1話 漂流しました
高2の夏休み、俺と幼なじみで親友の繁太という奴と二人で補講を受けることになった。俺たち二人は学年でもバカコンビとして有名で、いつも目立っていた。繁太は人気者だと勘違いして喜んでいるようだが、どう見ても馬鹿にされてる。俺は細田タカシという普通のヒョロガリもやし男だが、見た目に反して野太い声を出すので面白がられている。繁太は、毛盛繁太という名前で、その名の通りの毛深いやつ。高2のくせにヒゲモサモサなやつでその上彫刻のような顔をしているので貫禄があり、先生に叱られていたりすると、先生よりも年上に見えることから面白がられている。
「シゲタ、明日から夏休みやな」
「そうやな。俺らは補講やけどな」
「そうや!タカシ明日の補講終わりに近くの海いかん?水着持ってきてや」
「おおええよ。ほな行こか」
俺達は、明日午前までの補講のあと学校近くにある海へ行く約束をした。
そして翌日。学校近くのコンビニで集合して朝食を買った。シゲタは数百円足りなかったので俺が貸してやった。
「シゲタ…お前買いすぎやねん。あとでお金返せよ?」
「俺食べ盛りやからしゃあないねん。金はまた返す言うてるやん。」
「またって…なぁお前…」
シゲタはいいかげんなやつなのできつく言わないと無かったことにされてしまう。
「というかシゲタ…そんなに食うから太るねん」
シゲタは無視してスマホを取り出した。
「もう時間やん?!」
コンビニ前で食べながら話していると、補講の時間ギリギリになっていた。
急いで高校へ向かったが、途中にある急な坂道のせいで、帰宅部である俺とシゲタはへばって遅刻した。
「遅い。お前ら何時やと思っとるの?」
教室へ着くと、この学校で最も恐ろしく厳しい数学の針山先生が待っていた。
「すんません!!」
二人で言い訳をいろいろつけて謝ったが、針山先生は
「はぁ…お前らホンマに真剣にやる気あんのんかい?来年受験生やぞ?」
とあきれていた。
それから、針山のグチグチ説教を聞いたあと、しっかりと補講を受けて午後1時。弁当を食べたあと海へ向かった。
「ハァハァ…アツイ…タカシぃジュース買うて」
「ええけどお前絶ッッッ対返せよ?!」
近いと行っても自転車で行くと海まではまあまあ距離があったので休憩しつつ向かった。
「あっついのぅ…やっとついたな。」
そう言うシゲタの顔には滝のように汗が流れ落ちていた。
水着に着替えて海へ行くと、平日ということもあってか砂浜には掃除する爺さんと婆さんしかいなかった。
「シゲタ…お前腹ブヨブヨやんけ」
「うっさいなぁ…背伸びたら痩せるって」
もう高2だから急激に伸びるということはおそらくないと思うが、太っていることをいじると中学の頃くらいからシゲタはこの言い訳をしている。
浅瀬で泳いだりしていると、浜の方に流木を見つけたのでシゲタを呼んで海へ運ぼうとした。
「シゲタ、これに乗って遊ぼ」
「そうやな!これで外国まで行けるんちゃうか?」
「いけるかアホ」
何を思ったのか俺達バカ二人は細長い木一本にまたがって航海しようとしていた。
本当にどうしようもないな…
「おい…タカシでっかい波来てるぞ?!)
「うっさい!出航や!」
俺が言うとシゲタも乗り気になって
「行くぞー」
そしてそのまま海へ出た。
案の定波に巻き込まれてしまう。
「うぐっぅ…」ブクブクブク…
そこからは意識がない。
「あれ?!…俺生きてるんか?」
目が覚めると見覚えのない浜にいた。
「シゲタ?どこやねん?!」
キョロキョロ焦りながら探すと、シゲタが転がっていた。
「シゲタ!!大丈夫かおい!」
揺さぶっているとシゲタが目を覚ました。
「こわい……」
「俺…お前より先に起きててん」
シゲタは、俺より先に目覚めていたらしいが、俺が死んでしまったと思い込んで怖くなってそのまま寝ようとしたらしい。
「タカシ…お前が流木に乗ろうとしたからやぞ?」
「なんやと?!お前こそ海行くとか言い出したからやろが」
二人でどうしようもない言い合いをしていると、浜の奥にある林の方向からうめき声が聞こえる。
「「ヴォーン…ヴォーン」」
「ッッ!!」
「シゲタ…今の聞こえたよな?」
「お前が起きる前から聞こえとってん…」
「なぁ…タカシここってどこ?」
シゲタに言われて気付いたが、この島には街どころか人工物さえ一切見当たらない。全く見覚えのない場所だった。
「近くの無人島かな…」
「タカシおい!あれ見て!」
俺が一人で考え込んでいると、シゲタが指をさして俺の注意を引く。
指差す方向を見ると、山の頂上付近に鳥のような影が飛んでいるのが見えた。
「んなもんただの鳥やろ。」
「違う違う。山と大きさ比較してみろって」
シゲタが珍しく真面目な顔をしていったので、
言うことを聞いてみると、
「……!!何やあれ?!」
確かに山と比べてみるととんでもない大きさの鳥だった。
そして、しばらくするとこちらに向かって飛んできた。
「おいおいおい!シゲタ来てるぞ!」
「ほんまやっ…!」
俺達の頭上を飛び去っていくと、姿がはっきり見えた。
[[ドラゴンやんけっ!?]]
二人で口を揃えて腰を抜かした。
それは見間違えることない、ゲームやアニメで見るような完璧なドラゴンだった。
「おい…シゲタ…」
「ここどこやねん?!」