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第3話 並行世界3(4月17日)〜生徒会長のお願い〜

大変お待たせしました。三話目になります。

「さて、今日はどんな日になるのやら」


 三回目の四月十七日がやって来た。現在の時間は六時半で、登校するまでには随分と余裕がある。

 とりあえず、三回目となる周囲の確認をしようと思う。周囲を見回すとすでに同じアパートである事は分かっているので、部屋中を動き回り変わったところが無いかを確認していく。

 部屋を全て回った結果やはりというべきか、何もかも一回目と二回目の世界と同じであった。

 その後は朝食の準備をして手早く食べ終える。

 食器の片付けを済ませてからいつも通り制服に着替えて学園へ行く準備を進める。ちなみに時間割が同じ事も分かり、げんなりした気分になったのはご愛嬌(?)である。

 学園へ行く準備を終えても時間に余裕があったので、リビングでテレビを少しだけ観た後に外に出た。

 前回の世界では芽衣理ちゃんが僕の部屋の隣だったので確かめてみたが、どうやら空き部屋のようだ。そういえば元居た世界も隣が空き部屋だった気がする。

 この時点で芽衣理ちゃんと出会う可能性はかなり低くなったのではないだろうか。

 つまり、前回の世界では彼女が親密度の鍵を握っていそうだと推測した。

 次に確認したのは一回目の世界で奈月が引っ越してきた一軒家だけど、こちらも「北見」では無かった。

 何となく予想していたとはいえ、少し残念な気持ちになってしまった。


「ちょっと意識しすぎかな・・・」


 苦笑しながら気を取り直して通学路を進んでいく。こちらも今まで二つの世界と代わり映えは特に見られなかった。

 この様子だと二つの世界と同じだなと思っていると、前方に見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 背中まで伸びたゆるふわウェーブの茶髪に僕と変わらないくらいの身長、そして何より後ろ姿からでも漂ってくるオーラが特徴的なんだ。


「南条先輩!」


 僕が声を上げると、南条先輩が振り向いた。


「あら、有栖川くんだったのね。おはよう」

「おはようございます」


 僕は軽く頭を下げて挨拶をした。


 南条穂乃香(なんじょうほのか)先輩。


 聖林学園に在籍する生徒であれば彼女の事を知らない人は居ないだろう。学園始まって以来の秀才と言われ、容姿もとても整っていて正に才色兼備である事も要因の一つだけど、何よりも一年生の時から生徒会長を務めている事が最も大きな要因だと思う。支持率はほぼ百パーセントと圧倒的で、生徒会選挙では生徒会長の立候補が南条先輩以外に居たにもかかわらず無投票で当選が決定したという逸話まであるのだ。

 さらに日本でトップクラスである南条財閥の一人娘であり、将来は日本の未来を背負って立つとまで言われている。

 噂では聖林学園の生徒全員の名前を覚えているだけでなく、家族構成から成績までありとあらゆる情報も把握しているらしい。

 天は二物も三物も与えたんじゃないかと思うくらい高スペックな南条先輩だけど、彼女と知り合うきっかけとなったのは一年生で文化祭の実行委員になった事である。

 当時なぜか一年生にして実行副委員長に任命されてしまい、色々と大変だったところを南条先輩がフォローしてくれたのだ。そのおかげもあって何とか務め終える事が出来たけど、本当に忙しくて一時期はかなり寝不足になったのを覚えている。

 ちなみに芽衣理ちゃんを助けたのがちょうどこの時期であり、目まぐるしい日々だったので彼女の事が記憶の中に埋もれてしまったのだ。

 ただ、どうもその時の仕事ぶりが南条先輩の目に留まったらしく、たびたび生徒会に入らないかと誘われている。僕としては平穏に学園生活を過ごしたいので断り続けているのだけど、南条先輩は諦めていないようで事あるごとに声を掛け続けられている状態だ。


(まあ、たまに生徒会の仕事を手伝ったりしてるのが良くないのかもしれないけど・・・)


