これは甘えですか【1】
「……ヘルプさんから早速コードきてる。誰か解読してくれ…俺もうアルファベット見ると吐きそう…テストはやるから…」
「おけ。仕様書どこにある?
共有ファイルにはいってないけど。……!寝るな!石!」
PCに手を置いたまま白目をむいている同僚の前でバチンと両手を叩き、無理やり覚醒させる。
ちらりと見たPCには『0:12』の表示。
入社してやっと一年たつかどうかだが、今までにない業務の無茶ぶり具合である。
ほぼチームの専門外の業務が急に、しかも短納期で入ってきたせいで、てんやわんやである。
「んぁ…企画部はシステムコードなんてからっきしの人が多いからより具体的な説明が必要で…組んだミーティングが3日後だから…」
「ちがうちがう。仕様書!しかも今やってるのは運用部向け!
―だめだこりゃ。玉地!石川脱落した!」
だらりと椅子の背もたれに寄り掛かりながらぱちぱちとマイペースに仕事をしていた玉地がこちらを振り返り、「ん~」と伸びをしながら歩いてきた。
「石はとくに文系脳だからなぁ。シャットダウンしちゃったか。
他のやつも限界やなぁ」
口がぱかりと空いたまま上を向いて寝ている石の頭をぽんぽんと叩いて遊びながら、玉地は屍まみれのオフィスを見渡した。
「起床!全員帰宅!タクチケはAデスクに置いてあるから自由にもってけ~
明日はちょっと対面でのミーティングしたいから出社してほしいけど、2時間までなら出社時間ずらしていいよ~ミーティング系は全部午後にやろ」
解散~と言いながら玉地は屍たちの間を練り歩き、叩き起こしていく。
私も自分の作業を切り上げてパタンとPCを閉じ、玉地と一緒に同僚を起こして回る。
そして全員が意識を取り戻したことを確認して鞄を持った。
「では、お先に解散させていただきます~」
「おうおつかれ~すまんなぁ遅くまで」
「…おつ~」
のろのろと支度をする同僚たちを差し置いて、いそいそと声をかけると、主任と玉地が手を振り返してくれたので、ぺこりとお辞儀をしてオフィスを出た。




