嘆き3
山を下り小道を進みながら家に向かっていると、緑の深い生い茂った畑が見えてくる。
太陽の光で、それはいつもより綺麗に見える。
「うわぁ〜」
あたり一面緑で広がっている。心が踊りルンルンで走る。重たい水のことなどすでに忘れているのだ。
「なんて平和なんだろう。」
ふと、つぶやいたのは母だった。私は後ろを振り返ると、母は立ち止まって目を見開き、この景色に見惚れていた。今の声は嘘偽りない本当の気持ちだったのだ。
そんな時、草を摘んでいた老人が私達に気づいた。
「おやおや、カヨウさんじゃないか。」
老人はほっこりした顔でこちらを見る。
「お久しぶりです。」
「水くみでも行ってたのかい。その子はミズハちゃんかい?大きくなったねぇ〜」
「はい、もうすぐ10才になります。今日は水のくみ方を教えました。」
「そうかい、そうかい。また一歩大人になったねぇ。」
「それにしても綺麗ですねぇ〜」
母は老人達が育てた緑に目を向ける。すると老人も後ろを振り返り微笑んだ。
「これは何の草なの?おじいちゃん。」
「これは、薬草じゃよ。最近は病の季節じゃからな。よく売れるんじゃよ。」
「へぇ〜そうなんだ。」
「ああ、今日は本土に出荷じゃから、朝から急いで摘んだんじゃ。急遽決まってねぇ〜今から出荷なんじゃ」
老人は首にかけたタオルで汗を拭く。やっと落ち着いたような感じだった。
「それは大変でしたね。何かお手伝いしましょうか?」
「いやぁ〜大丈夫じゃよ。これで島が潤うなら、この老耄でも喜んで働くさ。」
ニッコリ笑った老人の話が終わると、私達は手を振って家に帰った。