み出すことが出来なかった。


ヴァンパイアという怪物、その中でのみ生み出されるのだった。


ヴァンパイアを生み出し、血液を採取し、その血液を売りさばいて利益を上げていた。


血を作るには血が必要になる。


自ら立ち上げた企業では、人工血液を生み出し、ヴァンパイアへの供給をしていた。


--


正成は、純に会うため神社や近所をまわったが、会うことは叶わなかった。


正成「一正、純くんってどの辺に住んでるかとか、話はしたことある?」

一正「ないかなぁ。神社に行くとたまに会えるだけ」

正成「そうだよね」



正成はその後も、ヴァンパイアの研究を続ける。


すると、SNSなどの情報源から、

朤独谷(ろうどくだに)という場所で奇妙な痕跡が見つかっていることが分かった。


車で朤独谷(ろうどくだに)へ向かった。


車を止め、1時間ほど歩き、薄暗い森林へ入っていく。


その後、目の前が真っ暗になった…。







遊佐「近づきすぎたな」






--


正成が亡くなって10年が経つ。


朤独谷(ろうどくだに)にて。


人間が現れたという情報が、遊佐の耳に入る。

名前は、花月一正だという。


遊佐「花月…そうか。息子がいると言っていたな」


…その話しを、近くでジスは聞いていた。


正成の息子である一正が今度は狙われる。


ジスは、

このままでは一正が危ない…

一正を守らねば…


そう思い、一正へ近づき、血の契約をするのだった。


--


朤独谷(ろうどくだに)にて。


ジスが人間と契約を交わしたとの噂を聞いた後の会合。


ギラク「我々は父上の命令に従うのみかと」


遊佐に花月の息子の処理を指示されたことを経て、

1体のヴァンパイアがそう言うと、後に他のヴァンパイアたちが続く。


フォル「ジスの野郎が近くにいることが厄介だ。まずそっちの排除からじゃないか?」


アロク「仲間を殺すのか?」

フォル「仲間?もう仲間ではないだろう」

「人間の下僕となっているのだぞ?」

ウーロ「人間の血を貰うなど虫唾が走る」

イズ「だが種として仲間だ。殺すなど我にはできん」

アロク「まずはジスを連れ戻そう」




アロクが小屋を出ると、ジスが戻ってきたところだった。

アロク「ジス。丁度話しが…」

ジス「聞いてくれ、人間は脅威ではない」


フォル「裏切り者が何を言う。人間の血を取り込んで人間に侵食されたか?」


ジス「裏切ってなどいない。ただ人間との共存を望むだけだ」


フォル「人間との共存など不可能だ。我々は人間とは別の生き物。吸血鬼として生きることで父上様に認められ、生きる価値が与えられる。違うか?」


ジス「どんな価値が与えられると言うのだ」


フォル「世界だよ。我々の世界。それさえ手に入ればあとは自由さ」


少しの間。

フォルはジスを睨むように見て、続ける。


フォル「もはやそんな人間のようなヒョロい姿のお前に…俺と勝負したところで勝ち目なんてないだろう」


そう言い、フォルはジスの首を掴んできた。

ジスは勢いをつけて振り払い、反撃する。


フォル「お前など仲間ではない」

ジス「黙れ」


ジスは、一正の自宅から仕入れたにんにくチューブを思い切りフォルの鼻の穴に入れ込む。


フォルは息が出来ず苦しみ出す。

フォル「ブッフォオッッオッエエエァ…」


そのまま、首の後ろに杭を打ち、

思い切り遠くへ飛ばした。








ジス「もう戻っては来れないだろう」





--


小屋の奥で、静かに様子を見ていたヴァオパルトが、重い腰を上げた。



ウーロ「オパ様!すみません…ジスの野郎が…」

ウーロが話している途中で、ヴァオパルトが殴り、ウーロは飛んでいき、木にぶつかって落ちる。



…ヴァオパルトは知っている。

ジスが、自分たちの父上様、遊佐の本当の息子だということを。


人間界に入り浸り、フラフラとしていることも、

父上様の血を分けた家族だから優遇されている、そう思って疑わなかった。


だが、今回のターゲットである人間を守っているのが、実の息子だということを父上様はまだ知らないだろう。


…排除するなら、今がチャンスだ。


ヴァオパルトはそう考え、重い腰を上げたのだった。



--


雨が降り始めている。


ジスは、朤独谷(ろうどくだに)の入口付近まで歩いた。


