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闇の中を彷徨っていた意識が浮き上がる
しかしやっと開いたその目は貸すんだ景色を写すだけ
霞んだ景色の中には泣きじゃくる妻と娘、私の最愛の者たちの姿
最悪な気分だ
早く彼女たちを抱き締めなければ
ああ…泣かないでおくれ
何が悲しいのか
なんで泣いているんだ
お前たちを泣かしたやつはどこだ
そんなやつ私が…
私が?
そこでふと自分の姿を目に写す
私は腹を裂かれ地面に横たわっていた
一目で致命傷だとわかる傷を受けている
首元が寂しいのはそこも抉られてしまっているからなのだろうか?
目しか動かせないのがもどかしい
冷静になると今までのことを思い出す
退屈で凡庸な農家の家を嫌がり冒険者になるために家を飛び出したこと
これまでの冒険の思い出
凡庸な農家の男が騎士にまで成り上がれたこと
家族での思い出
悪魔にこの身を差し出したこと
これは走馬灯と言うやつか…ろくなものではないな
そうか私はやっと倒れられたのか
家族に手を出すまでに死ねたのか
ならば思い残すことはない
今はただ眠りたいな…
ああ…でもまだ生きていたかったなぁ
この日、忠義に身をやつし、後に最優とまで言われその名を残した愚かな男の生涯の幕は永遠に閉じた
はずだったんがなぁ?