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目が覚めたら天空都市でしたが、日本への帰り道がわかりません  作者: 相内 充希
第4章 最高のメイクは笑顔です

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94.おもてなし

「アルバートさん。私、カイさんを連れて少し街に行こうと思うんですけど、アルバートさんはどうしますか? 自動車はハンスが出してくれるから、休んでもらってても」

「行くに決まってるだろう」

 若干かぶせ気味の呆れたようなアルバート声に、萌香は「ですよね」と笑った。

 アルバートにとっては半分休暇、半分仕事。アウトランダー二人が一緒に行動するのに、目を離すわけがない。


 むしろ萌香が休まないことにアルバートは驚いているようだが、助手席に座っていただけの萌香は、むしろ体を動かしたかった。

 イチジョーの邸宅内や鈴蘭邸を見るのは明日以降でも十分時間がある。むしろ、そちらに時間を割いてしまうとゆっくりするのが難しくなる。そのためまずは、カイに楽しんでもらいたいと思ったのだ。


 気分的には、カイは初めて遊びに来てくれた遠い親戚というところだろうか。

 萌香としては、ロデアの中でも最も美しいイチジョーを自慢したくもあったし、カイとしても、せっかくの遠出だ。メリたちへの土産や土産話も増やしたいだろう。


 イナにはもちろん事情を伝えてあり、萌香もイナも今回は「目一杯おもてなしを」という気持ちが大きく、今夜はご馳走だ。楽しみである。



 結局、ハンスの運転では助手席には座れないだろうというアルバートの意見により、またしてもアルバートの運転で町に向かうことになった。

 萌香が初めて屋敷の外に出た日のように空から町を眺めてから、マーケットに降りる。

「都会やな。なんか懐かしい感じがするわ」

 どこかのテーマパークっぽくて、とこっそり耳打ちしてくるカイに、萌香は同意してクスクスと笑い転げ、

「ではカイさん、イチジョーランドへようこそ」

 と、大げさに一礼した。


 少しだけ久しぶりのマーケットは、以前よりも看板やディスプレーが見やすく変えられていて、さらに活気が増していた。

 人の波がすごくて、まさにテーマパークの様相だ。


 しばらくブラブラとウィンドーショッピングを楽しむと、一軒の店が気になったらしいカイは、一人で見たいから萌香に近くで待っててほしいと手を振った。

「そうですか? じゃあ、アルバートさん。待ってる間そこの喫茶店に入りませんか?」

 アルバートと一緒なら、どこに入れないとか、一緒の席につけないなどの制約がないので、少し気になっていた店を提案してみた。

「ああ、そうだな」

「おう、そうしてくれ」


 機嫌のいいカイを見送り、萌香はアルバートと一緒に喫茶店に入る。

 外が見える窓際の席に案内してもらい注文をすると、萌香はじっくりと店内を眺めて楽しんだ。

 壁は白く塗られ、梁が見えている天井をより高く見せている気がする。

 椅子とテーブルは木で作られていて、白と黒のギンガムチェックのクロスが掛けられていた。ちょうど客が引けている時間のようで、萌香たち以外には夫婦らしき中年の男女が店の奥で談笑しているだけだ。

 間もなく注文していた冷たいお茶と、スコーンに似た小さな焼き菓子がテーブルに置かれた。


「楽しそうだな」

 アルバートが目に笑いをにじませながらこちらを見ていることに気づき、萌香は照れながら笑った。

「こういうお店にずっと入ってみたかったんです」

「ふーん?」

「だって、なんだか可愛いじゃないですか」

「店が可愛いのか?」

 アルバートは不思議そうにするが、この可愛いという感じは多分日本人、というか、日本の女子独特の感覚なのかもしれない。そう考え、説明するために慎重に言葉を探してみる。


「日本の女の子が言う可愛いって、たぶん、好きと同義語かもしれませんね。気に入っているとか、感じがいいとか。子猫を見て可愛いっていうのも、小さくて可愛い、好き、みたいな?」

 こう言葉にすると、自分の語彙力のなさに呆れてしまうけれど、エムーアの言葉ではどのように訳されているのだろうかという興味も湧いてくる。

 実際にそのままの直訳だったりして?