ふと、空を見上げる。


一正との楽しい思い出と、ヴァンパイアたちに蔑まれるシーンが、頭の中で交互に入り乱れている。



ジス「今日は疲れたな…」



強い疲労を感じながら歩き続け、

気がつけば、一正がよくお参りに行く神社の前に立っていた。


お参りを済ませ、振り返り、

じっと目の前を見つめると、8歳の一正と純が走り回りながら、楽しそうに遊んでいる。


ジスは口を開き、

「楽しかっ…」

と呟いた瞬間、


一正「…あれ?ジスどうしたの?」


神社の入口から、一正が現れ、声をかけてきた。


一正の方へ駆け寄ろうとしたとき、

目の前に、ヴァオパルトが現れる。


一正は驚き、立ち尽くす。


ヴァオパルト「お前とは、大して話もしてこなかったが、なんとなく気に食わんかった」

「だが、最近になってもっと気に食わん」


ヴァオパルトは、長い爪を伸ばし、ジスの首を狙い向かってきた。

間一髪で避けたが、ジスの首には傷がつき、ポタポタと血液が垂れる。



ほぼ互角と見える戦いをしたが、

ヴァオパルドの渾身の一撃が、一正に向かう。


それを、ジスが庇い、強く投げ飛ばされる



「ジス-----!!!!!」

一正の大声が響く。



一正は直ぐにジスに駆け寄り、ゆっくりと上半身を起こす。

ジスは、口を少し開けながら、



「俺の役目は、お前を守ることだ。その使命が、こうやって、目に見えて果たせた。本望だ」



ジスは八重歯を思いきり見せながら笑った。



…その後は、一正が声をいくらかけても、ジスが動くことはなかった。



--



朤独谷(ろうどくだに)に現れた遊佐は、

「なんてことだ…」


ボロボロになり、生命力を失ったヴァンパイアたちを見てそう呟き、肩を落とす。


遊佐「お前たち…これは人間1人にかかる代償じゃないぞ。分かっているのか?」


ウーロ「ジスの野郎が、人間と契約を…」


遊佐「なんだと?」


ウーロ「でも大丈夫です…オパ様が…倒してくれたはず…」

そう言い、バタッと倒れるウーロ。


遊佐「ジスが…?」



遊佐の後方から、足を引きずりながら歩いてくるのはヴァオパルト。


ヴァオパルト「ハハ…ちょっと手こずりましたが、大丈夫です。ジスの方は始末しました。」


遊佐「なに?今なんと…?」


ヴァオパルト「ジスです。あとは人間だけなので、ここにいる誰でも対処できるかと。私は少し疲れましたので、休憩を…」


ヴァオパルトが話している途中で、遊佐が険しい形相でヴァオパルトの頭を殴る。


遊佐「なぜジスを…」


ヴァオパルトは頭を押さえながら、険しい顔で、

ヴァオパルト「貴方様の息子でしょう。私は知っておりました。だから業務を遂行していないのにも関わらず始末されない。不公平じゃありませんか」



ヴァオパルト「あなたは実の息子を手に掛けられない」


ヴァオパルト「だから、代わりに私が始末いたしました」





…ヴァオパルトは、知っていた。

自分は、人工的に生み出された怪物なのだと。


こんなにも肩身の狭い世界で、こそこそと生きるのはごめんだと。



ヴァオパルト「私は、貴方様の道具ではない」



……そう言い、遊佐を手に掛けた。





その後、VoSは血液の供給が出来なくなり、企業としての価値を失った。

--


ジスが動かなくなった直後。



一正「ジスは、人間との共存を求めていたんだ。仲間からの言葉には傷付くこともあったけど、人間と一緒に暮らしていける未来を、望んでいたんだよ」


一正「なのに、どうしてジスが…」


一正はジスを抱き締め、涙を流す。

降り続く雨が、ジスの血液と一正の涙を一緒に流していた。




…その時、ヴァオパルトは、感じた。



人間はあたたかい…

こんなにも心の奥底をじんわりとあたためてくれる。

こんなにも尊い存在なのかと。


これは、別の血が通っているからなのか…?


ジスにはこれが分かっていたというのか…?


なぜだ…?












-------------------------



時が経つ。




都心の街を歩くのは、ヴァオパルト。



その姿は、まるで、人間。















fin.





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