仕事詰めはろくなことがない【なんで別れたの?_2】
氷枕や冷えピタ、風邪薬、お米、ゼリーなど一通り買って帰ると、玉地が死にかけていた。
私の声掛けに僅かに開いた目は充血していて、意識も朦朧としているようだった。
これはただの風邪というより、流行り病の可能性が高いな…と判断し、持っていたマスクをつける。
明らかに家を出る前よりも体温が高かったので、ひとまず冷えピタをおでこ、首、脇に貼る。
経口補水液に奇跡的に家にあったストローを差して口元に持っていき、頭を撫でて起こした。
「玉地、飲める?てか飲んだ方がいい。
気合で飲んで。舐めるだけでもいいから」
「…ぅん」
少し唇を濡らしたところで玉地は力尽き、ぐったりと身体をベッドに沈めた。
頬にかかった伸びた前髪をよけてやりながら、小さくため息をつく。
この様子では、ろくに薬も飲めないだろう。
「しかたない。一応意識はあるし、起きたら薬飲ませて…」
袋からドリンク系を冷蔵庫に移し、おじやの準備をする。
一応出来合いのおかゆも買ってはいるものの、以前玉地が実家ではおじやを食べると言っていたのを思い出してしまったため、レンチン米を煮る準備をする。
くつくつと煮えているおじやを見つめながら、頬をおさえる。
ー不謹慎だ。
分かってる。
あんなに体温が高いと、きっととてもつらいだろう。
哀れだ。
本当に可哀そうだと思っている。
しかし、いつも余裕そうで気だるくゆるく一人で生きている男が、私の腕のなかでくったりしている様子にとんでもなく心が沸き立っている。
感じたことのない高揚に頬が火照るのを感じながら、ゆっくり米を混ぜ、はっと気づいて体温計を持って玉地のもとへ向かう。
少し呼吸の落ち着いている玉地を見てほっとして、また脇に体温計を差し込む。
「ん、ふゆたろ…?」
「うん。熱さらに上がってそうだから体温測るよ。
挟める?」
「ん…」
僅かに力の込められた腕を上から一緒に抑えて、汗ばむ頬に手を当てた。
あたかも熱を測っているような雰囲気で、ペタペタと触れる。
意外と柔らかい頬に触れるだけで、息をしているだけで、愛しさが増していくような気がして、
そんなの、ずるいと思った。
「…玉地、つらい?」
「ん…すこ…し?」
「なーんだ、少しなんだ」
「…んぁ…ひど…」
「まぁね」
私にすり寄るように頭を寄せてくる玉地を撫でて、小さくつぶやいた。
「…つらいよね、ごめんね、かわいいね、おやすみ」
暫く目元に手を当てると、少し荒れ気味の息が整い、眠りについたようだった。




