3.我が船長! MY CAPTAIN!
戦いは長く続いた。
一人のサイボーグ戦士が押し寄せる仇敵に立ち向かう。
飛翔しながら格闘を続け、戦士〝ケイ〟は太平洋上の遮蔽バリアを破砕した。
海に浮かぶ鉄の要塞から電磁砲の渦が迫り、絡み合う二体は離れ、身を反らした。
ケイは青白い光を四方に放ち爆風と化す。もう片方はそれを見逃すまいと瞬間移動を繰り返す。
やがて孤島の一角に着地したケイに〝神の騎士〟ゴルドは追いついた。
「ケイよ。パワーが半減しているな。まだまだ楽しませてくれよ」
「……この世のものとは思えん。お前たちの力は未知の世界のものか」
うずくまるケイは水晶眼でゴルドを分析しながら半身を起こす。パールホワイトと黒のボディ、灰色の髪を振り乱すケイの異変にゴルドは気づいた。
「衝撃で右腕を失くしたか」
「それでも戦いは終わらない」
――[technical specifications]... ...
[armor] - 98.59247...
[firepower] - 85.58742...
[strength] - 97.23045...
[speed] - 96.87426...
[endurance] - 95.63277...
[courage] - 96.88741...
[skill] - 99.27294...
[intelligence] - 84.36254...
[rank] - 95.14752...
[dynamic force] - - - ... ... ... ――。
ジリジリと火花を吹く右肩を押さえ、ゴルドのテックスペックを算出しながらケイは立ち上がる。
水平線を背に煌めくゴルドの金色の甲冑姿が眩く威圧する。鬣のような頭部は百獣の王を想わせる。
互いに異形の半機械の身体、幾度も対戦した。
しかしゴルドはかつての戦闘レベルを凌駕していた。
目を青く光らせ、ケイは言う。
「異星人の力か? 計測できない」
「ご名答。我々テロ組織の科学力には限界があった。彼らは時空を越えた協力者。まさしく神」
両手を広げ陽の光を燦々と反射させるゴルド。
「俺は選ばれし神の騎士だ」
「利用されてるだけだゴルド。奴らの侵略をお前らは許した。いずれ食われるぞ。奴らに」
「承知の上だ。我々はあの巨大軍事国家を潰せさえすればそれでいい」
向き合う二人。不敵な笑いにケイは後ずさる。
「ケイ。〝死神〟と呼ばれた男。お前はかつてマスカルKとしてネオ・ナピスを殲滅させた。我々にとってもお前は脅威だったが、やはり神には及ばない」
ゴルドは赤い目で牙をむき出し歩み寄る。ケイはさらに距離をとった。
ゴルドが雄叫びを上げ地を蹴った瞬間、天空から降りそそぐ青白い光の矢がその頭上に突き刺さった。光の矢とは散り際に放ったケイの右腕。はるか上空からゴルドの脳天を狙っていた。分子破砕線の青く煌めく驚異の力。
「ぐっ、がはぁああああっ!」
真っ二つに裂け、ゴルドは崩れ落ちる。
対して腰をついたケイは地を踏み、要塞の位置を再び捉えた。ケイはまさに地獄からの使者、その爆風は一閃に反旗の巣窟を斬撃する――。
****
多くの民が傷つき、多くの民が死んだ。多くの生命が悲しんだ。
支配欲の果てに地は割れ、空は澱み生態系は壊れた。熱を帯び、消失する母なる星。
這い出した生き残りは船で飛び立った。
暗く長い旅の末に辿り着いた空間。
時を越え、視覚も聴覚も歪んでしまった。
臭いも味も感じない世界。
触れたものは波打って命の迸りを伝える。
時の権力者への叛逆を宿命づけられた彼らはそれを察知し、抗う賊徒に加担した。
命は盲目。また同じ過ちを繰り返す。
鉄の要塞を斬り裂き、舞い降りる〝死神〟。
その命の波動も傷つき、哀れんでいた。
繰り返し、対話してきたと言う。
繰り返し、見届けてきたと言う。
旅立つ未来の民は伝える。
過ちは繰り返す――。
****
……やがて海に沈んだケイは漁船に引き上げられた。
潜水服を着た船長は甲板に立ち、右腕を失くしボロボロになったケイを介抱する。横たわる胸に耳を当て、心音を確かめる。
「ケイ! しっかりしろ!」
船長は目を見開き、呼びかけた。
「迎えに来たぞ、思い出せ!」
髪を振り乱し、ケイの肩を揺り起こした。
「……う、うぅ……」
「……ケ、ケイ、生きてるな? 大丈夫なんだな?」
左手で船長の胸元をがしりと掴むケイ。
「あ、ああ。……ゴルドを倒し、要塞も潰した」
「よくここまで戦ったものだ。腕を失ってまで」
大丈夫だとケイは息を整え、感じたことを告げた。
「奴らは異星人……いや、それは人類の未来の姿かもしれない。この星の未来……過ちは繰り返すと」
「……うむ。これは生ける者の宿命なのかもしれん。しかしあの軍事国家も急速に力を失いつつある。戦争はもう本当にたくさんじゃ」
ケイは船長の手を握り返した。
「……この温もり。ありがとう」
「お前ばかりに頼って……すまない」
黒く汚れた頬にしわを寄せ、ケイは微笑んだ。
「俺たちはひとつだって、誓っただろう? ジャック船長」




