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目が覚めたら天空都市でしたが、日本への帰り道がわかりません  作者: 相内 充希
第三章 天空都市でメイドに就職して頑張ります

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66.エムーアとは

 ヴィルマはメイドや従僕にも下がるよう命じたが、萌香の後ろに立ったままテコでも動きそうにないアルバートには面白そうに一瞥しただけで、それ以上は何も言わなかった。


「さて、どこから話しましょうかね」

 逡巡するように少し上の方に目をやったヴィルマはしばらく沈黙し、アウトランダーである萌香を考慮してかエアーリア以前の伝説から話し始めた。



「はるか昔、大きな大陸だった国がバラバラになり、その一部がこの国エムーア。それは聞いたことがあるかしら?」

 その質問に萌香は「はい」と答える。だが次の意外な質問に、萌香は一瞬毒気を抜かれた。

「エリカ――いえ、萌香の国に、この国のことは何か伝わっているかしら。名前なり、位置なり、何か……」

「そう、ですね……」

 事実として伝わるものはない。だが名前と言えば、

「ラピュータ……空飛ぶ島の名前は、物語の中で読んだことがあります。国の名前はバルニバービでしたし、住んでいる人や街の様子は全然違いますが、ガリバーという医師が来たことがあるという物語です」

 ジョナサン・スウィフトが書いた「ガリバー旅行記」は空想の物語だ。

「そこにラピュータは、日本の東にある国と書かれていたことを覚えています」

 日本の王様と貿易をしていた国。江戸時代だったはずなので三百年程前に書かれたものだろうか。


 ヴィルマは萌香が語るガリバーの話を意外そうに、そして同時に興味深そうに聞いていたが、

「こちらにはそのような記録はないわね」

 と、残念そうに言った。あの物語には空飛ぶ島以外にも、小人の国や巨人の国、馬の国なども登場するのだ。偶然の要素のほうが高いだろう。そう続ける萌香にヴィルマは少し考えこむようにカップを持ち上げたが、すでに空になっているのに気付いたのか、残念そうにおろす。


「お茶のおかわりを、お淹れしましょうか」

 部屋には三人だけしかいないため、萌香はアルバートに小さく頷いたあと立ち上がり、メイドが置いていったワゴンに近づいた。思った通りポットにはたっぷりお湯があり、茶葉もある。

「ではもう一人分、余分にお願いできるかしら」

 どうやらもう一人誰かが来るらしい。

「承知しました」


 丁寧に人数分の茶を用意していると段々肩の力が抜け、仮面を緩めても冷静な顔でいられそうだ。アルバートも座るように促され、少しだけ萌香の近くに椅子の位置をずらして座りなおした。

 そこに一人の男性が静かに入ってきたので丁寧に礼をする。写真で見たことがある人物――女王の長子で王太子オーラフ殿下だ。

「伯父上」

 アルバートが立ち上がって一礼すると、オーラフは気にするなという風に手を振ってヴィルマの隣に座る。年齢は五十一歳。ところどころ混ざる白髪がメッシュのようで、なかなか洒落た人物のようだ。シモンよりはやや細身だが、それでも存在感のある風体は次期王ならではだろうか。だが萌香を見る目は、なぜか久しぶりに会った親戚のおじさんといった風で少し戸惑う。


 女王から順にお茶を置いていき、もう一度席に着く。しばらく静かにお茶を飲んでいると、ヴィルマが「美味しいわね」と満足そうにつぶやいた。オーラフもそれに賛同し、茶目っ気たっぷりに笑う。

「うむ。うちに息子がいれば嫁にと言いたいところだな。いや、私が若ければ求婚してもいいね」

 娘しかいないのが残念だとうそぶくオーラフの前で、アルバートがむせかけながら、なんとも言えない顔になる。


 ――親戚の集まりみたい……って、アルバートさんにとっては、おばあちゃんと伯父さんだから親戚か。


 オーラフの登場ですっかり和んだ場は、はじめにヴィルマが言った通りお茶を楽しむ空気になっていた。そこでさきほどの萌香の話が繰り返されると、彼は顎を撫でながら「ふむ」と言った。

「時期的に、エアーリアがアウトランダーの世界に出て、どこかでこの都市の話が伝わったということかねぇ」

 エムーアを囲む壁の外に国の一部が出たのかもしれないと言われ、萌香は首をかしげる。地理に詳しくない為、それに該当する島があるかどうかすらわからない。だがもしその可能性があるとすれば、エアーリアの誰かが話した、もしくは誰かがエアーリアを訪れたのかも? そう考えると少しだけワクワクした。


