表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三題噺もどき2

ふたりで

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくなな。


※そこまであからさまなつもりはないけど…BL要素注意※

 


 夏休みが始まり、二日ほどたったころ。

 さすがに夕方と言えども、外は暑いなぁ……と、考えながら住宅街を歩く。

 空は橙色に染まり、つい数時間前の目に眩しい青色が嘘のように掻き消えている。

「……」

 この時期になると、日が出ている時間が長いせいか、夕方と言っても、時間的にはかなり遅い時間になっていたりする。

 学校から帰って、家の中であれこれしてたら、気づけば真っ暗って感じだ。

 今は、家を出るときに時間を確認したが、この時間でもこの明るさなのかと思わず感心してしまう。

 まぁ、どうでもいいには、どうでもいいんだが。

「……」

 それより、もう少し気持ち早めに歩かないと…待ち合わせ場所には余裕をもって着くには着くが。

 相手が、異常なほど早く来るので、もう既に待っている可能性がかなり高い。

 一応、この時間に来れば大丈夫だから、と念を押したが。

 ま、そういう性格のやつなので、今更どうこうは言うまい。

 こっちも早めに行けばいいだけだ。

 ―と言いつつ、少しゆっくり家を出たことは、内に秘めておこう。

「……」

 目的地は、自分の通っていく高校。徒歩で30分から40分ぐらい。

 普段は自転車で通学しているが、今回は……というか、今は邪魔になるので置いてきた。

 ……その自転車通学ももう終わったけど。高校生活最後の学年である以上避けられない事ではあるが。学校の規定で、部活動をしている間は、自転車通学が許されたが、それが終われば徒歩でというやつがあるのだ。もちろん、学校からの距離で例外はあるが。あまり遠くから来ているやつに、徒歩でというのは酷だろう。

 自分自身はあまり遠くもないので、来月……二学期からは徒歩通学だ。

「……」

 陽が落ちはじめ、少しずつ暗くなり始めた、その通学路を1人で歩く。

 別に学校前で待ち合わせをしているというだけで、校内に用があるわけでもないので、服装はラフなもの。

 ハーフパンツに半袖Tシャツ。それにサンダルを履いて。

 スマホと、念の為の財布をポケットに突っ込んだだけ。

 手ぶらもいいところだが、今日は別にどこか店に行くと言うわけでもないしいいだろう。

 会って、話をしながら、散歩でもしてみるかというだけだ。

 ―ありていに言うと、デート。

「……ぁ」

 さすがに少し視界が悪いなぁ……なんてことを考えながら、ぼーっと歩いていると、人を見つけた。

 学校の、プールの入り口のあたり。フェンスで作られたその囲いの側。

 ちなみに、もう既にとなりを見れば、数日前まで授業で使っていたプールが見える。

 ……うわ、夕方のプールってこんなに怖いんか。

「――!!」

 あちらも、こっちに気づいたのか。

 つい数秒前まで、いじっていたスマホの電源を切り、ポケットに突っ込みながらこちらに顔を向ける。

 俯きながら、スマホを見ていた時には、ほとんど無表情と言っていいほどの涼し気な横顔だったくせに。

 こちらを見つけた瞬間、パァ…!という効果音が聞こえるんじゃないかというくらい破顔するのだから……。なんというか……。うん。

 可愛いやつだよな……。

 その上……

「はやかったなっ!」

 なんて言いながら、小走りで寄ってくるんだから……。

 かわいいとしかいいようがない……。

 小動物みたいだ……なんていう程背も小さくないし体格も小柄ではないんだが。

 むしろ俺よりでかい。

 小動物っていうより、犬っぽいと言った方が正確かもな。

 駆け寄ってくるその後ろに尻尾が見えてくる。

 ……これ見たさに少し遅れたとは言うまい。

「……まってるかとおもって」

「きにしなくていいのに」

 そうは言いつつ、いつもより早く来たことが嬉しいのか。

 ニコニコ笑顔である。かわいいなぁ……。

 俺よりもでかい癖に……。

 いつもこの笑顔に騙されて、押されるなぁ……俺は。

「はいぎゅー」

「はいはい」

 少々背伸びしながら、言葉と共に受け取る。ぐいぐいと肩に押し付けてくる。

 ……コイツのスキンシップ過多にはもう慣れたが、普通なのかこれ。

 あまり人と付き合ったことがないから、よくわからないんだが。

 まぁ、悪い気はしないし。

「んー」

「……なんだ」

 押し付けていた顔を上げ、ぱち―と目を合わせる。

「いやぁ……」

「……?」

「かわいなぁって……」

「……」

 先程の笑顔とは違う、子供っぽいそれではない。

 どこか悲しさをはらんだような、泣きだしそうな。

 ―そこに悲しみはないとは分かっているけど。

「ばかじゃねーの……お前のが可愛いわ」

 なんてことを言って、両手で頬を包み込む。

 コイツに比べたら、小さくて頼りにならない手かもしれない。

 それでも、もう泣かないで良いように。

 そう誓ったあの日を思い出しながら、思いきり笑ってやる。

「……」

 許される関係ではない。

 世間では、許そう受け入れようと言う動きも、少しずつ高まっているけれど。

 まだまだ、俺とコイツの関係は、許容されるモノじゃない。

 それでも、それでもコイツと2人。

 どこまででも、堕ちていくと決めた。

「ん……しってる」

 掌を重ねる。

 より強く。

 お互いの存在を確かめるように。




 お題:夕方のプール・堕ちる・空

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