仕事詰めはろくなことがない *春夜*
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朝日の眩しさに目が覚めると、玉地が新聞を読みながら一服している姿が目に入った。
シャワーを浴びたのかまだ髪が湿っていて、少し長くなった前髪が伏せた目にかかっている。
窓から差し込む光に照らされた、いつもよりさらに気だるげな様子を見つめてなんとなくまどろんでいると、不意に玉地が新聞から目線をあげて私を見つめた。
「お?起きてるし。
おはよ、ふゆたろ」
「…ん。おはぁ」
ばさっと新聞をデスクに置いた玉地は椅子から立ち上がると私が二度寝しようとしているベッドにぼすっと倒れこんできた。
「ぐぇ」
「ふ~ゆ~た~ろ~お~は~よ~」
「ぐるじぃ」
ぎゅーと抱き込んですりすりと頭を胸に埋めてくる玉地の髪をよけて枕に顔を埋める。
ねむい
「いいにおい~やわらかい~」
「ん~うるさぃ…」
「ひどいなぁ。
ふゆたろまた寝るん?」
「ん」
ほぼ吐息のような返事を返して、布団を口元まであげて寝る体勢に入ると、胸元から顔をあげた玉地がもぞもぞと這いあがってきた。
「んじゃ俺ももうひと眠りしよっかな。
おいで」
優しく頭を持ち上げられて、
玉地はすっぽりと私の頭を自分の右腕に抱き込むと、左腕で少し私の腰を引き寄せた。
窓から差し込む光を瞼に感じながら、だらりとやってくる眠気を感じつつ、
やはりこの男はろくでもないなと思いながら二度目の眠りについた。
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春の初め
珍しくぞくっと冷えた夜。
人生二人目の男を頂いた感想は、正直、「こんなもんか」くらいだった。
(なんとなく玉地には申し訳ないけど)
玉地が超絶技巧を持っているわけでも、背徳感で盛り上がることもなく、なんとなく終わった。
なんなら、
「玉地に私をイかせることなんてできないよ」
「―ん?」
という挑戦的な始まりだったため、最中も色気皆無だった。
セックスの真っ最中に「私の勝ちな?」なんていったのは 初めてである。
そしてセックスは彼氏とのほうが気持ちよかった。
そりゃ1年半かけてお互いの趣向をすり合わせているんだから当然と言われれば当然だ。
だから、抱かれて好きになるとかもなく、声を小さくして言うならば、少し肩透かしを食らった気分だった。
それでも、そのお手軽さは私達の関係の継続を促した。
といっても、会うたびセックスばかりしているわけでもなかった。
玉地はセフレを何人かキープしているわりには特別性欲旺盛なわけではなかったからだ。
仕事終わりに玉地の家へ行って二人で泥のように眠るか、ちょっと遊んでからやっぱり泥のように眠るかしていた頃。
その日も自宅のデスク前の椅子に座ったパンイチの玉地はたばこを吸っていて、新聞をじっと見つめる姿をベッドから見つつ私は口を開いた。
「…ねぇ、玉地」
「…うん?なーに」
ふーと煙をはいた玉地は新聞をめくりつつ返事をした。
「自分でもびっくりなんだけど」
「うん」
「肌を重ねたというのに、君にひとかけらも恋愛感情がわかない」
「ーふは」
噴き出した玉地は顔をあげて、にやりと笑った。
「よかった。
ーでもな、ふゆたろ。
そんなもんなんだよ、エッチてのは」
「どゆこと」
カチャッとタバコをケースに戻した玉地は布団をめくり、私のいるベッドにはいってきた。
ぎゅうと私を抱きしめて頭を撫でながら、子守歌のように語った。
「性行為は愛を育む行為とは限らないってこと。
愛を伴わないセックスなんて、よゆーでこの世にはこびっているわけだ。
こちらの世界へようこそ、ふゆこちゃん」
「なんか夢がないし不埒だし、ろくでもない」
「んなこたぁない。
女の子はやるとなんかのホルモンがでてなんかかわいくなるらしいし、男もすっきりする。
win win」
「…ふぅん。くずいね」
「そうでもないけどね。
俺ほど優しい男もなかなかいないよ」
「…なら、よりたちが悪くない?」
「…そう??でもあったかくない?」
「まぁ、ね」
「いやしかし、安心したよお兄さんは。
ふゆたろがいい女で」
都合が、”いい女”
「君もいい男だねぇ」
「だろ?」
腕の中の私を見下ろした玉地はにやりと笑った。
「…くーず」
「ふゆたろもね」
「…そうだね、私も結構なくずだ」
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何故この頃私は全く罪悪感を抱かなかったのか、それは玉地に対して素晴らしいほどに愛がなかったからだ。
今は…




