嘆き5
「空が割れてる。」
一瞬で曇り空になり、黒い雲達があっけにとられていると、二つに分かれ始める。
その瞬間に一瞬体が動かなくなり、全ての時が止まる。
「ダァァーーーーン!!」
次に起きたのは、まるで斬るような激しい音だった。
落ちた!!
いや、落とされたのだ。
まるで叩きつけるような音だった。
目を見開き、動く体は立ち上がる。
「森が…燃えてる。」
黒い炎、普通の燃え方じゃない。
「ミズハ!!」
料理をやめた母は飛び出て来た。
「お母さん!!森が!!」
驚いた母は歯を食いしばった顔になる。ルルを抱き上げ肩に乗せ、私の腕も掴んで引っ張る。
「逃げるよ。ここも燃やされる。」
「え!?どういうことなの!!」
訳が分からず、焦る母に問いかけるが、その声は届いてなかった。
「早く逃げないと!」
電気もつけっぱなしで、何も持たず山を下りようとしているのだ。
「荷物は?せめて準備してからーー」
「そんなことはどうでもいいわ。」
そのまま家を出て、暗い夜道を進む。追いつかない私は、腕を引っ張られたままだ。
「ちょっと待って、ちゃんと理由をーーキャッ!!」
母の手を振り払ったときだ。頭上から大量の土が降ってきた。
土砂崩れだ。その後の記憶は覚えていない。
気づいた時には、母とルルとは離れ離れになっていた。
「グハァッ!グハァッーー 」
土からなんとか這い上がった私は奇跡的に生きていた。
そこから立ち上がり、辺りを見渡す。
「お母さんー!!ルルー!!お母さんーー!!」
呼びかけても反応もない。
姿も見えない。
私はただ焦った。
すでに日が暮れ、真っ暗だ。
四方八方頭を動かし、周辺を見る。
誰かーー、誰かーー
見回すと、森の向こうに小さな灯りが見えた。
山の麓の村だ。
ここまで流されたのか。
なら村の人に助けを求めないと。
私は土で汚れた体を動かし、無我夢中で光の方に向かう。痛む体では距離がなくても、時間が掛かった。
「やっと辿り着いた。」
これで安心できると思った矢先、私は立ち止まった。
村は荒らされ、そこら中に物や火が転がっていた。そして、家や地面に血が飛び散っていた。
「ギャァーー、やめて!!殺さないで、ゔっー」
女の人の悲鳴、恐れた声、飛び散る血、刃物に斬られたような音、息のない体。
殺されたのだ。1人だけじゃない、他の村人もだっだ。
なぜ?誰に?天災ではなかったのか?
これは明らかに殺人事件だった。
「うん?誰かいるのか?」
危機を感じた私は、とっさに森に隠れた。
息をひそめながら、口を手で押さえる。
近くから足跡がする。
(ばれるな、ばれるなーー、お願い!!)
ぎゅと目を瞑ると足音は止んだ。
私は震えながらも、目をそっと開いて、視線だけ横にそらす。ギリギリ姿が見えた。
違う方向を見てる。こちらには気づいてない。
だがその姿をまじまじと見た時,私は驚いた。
初めて見る赤色の髪、人間離れした尖った耳、鷲のような鼻先の仮面、白すぎる肌、見たことのない白地に模様の入った袴の様な服、腰にかかった刀。
何か違う。人間?いや違う。人の形はしているが、そうでないことは見てわかった。
「臭う。」
「!!」
「どうした?」
複数いるのか、もう1人他の仲間もこちらに来た。
「いやぁ〜なんか変な臭いがするんだよ。」
「臭い?もう人間なら沢山殺しただろう?そりゃ臭うさ。」
怪しむ1人がコツコツと靴を鳴らす。
「いや、人間の臭いじゃない。もっと嫌な臭いだ。人間のような、そうじゃないような。…そんな…」
「半端な臭いだ。」
その鋭い視線が、一瞬で私と目が重なった。
「みぃ〜つけた。」
「!!」