 心の中で苦笑をする僕であった。


「珍しいわね、いつもならもう少し遅い時間だったと記憶しているけれど」


 南条先輩が微笑みながら話し掛けてくる。

 流石は南条先輩、僕の登校する時間まで把握してるなんて・・・。

 そう思いながらも僕は南条先輩に言葉を返す。


「そうですね。先輩はいつもこの時間ですか?」

「ううん、いつもはもう少し早いかな。今日は生徒会の仕事が何も無かったからゆっくり来てみたの」


 今でも充分に早い時間のはずなんだけど、もっと早く来てるのかと思うと驚きが隠せない。


「すごいですね・・・。僕だったらちょうど起きるくらいの時間ですよ」

「もう日課みたいになってるからすっかり慣れちゃったわ。有栖川くんも同じ時間に登校してみる?」

「い、いえ、流石に早すぎます・・・」

「ふふ、残念。せっかく一緒に登校出来ると思ったのに」

「え?」

「なんてね。冗談よ」


 南条先輩が片目で僕にウィンクをしてくる。長い睫毛にモデル顔負けの整った顔立ちでやられると破壊力は抜群で心臓が跳ねてしまいそうだった。


「そ、そうですか」


 僕がどぎまぎしていると、南条先輩が僕の顔を覗き込んできた。


「どうしたの?」


(うわ!)


 ち、ちょっと顔が近いし、ふんわりと甘い匂いが漂ってくるんだけど・・・。

 僕の表情を見て楽しんでいるのか、南条先輩はいたずらっぽい笑みを浮かべている。


「うんうん、有栖川くんって可愛いな〜。ねえ、やっぱり生徒会に入ろうよ」

「そ、その件は何度もお断りしているはずです」

「そうは言っても時々生徒会の仕事も手伝ってくれるし、他のメンバーも皆賛成してくれているわ」


 南条先輩の言う通り他の生徒会メンバーも僕の事を好意的に受け止めてくれている様で、僕が生徒会室に行くといつも歓迎ムードとなっている。


「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、僕以外に適任者は何人もいると思いますよ」

「ん〜、そうかなぁ〜。ま、その話はまた今度にしましょう。ちなみに今日の放課後は時間あるかな?」


 うん、この流れは何か頼み事がある時の誘い方だ。他に用事があると言いたいけど、あいにく嘘を吐いてもすぐにバレるので素直に答える事にする。


「はい、特に予定は無いです」

「良かった〜。じゃあホームルームが終わったら生徒会室まで来てくれる?」

「分かりました」


 僕が頷いたのを確認すると、「じゃあ先に行くね」と笑顔で手を振って天国坂を先に登っていった。

 僕はゆっくりと坂を登って学園に到着し、教室へと向かう。流石に早い時間だったのか、教室にはほとんど人が居なかった。

 自分の窓側にある自分の席に座り、何となく外を見続けていると声を掛けられた。


「よう、優斗おはよう!」


 声音で誰なのかは分かっていたので挨拶を返す。


「おはよう、達哉」


 達哉の方へ顔を向けると何やらにやにやと笑みを浮かべている。


「今日は南条先輩と一緒に登校してたらしいじゃないか」

「また耳が早いね」

「勿論!随分と仲睦まじそうだったって聞いてるぜ」

「いや、普通に会話してただけだよ」

「天下の生徒会長様と普通に会話できるってだけでもすごいと思うぞ」


 達哉の言うように南条先輩に話し掛ける生徒は意外に少なく、親しげにしているのは生徒会メンバーと仲の良い友達くらいではないだろうか。しかもあれだけ容姿端麗で性格が良いにもかかわらず、告白をされたという話もほとんど聞かない。要するに高嶺の花すぎるという事なのだろう。

 話してみるとすごく気さくで茶目っ気もある人なんだけどなと思いながら、ホームルームまで達哉と雑談をするのだった。




 ようやく一日の授業が終わり、放課後になったので僕は言われていた通り生徒会室へ向かうことにする。

 結局奈月が転校してくるという事も無かったし、授業の進み具合も二つの世界と同じであった。いよいよ全く同じ授業を何回も受ける事が現実的になってきたようだ。

 内心少しだけ気が重くなりながら、生徒会室に到着した。

 僕は生徒会室のドアをノックすると、奥から「入っていいよ」と返事が来たので部屋の中に入る。少し意外だったのは他の生徒会メンバーも居ると思っていたのに、部屋の中に居たのは南条先輩だけだった。