 だがヴィルマは「そうかもしれないし、違うかもしれない」と苦笑いする。

「エアーリアが三百年の時を刻んでいるかどうかも分からないからね」

 その言葉に戸惑い萌香はアルバートを見るが、彼も戸惑ったような顔をし、次に緊張した面持ちになった。何か重要な秘密にかかわることなのかと気づいた萌香は、語られた内容に余計に混乱することになった。なぜなら

「ここは、時と次元のはざまにある世界だからね」

 とヴィルマが言ったからだ。

「時と次元のはざま……」


 アニメかな、SF映画かな。

 思わずそんな感想が浮かぶ。

 少し眉を寄せただけで特に反応がない萌香に、オーラフは面白そうな顔をした。

「アウトランダーたちからの話や、以前消えて戻った島の住人の話から、恐らくそうだろうと考えられているんだよ」



 島が突然消える。

 それはエアーリアが初めてではないという。

 昔、大陸だった国のほとんどが消え、ラピュータが天空都市になった後も北東バーディアの羽根と言われる島、ウルアが消えた。期間としては三年程度だったが、再び戻ってきた島の中では六十年の時が経っていた。他の小さな島だと数百年の時を超えたものもある。

 家族が二度と会えないという悲劇はあるが、そのたびに新しい文化が入ってきた。


「だからエアーリアが戻ってきても、向こうには一瞬かもしれないし、三百年よりはるか長い期間かもしれない。何かをもたらすだろうことは予想できるけど、それが何かはわからないんだ」

 そう話すオーラフは「驚いたか?」とアルバートに声をかける。王家の血を引くものであり、アウトランダーの調査員でも知らなかった内容らしい。


「まるで浦島太郎ですね」

 萌香は少し泣きそうになった。今なら、竜宮城がここだと言われても驚かないだろう。

 今萌香以外に、確認されているアウトランダーはいないという。最後に訪れたのは百年近く前のことだそうだ。


 ――アウトランダーの道が一方通行なのは、時間を超えてしまうからなの?


 それでもここの文明がちぐはぐな理由が少しわかった気がする。時を超えてしまう話は古代から世界中にある。それが個人ではなく国丸ごとというわけだ。

 ヴィルマたちは萌香の理解が早いことに驚いているが、多分それは不思議が続きすぎていることに感覚がマヒしていることもあるだろうが、元々の知識もあるのだろう。勉強したことはもとより、テレビやネット、本で得た知識は、頭の中の色々な引き出しに入っている。それが瞬時につながって映像を結ぶのは、やはり元になる映像や文を知っているからだと思った。

 ここで目覚めるまで、まさか自分がSFやファンタジー映画の中にいるような事態になるなんて考えたこともないが、舞台でなら、見る側、作る側でいくつも体験している。


「でも、どうしてそんなことに?」

 尋ねるでもなく萌香が呟くと、昔大陸だった頃の出来事が原因だろうとオーラフに言われた。

「はるか昔、ここは大きな国だったが、それでも小さな地区地区で小競り合いは多かった。外の世界を侵略し、もっと大きな国にしようと考えるものも出た。今とはまた違う文明が発展した世界で、禁断の兵器が作られたのだ」


 それは一瞬で世界を消し去ると言われていた。

 それが発動したのかは不明だが、ある日国のほとんどが物理的にバラバラになり、次々に消えた。長い時をかけ、神官の目と賢者の考察により、どうやら様々な世界に散らばったらしいと考えられた。事実は確かめようがないが。

 エムーアも、もしかしたら飛ばされ閉じ込められたのかもしれない。だから世界から孤立しているのかもしれない。


「世界というものは、機織りの布のようだと伝えられている。それが何枚も重なっていると」

 ――パラレルワールドと考えればいいのかしら。それとも異世界?

 萌香は親指を唇にあて、視線をさまよわせる。


 異世界と考えるには、絵梨花のことが疑問になる。下手な字の日本語だけなら、万が一にでも自分が書いたものかと無理やりこじつけたかもしれない。だが英語は無理だ。辞書もなしであんなに書ける気がしない。

 ――絵梨花は、何か知っていた?

