女子会(言い訳)
「…往生際が悪くも、なるよ」
一升瓶を担いできた長崎が、どっこいしょと言いながらベッドに腰を下ろした。
足を組んで前かがみになると、空いた私のおちょこに片手で器用についだ。
「ん〜?」
流石イタリアンレストランの給仕。
注ぐ手の角度から、滑らかな透明の液体の曲線から、
全てセクシーだ。
「私、彼氏いるんだよ。
初めてできた彼氏。
しかも良い人」
私の彼氏は、ちょっと変わってるとこもあるけど、真当で良い人間だ。
「国立大卒の高学歴彼氏ね。
高身長で、芋臭さはあるけど磨きがいのあるまぁまぁのイケメンボーイね。」
「うん」
しかも私がゲットできたのが不思議なくらい客観的には良い条件が揃ってる。
「ふゆの好みど真ん中」
「うん」
高身長
塩顔
インテリ理系
白衣の似合う男
大学卒業と同時期に付き合い初めて、そろそろ1年半たつ。
何しても怒らないし、髪を染めれば可愛いと喜んでくれる。
太陽耐性がないのに、海に行きたいという私に付き合って、熱中症でぶっ倒れたこともある。
「でもその彼氏が、別に他の男と寝ても良いって言ったんでしょ?」
「…うん。
でも、好きな男と寝ても良いわけは、ないと思う。」
冒頭の通り、私の彼氏の男女観は少し変わっている。
4回くらい本当に誰とでもエッチしていいの?と聞いて、イエスと言われ、そのたび私のこと好きなんだよね…?と確認した。
もちろん避妊はしてほしいけど…と4回目に言われて、「お、おう…」ともう何も言えなくなった。
その時に、私は完全にセックスは自由らしいと理解した。
「まあ好きになっちゃう可能性あるのにOKしちゃった彼氏くんの失敗でもあるんじゃない?
だから恋人たちは可能性を限りなくゼロにするために、お互いを縛るわけだし。」
長崎はワインを煽って、組んだ膝に肘をつきながら床に座る私を見下ろした。
私は長崎のついでくれた日本酒に目を落としながら、ため息を付いた。
「…そうっちゃそうなんだけど。
でも違うといえば違うんだよね」
「……?
どうゆうことよ」
ぐいと日本酒を飲み干して、一粒数十円のチョコレートを噛んだ。
そしてチョコレートの余韻が残るうちに、口を開いた。
「抱かれたから好きになったわけでは、無いと思う。」
初めて玉地と関係を持ったときのことを思い返して、目を細めた。
カチカチと針が動く、鳥がモチーフの掛時計を見つめて、思い出したままに言葉を口にした。
「最初、たいして気持ちよくなかったしなぁ」
何処かでしょんぼり肩を落とす男の幻影が見えた気がした。