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セフレもち男を好きになるということ  作者: 一華花
第一部 23歳のもやもやする初恋
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女子会(おつきあいのマナー)


「ふゆこ、あんたマナー違反してるわよ」


「…はい」


テーブルの上にあったハイボール缶を手に取ってから足を組みなおした長崎は、組みなおした足に肘をおいて私を下から見つめ上げてきた。


「あんたは彼氏がいる間にほかの男と2人きりでデートをして、その男を好きになった。

それはまぁ、あるかもね。人を好きになるのに理屈なんてどうせ通じないし。


でもあなたはそれを自覚しながら彼氏を縛ったままでいる。

それはフェアじゃないわね」


「…うん」


ぐうの音も出ない。


最近の私の罪悪感の根源であるそれをはっきりと言葉にされて、真っ当に生きてきた23年間が無効にされるほどの罪を天のもとにさらされている気分である。


「なんで別れないのよ。

やっぱキープしときたいの?その玉地って確か他にもセフレいる男でしょ」


「…うーん、キープとかするつもりはなかったというか…。

ただいつの間にか好きになってたから言い出すきっかけを失ったというか…


彼氏に別れたい素振りとか見せたこともないし急に言うのもなぁ…て」


「…ふゆこ、あんた」


私の言葉に目を丸くした長崎は、しみじみと呟いた。


「やぁな女になったわねぇいつの間にか。

恋が人を変えるってこういうことなのかしら。


中学生のときなんてずっと席で本読んでるおさげ女だったのにねぇ」


「…わかってるよ。

だからもしかして私玉地のこと好きなのかなって自覚してすぐに長崎に凸したんじゃん」


長崎の言葉に刺され、少し背を預けるつもりでソファに寄り掛かかった。


そしたら、ずるずると身体が柔らかな座面に吸い込まれていって、自分の意志では止められなくなった。

瞼が重くなり、くらむ視界の端で、長崎がため息をついたのが分かった。


「ばか。話すのは私じゃないでしょうに。

…ったく寝るならベッド行きなさいよ」


雑に投げられたふわふわの毛布に顔を埋めて、彼氏のこととか、玉地のこととか、


落としていないメイクのこととか悩む間もなく、深い穴に吸い込まれていくように眠りに落ちた。


―――


ソファで寝落ちた日本酒女を見つめながら、まだグラスに残っていたワインを飲み干した。


「…結局5号くらい飲んでるし」


ぼやきながらテーブルの上のおつまみを片して、チョコレート3粒とタバコを持ってベランダへ出る。


換気がてら窓を少しだけ開けたまま、ベランダに置いた小さなテーブルにチョコレートを置いて椅子に腰かけた。


「…ふ―」


湿ったぬるい風を感じながら煙草に火をつける。


ふゆことは中学からの友人だ。

会う頻度はそこまで高くないけれど、メッセージのやり取りはよくしている。

彼女は分かりやすい性質だから、メッセージからでもなんとなくふゆこの近況と心境は伝わる。


もちろん、今回の恋の始まりもなんとなく察してはいた。


今回のふゆこの恋は、結構、単純だ。


ふゆこの彼氏はまっとうな人間だけど、まっとうだから恋に落ちるわけでも、

愛し続けることができるわけでもない。


もともと彼から告られてなんとなく付き合ってみただけのふゆこが、あまり趣味や価値観の合わない彼氏君と1年半持っていたのが凄いなと感じていたくらいだ。


そこへ現れた、話があってほどほどに女の扱いも上手そうな少しくたびれた年上の男。

意外と優しくて、人の悪口を言わなくて、仕事も要領よくこなすタイプらしい。


まぁ好きになってもしかたないというか、そういうこともあるかなとは思う。


…運命的な、情熱的な恋をしなくたって、人は目がくらむこともある。


少し厄介なのは、聞いている限りその男はもう恋やらなんやらには飽きていて、恋人がほしそうなわけではなさそうなことと、


恐らくふゆこが初恋だということくらいだ。


「…はぁ。


あんな罪悪感にまみれた顔するくらいなら、さっさと別れりゃいいのに。

まぁた変なこと気にしてんでしょうねぇ」


つくづく不器用な子だわ…と思いながらチョコレートを口に入れる。


たばこの香りと混じる甘いチョコレートを口で溶かしながら、ふゆこが酔いながらぼやいていた言葉を思い出した。


『たぶんあのチョコ一粒300円くらいするやつなんだけど…

めっちゃチョコ好きなんだけど…

――鹿野ちゃんと玉地が話してるの見ながら食べてたら、なんか、宇宙の味がした…』


…うーん


「…相変わらず表現が独特だけど」


ちょっと懐かしい恋の記憶がよぎらないでもない。

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