花すには言ノ葉が足りなかった
愛を食べさせて
噛み砕いたものを口移しで
唇が触れた熱で
僕はようやくそれが愛だと分かるようだから
*
いいよ、許してあげる。
でも1週間だけ僕に付き合って。
毎日、一輪。
色も種類も違う花を僕のところに持ってきて。
意味はないよ。これはただのケジメ。
よく分からない?そうだろうね。
だって僕が何で怒ってるか分からないのに謝るくらいだし。
許すから、お願い。
1週間だけ僕に償って。
1日目。白のキブシ。
なんでこれを選んだの?
「運命を感じて」
格好つけながらアンタは答えた。
そうだね、アンタはそういう奴だ。
2日目。桃のデイジー。
なんだかね、これだから僕は怒ったのに。
アンタは不思議そうに小首を傾げた。
やだな、文句を言うつもりはなかったのに。
少しくらい困ってよ。
3日目。赤のニチニチソウ。
アンタから貰った花を僕は土に埋めていた。
何でそんなことをと尋ねられて僕はつっけんどんに返した。
赤は少し眩しいから。
4日目。青のイヌサフラン。
よくこんなの知ってたね。
「名前は知らなかったが」
そっか。よくこれを見つけられたね。
何で見つけちゃったんだろうな。
5日目。緑の実をしたヒヨドリジョウゴ。
これが運命かと僕が驚けば。
厨二くさいと珍しくアンタが顔をしかめた。
ほら、見てごらんよ。こんなに鮮やかなのに。
土色に染まったなとアンタは簡単に言い放った。
6日目。紫のヒヤシンス。
思わず笑いがこみ上げた。
楽しげに笑う僕にアンタは何故か顔を歪ませた。
まるで申し訳なさそうにしているかのように。
やめてよ、僕は今最高に幸せだよ。
笑いすぎて涙が溢れた。
7日目。黒のチューリップ。
悪かったな。こんな僕に付き合せて。
おかげでこんなにも晴れやかな気分になれたよ。
それがアンタの想いなら、いや、何も言ってないって、だってアンタが持ってきた花を見ろよ。あ、待って。やっぱりなんでもない。
もうさ、終わりにしよ。全部。
違う違う。今回の騒動のこと。
ね?もうさ、なかったことにしよう。
“出会い”
“平和”
“若い友情”
“悔いなき青春”
“すれ違い”
“ごめんなさい”
“私を忘れて”
僕は花を埋めた土の上に寝転がって、買ってきた彼岸花を口元に寄せた。
また会う日を楽しみに
花言葉を気にする馬鹿がここにいるんだよ。
彼岸花には毒がある。
今回は無理みたいだから、来世にでも賭けてみようか。
純粋なアンタに何度泣かされたことか。
けれど、出会える自信だけはあるからさ。
僕は彼岸花は口に入れた。
苦くて、甘い。
まるで口付けの後のような台詞だななんて思いながら、ゆっくりと微睡みの中に堕ちていった。
*
冷たくなっていくお前を前に、俺は跪く。
ヒヨドリジョウゴが赤く身付く。
ようやく“真実”を語り出す。
ヒヤシンスが言うには“悲しみを超えた愛”。
チューリップが泣きながら。
本来は黄色の姿だった。俺は紫になりたかった。けれどお前を想えば体が黒に染まっていた。
黄色が語るのは“報われぬ恋”
紫が語れるのは“不滅の愛”
だってお前は男で、そしてかけがいのない弟だった。
噛み砕かれなかった愛は行き場を失い、冷たく冷たく死んでいった。
くどいほどの花言葉に埋もれて死にたい。