甘えてもいられない23歳
金曜日。
わが社は生理休暇はあれど、失恋休暇はない。
もちろん1年と半年ほど付き合った恋人と別れた翌日もお仕事は山積みで、でも、それがかえって私にとっては丁度良かった。
「ふゆちゃん、ご飯行きましょ~」
目にまぶしい蛍光ピンクのブラウスを着こなすみなみちゃんが、PCの12:00の表示の切り替えと同時に立ち上がった。
ひと段落した作成資料を保存しながら顔をあげる。
「おつかれぇい。いいねぇどこい…」
「ふゆたろ、悪いんだけどちょっと残ってくれん?
午後一で出すメールに添付する資料のことでちょっと。
昼飯おごるから」
PCから顔をあげた玉地が頼むと手を合わせてきたので、頷いた。
「おけ。ごめんみなみちゃん、先食べちゃってくれる?
奢りには抗えなくて…」
「えぇ~じゃぁ私もなんかやりながらふゆちゃん待とうかなぁ。
どうせお店混んでるし」
席に戻りかけたみなみちゃんを静止して、玉地はスマホを取り出した。
「柊には特別にこのクーポンをやろうと思ってたんだが。
昼時間限定の”松乃屋限定あんみつ引き換え券”」
スマホケースの間に挟んでいた紙を取り出すと、玉地は「甘いの好きよな?」と言いながらみなみちゃんに差し出した。
「えぇ!いいんですかもらっちゃって!」
「おう。今日までなんだけど俺はご覧の通りいけなさそうだからな。
せめて柊がいって味わってきてくれ」
みなみちゃんはぴしっと敬礼をして、目を輝かせた。
「了解しました、任せてください!
お二人とも頑張ってください!」
現金な子だなぁと思いながらも、輝く笑顔で去っていくみなみちゃんを微笑ましく見送った。




