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セフレもち男を好きになるということ  作者: 一華花
第一部 23歳のもやもやする初恋
40/56

仕事詰めはろくなことがない【なんで別れたの?_5】

二人で並んで歯を磨いて、その間も玉地はうつらうつらとしていた。


口をすすいで、ふらついている玉地の背を支えながらベッドに転がすと、横になった赤い顔の玉地が何をいうでもなくぼやっと私を見つめた。


ベッドのギリギリまで寄って私の方に身体を傾けている姿を見て、私はマスクを着けたまま玉地の寝るベッドに一緒に寝そべる。


「…ふゆたろ、うつっちゃうよ」


ころりと私の方に向き直った玉地が閉じかけの目で見つめてくる。


「いいよ」


眠気に抗わず、私は目を閉じた。


「…ありがと」


「うん」


「…ね、ふゆたろ」


「なぁに」


目を閉じたまま応える。


「明日、おじや食べるね。

おいしそう」


「…よく気付いたね」


「ふふ。まあね」


「…」


「…ふゆたろ、」


「なによ、寝ろよ」



「りんご、反対口のスーパーまで買いに行ってくれたの?」


「……あぁ、うん。私の家では病気にはりんごだから。」


玉地の家は大都市の中心すぎて、生鮮食品を扱う店がすぐ近くにはない。

というか手軽なスーパーがない。


「そっかぁ、ありがと。

おいしかった」


「ん」


ずりずりと近寄って私の胸元に顔を埋めくる玉地を静かに撫でると、暖かい体温に私も更にうとうとしてくる。


眠りの狭間で頭を撫でる手がゆっくりとしてきたころ、また玉地が口を開いた。


「…ふゆたろ、


きみなんで別れたの」


手が止まり、玉地の頭に顎を乗せる。


何故か眠気は残ったまま、それでも顔は見れないし、見られてはいけないと思って、胸に玉地の頭を抱き込んだ。


「んーー」


目を閉じたままゆっくりと柔らかなねこっけを撫でつつ、億劫に感じながら、口を開いた。


「葵くんといても、たぶん幸せになれないから。

私も、葵くんも」


「…ふうん」


玉地が目を開けているのか、わからないけど、その声は眠りの狭間にあることは分かった。


「…ふゆたろは、幸せになりたいのか」


「あたりまえじゃん」


「今は幸せじゃないの?」


「幸せだよ。すっごく。」


「…彼氏といたときは幸せじゃなかったの?」


「…幸せなこともあったけど、葵くんとの時間を私は大切にできなかったから。

大切だと、どうしても思えなかったから」


「そっかぁ」


「…んなら、しかたないかぁ」と呟いて、少しすると寝息が聞こえてきた。

重い瞼を少し持ち上げて胸元を見下ろすと、平和な顔ですやすやと眠るいつもより幼げな顔が見えて、その頬をつついてみた。


少し眉のよったおでこに口づけて、息苦しくないように少しスペースをあけた。

でも、人の体温があることが分かるように。


1人を苦に思わないこの男に、少しでもこの体温の愛しさをすり込めるように。


「…今が、一番幸せなんだよ、玉地」





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