「じゃあさ、萌香」

「はい」

「この前俺に可愛いって言ったのは、小さいとか愛らしいみたいな意味ではなく、俺を好きって言ったってことになるのか?」

 真面目な顔でそんなことを言われた萌香は、思わずお茶が変なところに入り、盛大にせき込んだ。

 アルバートに背中をさすってもらってどうにか落ち着くものの、せき込みすぎて出てきた涙をぬぐう。


 ――ああ、びっくりした。


「で、どうなの?」

 これは思い切りからかわれているのか、それともまじめな質問なのか。

「えーっと、まあ、そうなの、かな? んー?」

 色々悩みつつどういう状況だったかを思い出してみれば、あの時はアルバートが赤くなったのが珍しくて、萌香はちょっとキュンとしたのだ。うん、たしかに間違ってはいない。

 年上なのに時々可愛いアルバートを見るのは、確かに好きだ。


「そうですね。赤面するアルバートさんを見るのは貴重な体験で、ちょっとキュンとしましたね。好きでも間違ってはいないかな」

 うんうんと頷いてお茶を飲み直すと、アルバートがなぜか沈黙してしまう。

「アルバートさん?」

 なんとも不思議な表情をしているアルバートに首をかしげると、彼は「ああ、うん。そうか」とモゴモゴ言い、少し目を泳がせた後次々に焼き菓子に手を出し始めた。


 ――あ、やっぱりお腹が空いてたのね。もう一品頼んだ方がいいかしら?


 確かメニューにコールドチキンサンドに似たものもあったなと考えていると、少し落ち着いたらしいアルバートが「そういえば」と呟いた。

「ここに来るまでスマホで写真を撮ってたんだろう? どんなものが撮れたんだ?」

「見ますか? 綺麗な写真が撮れたんですよ」

 今回は気持ちに余裕があったので、何枚か写真を撮ってみた。

 メモリのことを考えてサイズは若干小さめだし、現像してアルバムに貼れるわけではないけれど、日本で普段普通にしていたことが出来たのがなんだか嬉しい。


 写真は空や、上から見た風景のほか、カイやアルバートの写真もあるし、カイに撮ってもらった萌香の写真もあった。

「へえ。やっぱり写真も色がついてると新鮮だな」

「そうですよね。白黒は白黒でおしゃれな感じがしますけどね」

 そう言って、風景の写真を一枚セピアにしてみたり、色合いを変えたりして見せると、アルバートは興味深そうに見入っていた。

「アルバートさんの写真も加工できますよ」

 運転している彼の横顔をトリミングしてアップにして見せる。少し暗めだったので明るくしてみた。

「面白いな、これ」

「でしょう。アルバートさんなら楽しんでくれそうだと思いました。あ、そういえばこの前オーサカ屋で撮ってもらった写真もコピーしてるんですよ」


 カイのスマホがどれだけ持つか分からないこともあり、写真のデータだけ萌香のスマホにコピーしておいたのだ。できればプリントできる方法か、いつでも見られる状態にできる何かを探そうと思っている。


「ほら。アルバートさんと私のツーショットです」

 普段友達と撮るときにそうであったように、この時の萌香も自然にアルバートに身を寄せニッコリ笑っている。アルバートの表情が多少かたいのは、まあ、普段通りと言えば普段通りだ。

「この写真、お前が持ってるの?」

「カイさんも持ってますけどね。複製してるんです」

「ふーん」

「もっとたくさん撮りたいなぁ。家族とか友達とたくさん写真撮って、思い出作って。そしたらもっと、こっちに早く馴染めそうな気がします」

 ミアやユリアとも撮ったら、さぞ華やかな写真になるだろう。


「そうか。俺とももっと撮る?」

 アルバートからしれっと提案されたので、萌香は「いいですね」と椅子をアルバートの横に移動させて、さっそくインカメラで撮ってみた。


「うーん。アルバートさんも笑って下さいよ」

 写真が一般的ではない為か、またもや固い表情のアルバートに萌香が不満をもらすと、彼は「ああ、うん」と言いながら画面から目が離れない。カラー写真がよっぽど気に入ったようだ。


「兄ちゃんにも上げられるとええんやけどなぁ」

 ひょいっと上からカイがのぞき込んできた。

「あ、カイさん。おかえりなさい。いい買い物できました?」

 思ったより早かったなと思いつつ、椅子とお茶などの追加を店員に頼むと、カイは満足そうにニヤッと笑った。

「できた。ほれ。ええやろ」

 そう言って出したのは、萌香も乗ったことのある汽車の模型だ。

「町とか線路とか作って走らせる、ジオラマ作ってみたくなってな」

「これ走るんですか?」

「いや、走らんけど、改造しようかと思って三つも買うてきたわ」

「なるほど。ジオラマ楽しそうです」

 モノづくり魂が疼くような想像にワクワクしていると、アルバートが「ジオラマ?」と首をかしげるので、二人でどんなものかを説明し、カイはどんなふうに作りたいかを熱く語り始める。


 それはイチジョーに帰ってからも続き、晩餐ではイナもまざって色々なアイデアを出し合いながら、とても楽しい時間になった。

どちらかと言えば「マーケット再び」のような内容に(^^;

アルバートはデート気分を楽しみつつ、写真をどうにか手に入れられないかなぁと模索中です。

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