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ファーザー・オン further on(up the road)  作者: ホーリン・ホーク
BURNIN' TRAIN
14/16

3.我が船長! MY CAPTAIN!

 戦いは長く続いた。

 一人のサイボーグ戦士が押し寄せる仇敵に立ち向かう。

 飛翔しながら格闘を続け、戦士〝ケイ〟は太平洋上の遮蔽(しゃへい)バリアを破砕した。


 海に浮かぶ鉄の要塞から電磁砲の渦が迫り、絡み合う二体は離れ、身を反らした。

 ケイは青白い光を四方に放ち爆風と化す。もう片方はそれを見逃すまいと瞬間移動を繰り返す。

 やがて孤島の一角に着地したケイに〝神の騎士〟ゴルドは追いついた。


「ケイよ。パワーが半減しているな。まだまだ楽しませてくれよ」

「……この世のものとは思えん。お前たちの力は未知の世界のものか」


 うずくまるケイは水晶眼(クリスタルアイ)でゴルドを分析しながら半身を起こす。パールホワイトと黒のボディ、灰色の髪を振り乱すケイの異変にゴルドは気づいた。


「衝撃で右腕を失くしたか」

「それでも戦いは終わらない」


 ――[technical specifications]... ...


 [armor] - 98.59247...

 [firepower] - 85.58742...

 [strength] - 97.23045...

 [speed] - 96.87426...

 [endurance] - 95.63277...

 [courage] - 96.88741...

 [skill] - 99.27294...

 [intelligence] - 84.36254...

 [rank] - 95.14752...

 [dynamic force] - - - ... ... ... ――。



 ジリジリと火花を吹く右肩を押さえ、ゴルドのテックスペックを算出しながらケイは立ち上がる。

 水平線を背に煌めくゴルドの金色の甲冑姿が眩く威圧する。たてがみのような頭部は百獣の王を想わせる。

 互いに異形の半機械の身体、幾度も対戦した。

 しかしゴルドはかつての戦闘レベルを凌駕していた。


 目を青く光らせ、ケイは言う。

「異星人の力か? 計測できない」

「ご名答。我々テロ組織の科学力には限界があった。彼らは時空を越えた協力者。まさしく神」


 両手を広げ陽の光を燦々と反射させるゴルド。

「俺は選ばれし神の騎士だ」

「利用されてるだけだゴルド。奴らの侵略をお前らは許した。いずれ食われるぞ。奴らに」

「承知の上だ。我々はあの巨大軍事国家を潰せさえすればそれでいい」

 向き合う二人。不敵な笑いにケイは後ずさる。


「ケイ。〝死神〟と呼ばれた男。お前はかつてマスカルKとしてネオ・ナピスを殲滅させた。我々にとってもお前は脅威だったが、やはり神には及ばない」

 ゴルドは赤い目で牙をむき出し歩み寄る。ケイはさらに距離をとった。



 ゴルドが雄叫びを上げ地を蹴った瞬間、天空から降りそそぐ青白い光の矢がその頭上に突き刺さった。光の矢とは散り際に放ったケイの右腕。はるか上空からゴルドの脳天を狙っていた。分子破砕線(リブラスト)の青く煌めく驚異の力。



挿絵(By みてみん)



「ぐっ、がはぁああああっ!」

 真っ二つに裂け、ゴルドは崩れ落ちる。

 対して腰をついたケイは地を踏み、要塞の位置を再び捉えた。ケイはまさに地獄からの使者、その爆風は一閃に反旗の巣窟を斬撃する――。



 ****



 多くの民が傷つき、多くの民が死んだ。多くの生命が悲しんだ。

 支配欲の果てに地は割れ、空は澱み生態系は壊れた。熱を帯び、消失する母なる星。


 這い出した生き残りは船で飛び立った。

 暗く長い旅の末に辿り着いた空間。

 時を越え、視覚も聴覚も歪んでしまった。

 臭いも味も感じない世界。

 触れたものは波打って命の(ほとぼし)りを伝える。


 時の権力者への叛逆を宿命づけられた彼らはそれを察知し、抗う賊徒(テロリスト)に加担した。

 命は盲目。また同じ過ちを繰り返す。


 

 鉄の要塞を斬り裂き、舞い降りる〝死神(ケイ)〟。

 その命の波動も傷つき、哀れんでいた。

 繰り返し、対話してきたと言う。

 繰り返し、見届けてきたと言う。


 旅立つ未来の民は伝える。

 過ちは繰り返す――。



 ****



 ……やがて海に沈んだケイは漁船に引き上げられた。

 潜水服を着た船長は甲板に立ち、右腕を失くしボロボロになったケイを介抱する。横たわる胸に耳を当て、心音を確かめる。


「ケイ! しっかりしろ!」

 船長は目を見開き、呼びかけた。

「迎えに来たぞ、思い出せ!」

 髪を振り乱し、ケイの肩を揺り起こした。


「……う、うぅ……」

「……ケ、ケイ、生きてるな? 大丈夫なんだな?」

 左手で船長の胸元をがしりと掴むケイ。


「あ、ああ。……ゴルドを倒し、要塞も潰した」

「よくここまで戦ったものだ。腕を失ってまで」

 大丈夫だとケイは息を整え、感じたことを告げた。


「奴らは異星人……いや、それは人類の未来の姿かもしれない。この星の未来……過ちは繰り返すと」

「……うむ。これは生ける者の宿命(さだめ)なのかもしれん。しかしあの軍事国家も急速に力を失いつつある。戦争はもう本当にたくさんじゃ」


 ケイは船長の手を握り返した。

「……この温もり。ありがとう」

「お前ばかりに頼って……すまない」

 黒く汚れた頬にしわを寄せ、ケイは微笑んだ。


「俺たちはひとつだって、誓っただろう? ジャック船長」

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