嘆き2
「なんで、なんでこうなったの…」
未だ止まない雨、だがそれは弱い雨だった。
全て終わった。そう、全て。
泥まみれになった服、痛みを放つボロボロの体、燃え尽きた森、血まみれの村、氾濫した川。
何もない、ここにはもう何も、ない。
座り込んだ私は、痛む体に力を入れて顔をあげる。
霞んだその先には、絶望に満ちた冷たい刀があった。
それを睨みつけ、歯を食いしばった。
遡ること一日前、幼い体で必死に山を登り、綺麗な空気を吸いながら川に辿り着く。
そこは自然そのものだった。
母の背中を追いながら、川の近くに行き、流れる水から顔を出した岩の上にたどり着いた。
「ミズハ,ここの水が綺麗で美味しいよぉ。」
その先をどんどん進む母がたどり着いたのは、岩と岩の間から溢れ落ちる小さな滝だ。
「はぁ、はぁ、そんなに登るの!」
「ほらほら!おいで!」
ゴロゴロした地面を登りながら上へ上へと進む。
長い道のりに、体はクタクタだがそれより水が欲しいと自然に体が動く。
やっと辿り着くと母は無邪気に笑った。
「じゃぁ、つごっか!」
背負っていたタルを下ろすと、そこに注いでいく。
私も空のタルを地面に置く。
満タンになると母はタルの蓋を閉じた。
次は私の番だと水の近くにいく。
「水を取りに行くだけでも大変だよね。もう疲れちゃったよ。」
ため息ついて、息を吐く。
「そうねぇ〜でも大事なことよ!綺麗な水は体にいいんだから、ね!」
1時間近く山を登ったのに、母は元気100%だった。
いや、それ以上あるかもしれない。
「お母さんって水にこだわるよね。」
かがんでオケを置くと母の顔を見上げる。
「そりゃ〜お母さんは水の魔法を使うからね。お母さんはこの生まれ持った力が好きなの!」
「なんか、不思議なこと言うよね。お母さんって」
だったらお母さんの魔法で水を溜めてくれたらいいのに、母は一度もそれをしなかった。
ぼーと考えごとをしていると母の尖った声にビクリとする。
「こら!よそ見はダメよ溢れてる!」
「えっ!!」
ふと下を見ると水が溢れ帰って,周りに飛び散っていた。
「ああ〜びちょびょだよぉ〜」
一回持ち上げて、ずらすと服にもちっていた。
これでは背負うと濡れてしまう。
「もぉ〜この子は〜」
母はタオルを出すと周りを拭いてくれた。
「仕方ないわね。帰る時も気をつけるのよ。よくぼぉーとするんだから。」
母は私のタルを持つと紐を私の腕に通してくれる。
帰る時はしっかり前を向いて歩こうと思いながら私はタルを背負った。
二人で来た道を時間をかけて下っていくと、昼頃に村にたどり着いた。
日がまだ暑いと思いながら空を見上げて道を進む。