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セフレもち男を好きになるということ  作者: 一華花
第一部 23歳のもやもやする初恋
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これは甘えですか【3】


会社から20分もかからないところに、玉地の家はある。

社宅ということもあり、築年数はいっているが都心のなかなかよい立地だ。


この立地も通い詰めてしまう理由の一つだ。


「あ、ごめん。くさいかも」


ガチャリと玄関の鍵を開けた瞬間に慌てて振り返った玉地に首をかしげる。


「ん?女でも連れ込んでたん?」


「ちゃうわ。最近紙吸ってたからタバコの匂い強いかもってこと」


ふぅん、と適当に返しながら玄関に入ると、確かに紙たばこと、玉地の香水の匂いが混ざったような匂いがした。


妙に男臭く感じるようなそんな匂いに少しどきっとしながら、ずかずかと部屋に上がる。


「まあ、耐えられないこともない」


「ひどいなぁ」


部屋に鞄を置くと、玉地はゲーミングチェアにドカッと座り込んでいそいそと電子タバコを準備し始めた。


「早い」


「これがなきゃ俺の夜は始まらん」


「…ホリックめ。先お風呂入る」


「あーい」


汗ばんだシャツを仰ぎながらバレッタで髪をあげ、コンタクトケースを鞄から発掘して洗面所へ向かった。


鏡の前でコンタクトを外し、髪を梳かす。

ぼぅっと髪を梳かしながら考え事をしているうちに、目線が下がっていたらしい。


突然背後からぬいぐるみのようにぎゅっと抱きしめられて、「のわっ」とかわいらしくはない声が出た。


「びっくりした、いつの間に」


「ふゆたろがぼうっとしすぎ。どしたん」


「ん?いや…、別に」


「…ふーん。トイレ先行っていい?」


玉地の家はユニットバスだ。

私がお風呂に入る前に慌ててきたのか。


「どーぞ。うんちしないでね」


「おう、ちいさいほう」


すっと離れた腕に少し寂しさを覚えながら、ドアの向こうに消えていく玉地を見送り、鏡を見る。

いつも通りの不愛想な顔。


少し不安そうな面持ちに見えるのは、思い込みだろうか。


ふぅと少し息をついて、はっとした。


「やばい、汗臭い」


「そうでもないが」


またしても突然現れた玉地に声にならない悲鳴を上げる。


「―急に現れるな!かぐな!流した!?」


「…んなこといわれてもなぁ。ちゃんと流したしな。

疲れたんだからちょっとくらい充電さしてよぉ」


後ろから抱きしめられて首元に顔を埋める玉地にいろんな意味でドキドキしながら、10秒数えたところで無理やり腕から抜け出す。


「お風呂!」


「はいはい。けちだなぁもう」


両手をあげて肩をすくめた後、玉地は洗面所を出て行った。

完全に部屋のドアが閉まる音を待って、慌てて服を脱いでお風呂場へ飛び込んだ。


前回忘れていったクレンジングが目に入る。


「…」


―彼氏と別れた。


って言ったら、玉地は何を思うんだろう。


あんなに予防線を張ったのに、自分を好きになったんじゃないかとか、疑うだろうか。


―――玉地を好きだと気づかれたら、この関係はどうなってしまうんだろうか。



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