第2話 並行世界2(4月17日)〜後輩からの告白〜
お待たせしました。並行世界2の話になります。
「んん・・・」
目覚まし時計のアラームが鳴る前に僕は目を覚ました。
時計に表示されている日時を確認すると、四月十七日の午前六時五十分であった。
どうやら無事に(?)別の並行世界に来たようだ。
アパートの部屋も見た感じ同じである事を確認すると早速台所へ向かう。
昨日も四月十七日を過ごしたので、何だか狐に摘ままれたような不思議な感覚だなと思う。
アズマリア様の話だと四つの世界という事だったので、四月十七日はあと二回来ることになる。つまり、四つの世界でそれぞれ一週間過ごすだけで体感時間は約一ヶ月になるという事を示している。
同じ日を四回過ごすのはそのうち慣れると思っているが、各世界での情報整理はきちんとやらないと後々混乱を招きそうな気がした。
この時ふと思ったのは、並行世界に飛ばされる順番は常に同じなのかという事だ。同じであれば連続して同じ日を四回迎えることになるし、違うのであれば同じ日を連続で四回迎えないかもしれない。
いずれ分かることとはいえ、最初にアズマリア様に聞いておけば良かったなと少し後悔した。
とはいえ時間が止まってくれる訳でも無いので、気を取り直して朝食の準備に取りかかることにする。
冷蔵庫の中を確認すると前回過ごした並行世界の朝の時と変わらない内容であった。
パンをトースターで焼き、サラダを作るところは前回と同じだが、卵料理は今回スクランブルエッグにした。
「料理の方も工夫が要りそうだ・・・」
別の並行世界では朝食を和食にする事を検討しながら、今回の朝食を食べ終える。
授業の時間割りも前回の世界と同じだったので手早く準備する事が出来たが、僕は思わず溜め息を吐いてしまう。
なぜなら同じ日を四回も過ごすという事は学園で同じ内容を四回も学ぶ事になると気付いてしまったからだ。これでもし授業内容や進み具合まで同じだったら少し気が滅入りそうだと感じた。
この辺りをどうするかは後々検討するとして、僕は制服に着替えてアパートを出た。
まず気になったのが、前回の世界で訪れた奈月の家がどうなっているかだった。
アパートのすぐ近くだったので確認すると、確かに同じ家はあったが表札は『北見』では無かった。
この時点で奈月が転校してくるという可能性はかなり低くなったと僕は推測する。逆に考えると、前回の世界で親密度の鍵を握るのは奈月なのだと改めて感じたのだった。
その後はいつもの通学路を歩いていったが特段変わった部分を見つける事は出来なかった。
結局前回の世界と同じくらいの時間で学園に到着し、教室までの道のりも確認するがこちらも変わった事は無し。教室での席の位置も同じようだったので席まで行くと前の席にいる達哉が挨拶をしてくれる。
「おっす、優斗」
「おはよう、達哉」
僕も達哉に挨拶をしてから着席する。前回の世界ならここで達哉が転校生の話をしてきたのだが、今回は話題に挙がることが無かったのでやはり転校してこないのだろうなと確信を深めた。
実際に西尾先生が教室に入ってきた時は一人でホームルームもすぐに始まり、ホームルームが終わると授業も始まるのだった。
本日の授業が終わって放課後となった。
この時点で分かったのは授業の進み具合が前回の世界と全く同じだった事、今のところそれらしい女子が現れていないという二点である。
残り二つの世界がまだ分からないが、授業の進み具合に関しては全く同じになる可能性が高くなってきた。次の世界でも同じなら、今後の進み具合も同じと見て良さそうだ。
女子については今日出会わない可能性も出てきたので、あまり意識しないでいこうと思う。
