仕事詰めはろくなことがない【1】
それからは、本当に忙しかった。
目が回るような忙しさとはこういうことかと、社会にでて初めて実感した。
連日の終電帰り。
ダメだ、少し早く上がろうと無理やりにみんなで一斉に退勤すると、自然と足は飲み屋に向き、何故か終電近くまで結局飲んでいる我らのハイな状態がご理解いただけるだろうか。
そして今日も出社早々デスクに缶詰めになりながら、終わらない仕事を無理やり終わらせていた。
「鹿野、あれできてる?あの~あれ、なんていうんだっけ、あの」
「はいはい、これでしょ。
さっき置いとくよって言ったじゃん」
鹿野ちゃんが玉地のデスクから書類を取り上げ、差し出す。
「お~これこれ。
あんがとなぁ」
「ちゃんと話聞いてよね、まったく」
口を尖らせる鹿野ちゃんと、「すまんすまん」とのんびり返している玉地を見て、石がひゅーとはやし立てた。
「夫婦やんお二人さん。
できちゃってるんじゃないのぉ?」
ぐっと親指を立てた石に玉地は「んなわけ」と軽くいなし、鹿野ちゃんはにっこりと笑った。
「生憎、もっとかっこよくて話もちゃんと聞いてくれる彼氏がいるので」
「んじゃ、タマは間男役だな!」
間男、という言葉に眉をあげた玉地は、ため息をついた。
「…はぁ、なんでやねん。
鹿野もひどいな。俺だってちゃんと聞いてるときは聞いてるやん…
同じ業務だってしてるのに~」
「まぁ、仕事はね。色々助けてはもらってるけど…」
「んじゃもっと優しくしてよぉ」
「それとこれとは別」
きっぱりと言い切る鹿野ちゃんに周囲が笑い、和やかになる。
やっぱ仲いいやんとか言いながら石が自分のデスクに戻るのを見て、私は席を立った。
「鹿野ちゃん、これ運用部向けの資料なんだけど、七瀬主任に見せる前にちょっと確認してもらってもいい?ごめんね、忙しいところ」
「いえいえ!とんでもないです!もちろん見ますよ!
ーというより、もうふゆこさん作成したんですか!?これ週明けまでのやつですよね、たしか」
どんなに終電帰りが続いてもクマ一つ無い鹿野ちゃんの完璧フェイスを眩しく思いながら、ため息をついた。
「うん。死ぬ気で終わらせたから抜け漏れが怖いところなんだけど…とりあえず終わらせて、今日こそは帰ろうと思って。
石より先に終わらせないと連行されるから…」
「あぁ…ですねぇ」
鹿野ちゃんが苦笑いしたその向こう側で、席に着いたばかりの石ががばっと立ち上がった。
「ふゆちゃん!?まさか俺の事置いて帰るつもりなの!?
しかも華金なのに飲まずに帰ろうとしてるの!?」
石の喚く声の勢いでPCから落ちた付箋を拾い上げて、ペタリと貼りなおす。
「今私に必要なのは睡眠」
「ねれるよ!明日休みだよ!?」
「うっさいな。昨日も飲んだでしょ。お金も睡眠も足りないんだよ。
今日は絶対帰る」
薄情者~と嘆く石を無視してPCに目を落とすと、ぽんと肩を叩かれた。




