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目が覚めたら天空都市でしたが、日本への帰り道がわかりません  作者: 相内 充希
第二章 この世界はすべて舞台

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58.図書室での発見

 本来ホスト役は晩餐の後ホテルに帰る。

 だが明日、何の話の流れだったか、絵梨花の大叔母が残した鈴蘭邸にみんなで行くことになった。ホテルに戻って明日もう一度来るより、いっそこのまま泊ればいいと言い出したのは誰だったか。急遽もう一泊することが決定した子どもたちは大はしゃぎだ。アルバートも今は夏休みで、あと十日ほどイチジョーに滞在するという。


「じゃあ私もそうしようかしら」

 そう言ったクリステルに、アルバートは「いいえ、母上はすぐお帰りください」と身も蓋もない。だが一度決めたクリステルが息子の言うことなど聞くはずもない。ましてや彼女の「子」であるイナが歓迎しているため、お泊り決定である。

 呆れたような表情のアルバートは少しだけ子どもっぽく、萌香はクスクスと笑ってしまった。


  ◆


 子どもたちは就寝、大人はそれぞれ茶や酒を楽しむため部屋を移動する中、萌香はイナに寝る前に何か読む本を探したいと言って、図書室を開けてもらった。

「用が終わったら鍵を閉めておいてね」

「はい」


 閉めるだけなら鍵はいらないため、一人で図書室に入り深呼吸をする。

 手紙によれば、絵梨花についての記録の鍵は入り口から見て左一番奥の本棚の上にある。教室一つ分くらいある図書室の中を進み、目的の本棚の前までくる。

「上って、一番上の棚……じゃなさそう」

 外国映画に出てきそうな図書室の書架は、天井近くまでの高さがある。図書室の天井は高く、一番上までは萌香が縦に二つ並んで、さらに背伸びをしてもとても届かない高さなのだ。

 普段は入り口近くの低い書棚の本ばかりを見ていたので気にしたことがなかったが、これは梯子がないと無理そうだ。

 書架の途中途中にまるで腰掛のようなでっぱりがあるので、昔はそこに座って本を読む者もいたのだろうかと考えゾッとする。


「まあ、はしごも出来れば登りたくないけど……」

 絵梨花は高いところが大丈夫だったのかな。

「空飛ぶ車や天空都市の学校に行ってたら、高いところも平気になるのかしらね」


 梯子を探して周りを見回すが、それらしきものは見当たらない。

「あ、車いすみたいに、なにかに姿を変えている可能性があるのか。失敗した」

 とはいえ、古そうな書物の棚を見たいと言って余計な関心は引きたくない。どうしたものか。


 目の前の書架から、本のタイトルを何とはなしに眺める。

「そういえば、トム・ソーヤとか、秘密の花園もあるのかな?」

 ゲイルやロベルトが知っているくらいなら、子供用の本なのだろうか?


 奥の蔵書は小説ではないらしい。厚い本の一冊を手に取ると、画集だろうか。自然の風景や建物を描いた素描のようなイラストが集められた本だった。


「へえ、きれい」

 イラストにはタイトルと簡単な説明文があり、それによればエムーアを旅しながら描いたものらしい。街並みは今と変わらなく見えるが、年代は百年近く前のようだ。


 同じような画集を何冊かみてみると、どうやら国中を記録する絵師が存在するらしく、ある程度年代ごとの国の様子が描かれていることが分かった。

 苗字が同じなので、そういう一族なのかもしれない。本によってはカラーだったり、人物描写が多かったりと違いがあるようだ。


 つい絵に夢中になってしまったが、気を取り直してはしごを探す。

 それらしきスイッチはないかと小さなレリーフをいくつか触ってみると、書架の棚の途中途中の腰掛けのような出っ張りが増えた。増えたが、一番低いところでさえ萌香の頭の上あたりという高さだ。


「これは飛び乗れってこと?」

 肩をすくめた萌香は、洒落のつもりで手近な出っ張りに向かってジャンプすると、なぜか簡単に着地できてしまった。

「え……。もしかして重力が少し軽い?」

 ありえない事態に逆に冷静になり、突然地球から火星に飛んだ小説のヒーローを思い出した。重力の関係でやたら高く飛べたヒーローを。

「気づいたら異なる世界にいた大先輩ね」

 あれは幽体離脱で火星に行ったら、実体になってしまったんだっけ?