僕は部活も特に入っていないので、授業が終わったらすぐに下校することがほとんどだ。
僕は教室を出てすぐに階段を下りて靴箱までやって来る。
僕は自分の靴を履き替えるために靴箱を開けると、そこには白い便箋が置かれていた。これは前回の世界では無かった出来事である。
他の生徒に見つかると注目を浴びそうなので、こっそり隠れて便箋の中から手紙を取り出す。
手紙にはこのように書かれていた。
『有栖川優斗さんへ
放課後、屋上でお待ちしています。
来ていただけると嬉しいです。』
ちなみに差出人の名前はどこにも書いていない。
ただのイタズラの可能性もあるけど、とりあえず屋上に行こうかな。
僕は階段へと戻って上り始める。
屋上は五階を過ぎてさらに階段を上った先にあり、一階からだと六階分の階段を上がることになる。
少し息切れをしながらも階段を上りきり、屋上出入口のドア前まで到着した。
ドアの向こう側には誰が待っているのか、または誰もいないのか。
少し緊張しながらゆっくりとドアノブを回してドアを開けていく。
目に飛び込んできたのはわずかに赤みがかった空を背景に立つ一人の少女だった。身長は150センチ強と少し小柄で、スレンダーだけど出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる女性らしい体つきであり、赤みがかった黒髪をツインテールにしている。容姿はまだ幼さが残っているがかなり可愛いと思う。スカートの色が青なので一年生だということが分かる。
しかし僕には全く見覚えが無かった。そもそも一年生に知り合いは居ないし、これだけ可愛い容姿をしていると僕の記憶にもはっきりと残るはずだ。
少女が僕に気付くと頭を下げた。
「有栖川先輩、態々来て頂いてありがとうございます」
「あ、うん、それは良いんだけど。この便箋は君が?」
「はい、そうです。東山芽衣理といいます。クラスは一年一組です」
少女が僕の問いに肯定した。どうやら便箋を入れたのは彼女で間違いないようだ。
名前については聞き覚えがあった。確か達哉が一年生女子の中で可愛い子の話をしてた時に言ってた記憶がある。
「それで、僕に何か用かな?」
このシチュエーションからして用件はほぼ絞られるのだけど、一応聞いてみることにする。
「え、えっと・・・」
東山さんの顔が緊張のせいなのか少し強張っている。両目をぎゅっと瞑ったが、何かを決意したように目を開けた。
「た、単刀直入に言います。芽衣理は有栖川先輩のことが好きです!もし良ければ付き合って頂けませんか」
東山さんの告白に僕は戸惑わずにはいられなかった。一瞬罰ゲームとか冗談で言ったのかと頭を過ったけど、表情からしてどう見ても本気だとすぐに分かる。
しかしなぜ僕なんだろうか。その気持ちを抱きながらゆっくりと口を開く。
「正直言って君みたいな可愛い子に告白されたのはすごく嬉しい。でも、なぜ僕を好きになったのか理由が分からないんだ。東山さんとは初対面だよね?」
すると、東山さんは微かに笑みを浮かべる。
「・・・実は先輩と初対面ではないんですよ。今から半年程前に一度お会いした事があるんです」
「えっ、そうなの?」
東山さんの言葉に僕は驚く。こんなに可愛い子と知り合っていたのなら、僕の記憶に絶対残っているはずだ。もしかして親密度とやらの影響で僕の記憶にない設定が態々作られたのかとも思ってしまった。
でも、次の言葉で僕の疑問は氷解することになる。
「ふふ、見覚えがないのも無理はないと思います。だってその時の芽衣理は黒縁の眼鏡を掛けてましたし、髪型も三つ編みにしていたので」
黒縁の眼鏡、三つ編み、そして半年程前・・・あっ!
