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作者: 橘の幼馴染

はっさくって八朔って書くんだって最近知った。

幼馴染の橘は多分、果物でできてる。

親指の腹を使って丁寧に八朔の皮を剥いてから中の実を一房ずつ口に運んでゆっくり咀嚼する。ただ果物を食べてるだけでここまで優雅な女もなかなかいたもんじゃない、と思う。最後の一房を細い喉で飲み下してからこちらに向き直ってふふ、と笑う。大抵の人間は老若男女関係なくこの笑顔に殺られる。

君も食べる?と橘が尋ねる。

要らない、と言う。

橘はきょとっとした顔つきで

めっちゃ見るから食べたいのかと思った、なんていう。見てるだけでこっちはお腹いっぱいだ。

「まだ食べるのか?」

「?うん。美味しいよね、八朔」

優雅な女はまた1つ八朔をテーブルの皿から取って剥き始める。親指の腹を使って、丁寧に…

「今日はこれでもう8個目だぞ」

「ええ、そんなに?」酷くびっくりした様子でぱちぱちと瞬きする。が、八朔を剥く指は止まらない。

「少なくとも俺が来てからは8つだ。」

「わぁ」まるで他人の事ようなオーバーリアクションを見せる。

中の実を一房ずつ割って口に運ぶ。ゆっくり咀嚼して、コクンと飲み下す。食べ終わるとこちらを見て可笑しそうに笑う。

「…なに」

「や、すごい見てくるから、食べる?」

クスクス、クスクス。

「いらないよ。それよりもっとちゃんとしたの食べろよ。パンとか、ねぇの?」

んんーと少し考えるような素振りを見せる。

「多分、あるよ」キッチンにある、白い籠に食パンが入ってるよ、多分。と言う

「あるなら食べろよ」

あはは、と笑って橘はまた1つテーブルに置いてあるガラスの大皿から八朔を手に取った。

会話しているようで、ちっとも成立していない。

いつもそう。

親指の腹を使って丁寧に皮を剥く。細くて白い指がするすると硬いはずの八朔の皮を剥いていく。彼女曰く角度と力の入れ方にコツがあるらしい。中の実を丁寧に割ってゆっくり口に運ぶ。瑞々しい果実を彼女の綺麗な口の中で、舌で潰して歯で咀嚼する。

微かに喉を震わして飲み下す。飲み下す。飲み下す。

焦点の合わない美しい瞳。食べる、食べる。

コクン。

「…ふふ」

「んだよ」

「だってすごく見るからぁ」こちらに向き直って笑う。

食べる?といたずらっぽく言う。

要らない、と返す。

「別のもんなら食べたい」八朔の積み上がった皿を鬱陶しげに遠ざけてみる。

「別のもの?…分かったよ、じゃあなんか持ってくる」少し不貞腐れたように橘は八朔を諦めてキッチンへと向かう。

強制的にでも止めなければ一生食ってそうだ、と思う。別にいけないことじゃないけど、なんだか不愉快だ。

パタパタと橘は小走りで戻ってくる。

「ほら、良かった、まだ残ってたの!」 

無邪気に彼女は差し出してくる。

よく熟れた、美味しそうな、蜜柑。


幼馴染の橘は多分、果物でできている。



橘「腐る直前の蜜柑はジャムにするのがオススメ」

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