 ハッとするが、でも王や王太子しか知らないようなことを、どうやって知ったのかという疑問が残る。


「バーディア、ウルア、エアーリア。みんな最後にアが付くんですね」

 なんとなく呟いた萌香に対しアルバートが少し考え、

「最後につくアは、昔の言葉で何かの端や外れみたいな意味だ。エムーアなら、ムーの西の果て。そんな意味だったはず……でしたね」

 その答えに、オーラフたちが頷く。

「ムー?」

「エムーアは、昔ムーという国の一部だったと言われているから」


 そう教えてくれたアルバートの目をじっと見る。

 何かがつながる気がして、ただ思考が揺蕩(たゆた)うままに任せた。眉間のあたりに意識が集中していく。音が遠くなり、様々な単語が浮かび上がる。


 そっくりな私と絵梨花

 パラレルワールド

 時間がずれる

 もう一人の私

 もう一人の私

 もう一人の、私……


「私は……エリカ……?」

 ストン……と落ちるように、不意に理解できた気がした。

 パラレルワールド。答えはこれなんだと突然納得できた。


 子どもの頃読んだ物語で、主人公がパラレルワールドに迷い込むものがいくつかあった。そこは同じ世界みたいなのに自分が存在しなかったり、あるいは全然違う人生を歩んでいる自分がいる。元の世界に戻れたとき、そこは自分が向こうの世界に行った直後で全く時間が立っていなかった。そんな話もあった。

 一条絵梨花が違う次元にいた萌香自身だと考えると、驚くほど辻褄があってくる。

 二年のずれがあっても同じ容姿、同じ特徴があるのは、同じ人間だから。

 DNAなどがどうなっているかまでは分からない。でも違う次元で生きる同じ私。

 そして絵梨花は、なぜかそれを知っていたのだ。


 ハッと気づくと三人の目が萌香に集中していて慌てる。

「萌香……いや、エリカ?」

 アルバートの戸惑ったような声。

 小首をかしげ様子をうかがっているヴィルマ。

 そして、なぜか面白そうに目をきらめかせているオーラフ。


 萌香は少しだけ目を伏せそっと呼吸を整えた。テーブルの下で、ギュッと萌香の手を握るアルバートの手に、萌香はそっともう片方の手を添えた。

 ――大きな手……。

 その手に不安な心を包まれた気がして、不思議なほど安心する。言葉がないのに、その目が、この手が、声のないエールを送ってくれる気がする。


「なんとなくですが、エアーリアがここに戻るとき、私は向こうに戻れるんだと思います」

 なぜかは分からないが、うっすらと道筋が見える気がした。

 エアーリアがアウトランダーにつながっている、もしくは次元なるものにずれが生じるなら、自分が帰れるチャンスはそこだと確信に近いものを感じる。

「それまでエリカの役割を果たすために、私はここにいるのかもしれませんね」


 数多に存在する時間、次元の中から、自分がここに来たのには意味があるのかもしれない。

 エリカの印がまた熱を帯びた感じがすると、足元と北東のほうに何かを感じた。ちょうど、エアーリアとの間を一直線に結ぶような何か。これが竜の糸だろうか?

 雑念を払って心をフラットにすると、色々な線が脳裏に浮かんだ。引き上げようとしてる。何かが迷い込んでいる。

 でもまだ遠い……。


 ふとアルバートの顔を見ると、冷静そうな顔の中で、目だけが動揺したように微かに揺れている。少しだけ心許なげに見える彼を守りたくなり、大丈夫との意味を込めて、握る手に少しだけ力をこめた。


 ――やっぱり絵梨花は、アルバートさんが好きだったんだと思うな。


 トクトクと聞こえる自身の鼓動に、萌香は改めてそう思った。

 なぜなら自分が彼に惹かれているから。出会ってからまだ二週間程度なのに、こんなに惹かれてるのは、私も「絵梨花」だからだ。

 でも、本来ここにいるべき絵梨花は私ではない……。アルバートの絵梨花は自分ではない。


 ――これは、気付きたくなかったな……。


 私は、この人を好きになるわけにはいかない。

 微かに唇をかみ、こっそりと気持ちを封印する。

 こんな気持ちは私にはいらない。必要ない。初めからないもの、あってはいけないものだから。だから好きになる前に――消してしまおう。

色々なことを理解したと同時に、自覚した気持ちを急いで封印する萌香でした。

次は「エリカという役割」です。


ところで、エムーアの名前は最初からネタバレでした。MU(「えむ」と、フォニックスで「あ」)です。

昔の漫画に使われてたネタみたいなものを使ってみたかったのですよ(*´艸`*)

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