仕事詰めはろくなことがない【なんで別れたの?_3】
その後、軽く部屋を片したりゲームをして過ごしていると、ギッとベッドのきしむ音がした。
もう外は暗い。
「ふゆたろ…」
「ん、起きた?」
「うん…体が気持ち悪い…」
「ずっと汗かきながら寝っぱなしだったからね。
でもちょっと落ち着いたみたいだね。体拭いて薬飲もうか」
ゲーム機を置いて立ち上がり、お風呂場でお湯に浸したタオルを絞って戻ると、玉地が座ったままうつらうつらとしていた。
「玉地、服脱がせるよ」
「んぁ、んぅ…えっち」
「元気そうだな、薬飲め」
「ん」
身体が冷えないように手ばやに背中や脇を拭き、ぬるくなった冷えピタを張りなおす。
「食べ物食べれそう?」
「んん~いらなぁい」
「いらないじゃなくて食べれるかどうか聞いてんの。
ゼリーなら食べれる?リンゴもあるよ」
「!リンゴ!?あるの?たべたい!」
「あーいよ」
狭すぎるキッチンではやりにくいというのと、目を離したら直ぐにでも寝そうな玉地から目を離さないために、未開封のまま放置されていたまな板と包丁を持ってきて、ローテーブルに置く。
洗ったリンゴに包丁をあてると、ベッドにいる玉地はそわそわとし始めた。
「ふゆたろ…きれる?」
「…切れるが?私をなんだと思ってるんだ」
いつもの癖で皮付きのままリンゴを切ってから、皮は消化しずらいかな、病人にはあんまりかなと思って、皮部分を切って自分の口に運んだ。
「…意外とふゆたろ手際いいよね」
つまようじにリンゴを差して差し出すと、じっとリンゴを見つめてぼそりと玉地が呟いた。
「ふん。実家暮らしだからって見くびんな。
姉をなめんなよ?」
もぐもぐと次から次に食べていく玉地ににやりと笑うと、ふっと玉地は微笑んだ。
「おん、見くびってたわ。
助かったよふゆたろがいてくれて」
「おう、感謝しな」
熱のせいでダルそうに、でもちょっといつもの感じが戻ってきてる玉地がにやりと笑いながらしゃくしゃくとリンゴを食べ進めていくのを見て、変に満たされた気分になった。
同時に、悔しくなった。
だから安易な一言をぽつりと言ってしまった。
「君、一人だったら死んでたよ」
「おん、そうかも…ありがてぇ」
しゃくしゃく
「ー彼女とか、結婚とかしないと、一人で死んじゃうかもよ」
「…せやなぁそりゃ寂しいなぁ」
しゃく…しゃく
なんでこの男はこんなに油断しているのだろうか。
お互いの裸を知っている女が、こんな危ない言動しているのに。
あぁ、そうか、あの春の夜に、私が油断させてしまったからだ。
それからずっと、この男の中で私は”いい女”なのだ。