 不思議に思いながらも生徒会長の席に座る南条先輩のそばへ歩み寄る。


「呼び出しちゃってごめんね」

「いえ、大丈夫です。それでどのような用件ですか?」


 僕は早速呼び出された目的について尋ねてみた。


「連休明けにオリエンテーションがあるのは知ってるよね?」

「勿論知っています」


 オリエンテーションは新入生向けのイベントで、聖林学園内や周辺地域を課題を解きながら一日中移動するという内容だ。聖林学園は地元出身の生徒が少なく、学園内と周辺地域を新入生に知ってもらおうという目的で行われていて、古くからの伝統行事となっているらしい。

 僕も去年参加していて、とても楽しいイベントだったと記憶している。

 あ、何となくこの後の展開が読めてしまった・・・。


「有栖川くんにはオリエンテーションの準備を手伝って欲しいなと思ってるの」


 僕の予想していた通りの話を南条先輩が切り出した。

 正直言って今の心境としてはあまり乗り気じゃなかった。今まではちょっとした手伝いだったので引き受けていた部分もあるけど、今回のは結構大変そうな気がしていたのだ。

 僕の表情を見てどう思っているのか察したのか、南条先輩がさらに続けた。


「今回は私の補助という形にして出来るだけ有栖川くんに負担を掛けないようにするから。ねっ、お願いっ!」


 両手を合わせてお願いのポーズをする南条先輩。ここまでやられると流石に断りにくいな・・・。


「分かりました、手伝いますよ」

「本当!?ありがとう、すごく助かるよ!」


 南条先輩は僕の手を取ってブンブンと上下に振った。


「ち、ちょっと先輩・・・」


 不意に南条先輩から手を握ってもらってすごくドキドキしてしまっている。先輩の手ってとても柔らかいんだな・・・。


「あ、ご、ごめんなさい・・・」


 南条先輩が我に戻ったのか、顔を赤くしながら僕の手を離した。少しだけ残念な気持ちになったのは内緒である。


「い、いえ・・・」


 少しだけ気まずい空気が流れるが、気を取り直したように南条先輩が声を張り上げる。


「そ、それじゃ早速手伝ってもらおうかな!あとこのお礼は必ずするからね!」

「あ、ありがとうございます」

「良いの。私が無理にお願いしてるのだから、それくらい当然の事だもの」


 その後僕は資料作りと印刷の手伝いをする事になった。南条先輩の機嫌が終始ご機嫌だったけれど、何か良い事でもあったのだろうか。

 作業に没頭している内にいつの間にか日が落ちていて、時間を見るともうすぐ十九時になろうとしていたので今日はお開きとなった。

 南条先輩は迎えを呼んでいたらしく、正門前には高級外車が停まっていた。

 僕の事も送ろうかと誘ってくれたけど、買い物してから帰ろうと思っていたので丁重にお断りした。

 近所のスーパーマーケットで買い物をしてアパートに帰るとすぐに夕食にした。今日は疲れたので惣菜を何種類か買って米と一緒に食べた。

 寝る前には日課になりつつある日記を書いてベッドに寝転がった。

 今日一日で特に関わったのは南条先輩しか居ないので、この世界では先輩との親密度がポイントとなるだろうか。

 そして次がいよいよ四つ目の世界となるけど、どんな展開が待っているのだろうか。

 色々と考えている内にいつの間にか僕は眠っていたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

最近はリアルが忙しくて中々書く時間が確保できません・・・。

どちらかというとメインの作品を進めるつもりなので、次の更新もいつになるか・・・。

評価やブックマークをして頂けるとテンションが上がって更新ペースも上がるかもしれません。

引き続きよろしくお願いします!

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