その時僕の記憶のピースがピタリとはまった。
「君はあの時に絡まれていた子だったのか」
「はい!その節は本当にありがとうございました」
今から約半年前、僕が下校時に駅前まで買い物に行っていた時に大学生くらいの男三人に少女が絡まれているのを目撃したんだ。少女は酷く怯えていて、今にも男達に連れ去られそうになっていた。
僕はどうしても見過ごす事ができなかったのか、気が付いた時には少女の手を強引に取って走り出していた。
勿論、男達は怒りながら僕たちを追いかけて来たんだけど、幸い交番が近くにあって駆け込もうとしている事に気付くと男達は慌てて踵を返していった。
一応交番のお巡りさんに事情を説明する事になったんだけど、目撃者が多かったので男達三人の身元がすぐに割れて厳重注意をしたとその後の話で聞いたっけ。
ただ、少女はまだショックが抜けきれていなかったので途中まで送っていった事を覚えている。
交番で事情説明した時に少女の名前も聞いたはずなんだけど、当時は色々と忙しい時期だった事もあり名前を忘れてしまったんだ。
「あの後は大丈夫だった?」
「はい、おかげさまで何とか立ち直れました。もしあの時に有栖川先輩に助けて頂けなかったらどうなっていたか分かりません。それに、芽衣理を励まそうとずっと優しく声を掛けてくださった事が今でも忘れられないのです。そうしたらいつの間にか先輩について毎日考えている事に気付いてしまいまして、胸のドキドキが抑えられなくなりました」
「という事はまさか聖林学園に来たのは・・・」
僕の予想を肯定するように東山さんは強く頷いて見せる。
「はい!先輩が着ていた制服が聖林学園のものでしたので。元々の志望校よりもレベルが高かったので大変でしたけど、また先輩に会いたくて頑張っちゃいました」
えへへとはにかむように笑顔を浮かべる東山さん。
可愛い子の笑顔の破壊力は抜群で、胸の鼓動が高鳴りを上げているのが分かる。
そもそも告白されるなんて初めての経験なので、一瞬頭が真っ白になった。でも、告白された以上は答えを返さなくちゃいけない。
僕は慎重に言葉を選びつつ声を発する。
「僕の事を東山さんみたいな可愛い子がここまで想ってくれている事はとても嬉しいよ。きっと彼女になってくれたらとても楽しいんだろうなと思う。でも、僕は東山さんの事を何も知らないんだ。何が好きなのか嫌いなのか、どんな性格なのか、どんな趣味を持っているのかとかね」
一息吐けて僕は言葉を続ける。
「だから、僕は東山さんの事を知りたいんだ。もし仮に付き合ったとしても今のままじゃ気を遣ってしまうだろうし、遣わせてしまう気がするんだ。僕のわがままかもしれないけど、まずは友達から始めてもらえない、かな」
返答した後に東山さんは顔を俯けてしまい、しばらくの間沈黙が続く。
やはり彼女を傷付けてしまったのだろうか。正直言って、付き合ってから知っていけば良いんじゃないかという思いもあった。大して状況が変わる事でもないし、そのまま受け入れてしまっても問題ないはずだと。
でも、僕はよく知らない他人といきなり付き合うという事に何となく抵抗感を覚えてしまったのだ。
この思いは自分勝手な価値観の押し付けなのかも知れないけど、どうしても胸の中にあるモヤモヤを無視する事が出来なかった。
体感時間にして数十分も経ったような感覚に陥りそうになった時、東山さんが再び顔を上げる。その表情はわずかに微笑んでいるように見えた。
「先輩の表情と言葉から真剣に芽衣理の事を考えてくれているのが分かって嬉しいです。芽衣理の事が嫌いな訳じゃないんですよね?」
「勿論だよ。むしろ僕の方が嫌われてしまったんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてるんだ」
すると東山さんがクスッと笑った。
「先輩の事を嫌いなる訳ないじゃないですか。芽衣理も先輩の事をもっと知りたいです。だから、お友達からでお願いします」
東山さんの言葉に僕はようやく安堵してお互いに握手をした。
その後すぐに連絡先を交換して一緒に帰る事になったのだが、最後に驚くべき事実が判明した。
何と、東山さんが住んでいるのは僕と同じアパートで隣の部屋だったのだ・・・
「ふぅ・・・」
アパートの部屋に戻ってきた瞬間、どっと疲れが襲ってきた。前回の世界以上に気疲れをしたかもしれない。
この影響で夕食も冷蔵庫の中にある食材で簡単な料理を作るだけに留まった。
夕食を食べた後は食器を片付けてからシャワーを浴びた。
この時点で時間はまだ21時だったが、あまりに疲れていたので日記を書いたらすぐに寝るつもりだった。
日記を書きながら、今日の事を思い返してみる。
結局、部屋が隣同士という事で明日から一緒に登校しようという話になり、僕も二つ返事で了承した。
しかも東山さんが下の名前で呼んで欲しいという要望が出たので、恥ずかしいながらも今後は『芽衣理ちゃん』と呼ぶ事で落ち着いた。
この世界では明日から大変になりそうだと思いながら、次の世界に思いを馳せるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
今回は前回の幼馴染とは対照的に、ほとんど他人のヒロインとなっています。
上手く物語を描けるかは分かりませんが、頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!
ブックマークや評価をしていただけるとモチベーションも上がって更新ペースが早くなるかもしれません!