婚約破棄?身分剥奪?国外追放?謹んでお受けいたします
「セシリア・バトラー!今、ここで、お前との婚約破棄を宣言する」
思わず欠伸がでて、慌てて口を押さえる。
昨日の夜、新しい小説に手をつけたら面白くって、気がついたら朝になっていた。
碌に眠れていないのだから、退屈で下らない話をしないでほしいと思う。
しかし、そんな思いとは裏腹に、ぼんくら王子は私の大嫌いな大声で喚く。
「何故欠伸なんかしている!?俺は今、お前との婚約破棄を告げたのだぞ!」
いや、眠いからに決まってるだろうが。阿保なのか?
「俺は、マリーと結婚する!お前は身分剥奪、国外追放だ!マリーを散々苛めたようだからな。当然の報いだ」
嗚呼。本当眠い。この阿保はどうするべきなのだろうか。
私は眠気でうまく回らない頭で、なんとか、早くこの茶番を終わらして帰って寝よう、と云う結論に至る。
すっと、佇まいを直し、カーテシーをする。
「では、謹んでお受けいたします」
すると、マヌケは、その返答は予想外だったようで、口を開け馬鹿みたいな顔をする。
顔だけはいいんだから、もっとうまく使えばいいのにと思う。
段々、理解が追いついたのか、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「婚約破棄、身分剥奪、国外追放だぞ?!?分かっているのか?!」
私は溜息を零す。
「状況が分かっていないのは、そちらではございませんか?」
「な、なんだと…?」
「私との婚約は、政略上のものであるのは貴方もご存知でしょう?」
「勿論だ。俺がお前みたいな高慢な女を好きになるわけがないからな」
「勘違いなさっているようですが、この婚約は、王家にしか利益がございません」
「は?」
「この婚約は、バトラー家から最後にこの国に差し伸べられた救いの手だったのです」
バトラー家は、もはや王家など怖くないくらいに大きくなった。
要は、私がこの馬鹿と結婚して、この国の実権をバトラー家が握るか、もしくは、この国をバトラー家に滅ぼされるかの二択だったのだ。
「…え」
「それに、その、結婚する予定のマリー…でしたっけ?そのお嬢さん、帝国のスパイですよ?」
マリーを見ると、にこにこと笑っている。
「それで、バトラー家は、帝国に仕えると云うことでよろしいでしょうか?」
「貴方、散々国に帰りなさいって云ったのに、全然帰らないんだから。お陰様で、帝国の思惑通りだわ」
私はマリーにうんざりした表情を見せた。
「ま、マリー?俺と結婚すると云う話は…」
「まさか?私が欲しいのはセシリア様とバトラー家。こんな痴れ者いりませんよ」
マリーが汚いものを見るような目をし始めたので、話題を変えることにする。
「帝国の属国という形で、この国はバトラー家が治める。これでいい?」
「そこはセシリア様の技量次第ですね。でも、バトラー家はセシリア様をはじめとして、有能な人材が集まっていますから、重宝されるんじゃないでしょうか?」
「面倒だわ」
私はちらと王子を見る。
わなわなと震えていた。
「そう云うことですので。婚約破棄、身分剥奪、国外追放?どちらが告げる側でしょうね?」
ざまあ展開を書きたくなった作者の完全なる自己満足作品です。
一緒に楽しんでいただけたら幸いです。