これは甘えですか【2】
「はぁ…つかれぴ」
オフィスを出てエレベーターにのり、壁に寄りかかる。
30階から下っても、流石にこの時間にはどの階にも止まらず、スムーズに降下していく。
社員証をかざしてゲートを抜けて、ビルから脱出した。
一歩外に出た瞬間、生ぬるい空気と、どっぷりと暗く帳の落ちた空が目に入る。
少し先に見える東京タワーをぼぅと見つめながら歩いていると、ブブっとスマホの通知が鳴った。
スマホを取り出すと、玉地からのメッセージと、その3個下のアカウントが目に入った。
「…そういえば全然思い出さなかったな。
もしかして私…薄情?」
葵くんからの最後のメッセージをなんとなく見つめてから、通知マークのついている玉地のメッセージを開いた。
『喫煙所の近くでまってて』
…。
「…別に君の家行くために帰宅ずらしたつもりはないんだけどね?
……まぁ疲れたし眠いし、待つか。
うん。眠いしね」
くるりと振り返って一度でたエントランスに入り、喫煙所に向かう。
深夜でも汗のにじむ東京のうっとおしい夏に眉を寄せながら、喫煙所近くのコンビニでソフトクリームを買い、外のベンチに座った。
夏の夜空を見上げつつソフトクリームをなめる。
イヤホンからは洋ロックが流れ、頭がぐちゃぐちゃなような空っぽのような不思議な気持ちになる。
今私は何を考えているんだろうか。
訳の分からない仕事のこと?恋愛のこと?オフィスに忘れてきた折り畳み傘のこと?
――分からない。
空は暗くて、何も無いようで、しかし重く圧迫感を感じる。
もう一度明るいコンビニに行って、一呼吸しなければ、息が詰まりそうだ。
ふらりと立ち上がろうとした瞬間、硬いもので背中を突かれた。
「―よっす」
「―のあっ」
びくりと振り返ると、玉地が私の忘れてきた置き傘を持って私に突き出していた。
「―ただでさえ疲れてんだから、びっくりさせんな…」
「だって5分くらい後ろでタバコ吸ってんのに、全然きづかないんだもーん」
「まじ?気づかなかった…てか喫煙所から出て吸うな」
「だーれもいないから治外法権」
「んなわけないやろ。はよけせ」
はいはいと言って玉地はタバコを抜き取って喫煙所の灰皿に捨ててくると、ひょいと肩をすくめた。
「では帰りましょうかね、我が城に」
「…おん」
先に歩き始めた玉地を追いかけて、私もそろりと歩き出した。




