これは甘えですか【4】
お風呂から上がると、玉地がベッドに転がって寝息を立てていた。
最近ふっくらしてきたような気がするお腹をぽこぽこ叩いても反応がない。
「…玉地、起きろ。歯磨いて風呂入ってこい~」
ベッドに腰かけてぺちぺちと頬を叩く。
「んぁ、ん~」
「風呂入んないならベッドで寝かせないよ」
「…んぅやだぁ」
「じゃぁ、起きや」
寝穢い男の上半身を抱えてを無理やり抱き起こす。
ほぼ介護である。
おっもと呟きながら上半身を支えていると、そのままぐっと抱き込まれた。
「…なぁんでそんなひどいこというの」
「…やなら痩せや。重いねん」
「ひ、ひどい」
耳元の声に冷静な声を意識して返すと、悲しげなふりをしながらのんびりと玉地が立ち上がった。
「はぁ、仕方ないなぁ。風呂入るかぁ」
「当たり前や。はよいけ」
「あぃ~」
タオルをもって脱衣所に消えていく背を見送って、ベッドに倒れこむ。
玉地はくっつくのが好きだから、今更抱きしめられたところで、きゅんきゅんどきどきなんてしないけど。
でも、じんわりと、染みていくような幸せな温かさが沸いてしまう。
玉地の抱きしめる腕に力が入れば入るほど、その腕の中で、私の心臓が蝕まれていくような想像をしてしまう。
からめとられて、いつか、奪われてしまいそうな恐怖がある。
…ちゃーんと好きなんだよなぁ、私。
「…はぁ、嫌になる…」
「ーなんが」
「ーのわっ」
頭上の声に慌てて枕から顔をあげると、濡れ髪の玉地が私を見下ろしていた。
お風呂に入ったのに眠たげな眼の玉地は、歯ブラシを咥えている。
「なぁにがやなの」
「…ん?あぁ、まぁ、いろいろ?」
「ふーん」
曖昧な私の言葉に目を細めて、しゃこしゃこと歯を磨きながら玉地はベッドに腰かけて、寝転んでいた私にもたれかかった。
そして私の頭をポンポンと少し雑に撫でた。
「真面目だからなぁ、ふゆたろは。
いいこいいこ」
玉地の手の動きに合わせて動く前髪に目を細めて、眉を寄せた。
「…撫でればいいと思ってる男だ」
「おん。撫でると大抵のことは解決する」
「なめんな」
少しでも長く撫でてもらえるように、少しつらい頭の位置を動かさないようにしている自分に苦く笑いながら、目をつぶった。