 下を見ないようにそんなことを考えつつ深く息を吸い、ヒーローの仮面を被る。飛べるなら飛ぶまでだ。ヒーローだから怖くはない。

 そこから出っ張りを飛び移り、書架の上が見えるところまで移動する。

 少し手を伸ばしたところに箱を見つけ、他には何もないことを確認し、出っ張りに腰を掛けた。箱は二個の小さな留め具を外すだけで簡単に開き、そこには紋章のようなものと手帳が一冊入っている。

「この紋章はカギだよね?」


 家関係の鍵は車のキーに近いイメージだ。オンオフのスイッチはないが、鍵の前でかざして照合されると開く。

 とりあえず紋章は箱に戻してポケットにしまい、今度は手帳を開いた。

 ゆっくりめくり、さっと目を通して頷く。

 それもポケットにしまうと、来た道を逆にたどって下に戻ると、レリーフを触り出っ張りを元に戻しておく。


 ヒーローの仮面を外すと、足元がジェットコースターに乗った時のようにふわっと心もとなくなり、へたりこんでしまった。

 ――やっぱり高いところは苦手だわ。

 やたら体が軽いことは、今のところは考えるのをやめよう。実は地球じゃないとか、ちょっとシャレにならない。

 今思えば樹に登ったときも、枝まで軽く届いた気がするが……。

「たぶん、見えないちっちゃな竜が持ち上げてくれたのよ」

 たぶんそうだ、きっとそう。

 車や島まで浮くのだ。人も軽くなるのだろう。

 それでもなんとなく、脳内のコミカルなドラゴンの頭を撫で撫でしておく。

「手伝ってくれてありがとう」


 早く部屋に戻ろうと思うが、書架にもたれたまま少しだけ目をつむった。

「やっぱり、私は絵梨花じゃなかったね」

 手帳はその証拠だ。筆跡以前の問題だった。

 でもこれを見せたところで、誰にこれが読めるのだろう。誰が信じるだろう。

 同じ姿で、同じ特徴を持っている自分たちを。


「なんでこんなことになったのかな……」

 なぜか少し傷ついていた。だが自分でも何がショックなのか分からない。

 自分は絵梨花ではないと訴え続けていたし、確信もしていたはずなのに。なぜその証拠を見つけて動揺しているのだろう。


 イナやフィンセント、ベニやミア達。

 ここにきて出会い、自分をエリカだと思って大切にしてくれる人はたくさんいた。

 でも、萌香でもいいと言ってくれた人たちがいたからだろうか。

「トムさん、アルバートさん……。私、上に兄弟がほしかったのかな」


 小さいころ、実在しないお兄ちゃんを呼んでたことをぼんやり思い出した。いや、お姉ちゃん? ううん、やっぱりお兄ちゃん。


 幼稚園の時仲良しだったゆうちゃんはお兄ちゃん子だった。時々優しくて意地悪なトシお兄ちゃん。ゆうちゃんは、邪険にされてもついて歩いてたっけ。それがなんだかうらやましくて、自分にもお兄ちゃんがいるもんなんて言ってたのだ。

 信也が生まれたばかりで寂しかったのかもしれない。

「私にも可愛い時代があったのね」

 日本でもトムが兄なら、きっと自慢のお兄さんだっただろう。


 ポケットから手帳を取り出し、もう一度見る。

 初めのページはおそらく萌香にあてた手紙だ。内容はドレッサーで見つけたものと同じ。だが――

「なんで今度は英語?」


 ほとんどのページが、アルファベットの大文字で埋め尽くされた小さなノート。

 絵梨花は日本語よりも英語のほうが得意だったのだろうか。エムーアとは違う文字だから、こちらの人が読めるのかどうかも分からない。

 萌香自身英語は得意ではないが、高校は多読も取り入れる程度には英語に力を入れていたし、英語に触れる機会は一般的な高校よりは多かったと思う。英語の成績は中くらいだった萌香でも、ざっと文章を見て大意を読み取ることはできる。でも日本語並みに正確に読み取れるかと言われたら、答えはNOだ。翻訳アプリまでは望まないが、せめて辞書がほしい。

 そんな自分がこれを書いたなんてありえない。

「だからこれは私が書いたわけじゃない。絵梨花と私が別人だって証拠だよね」


 図書室の書架を一通り回ったが、英語のものは一つもなかった。辞書も当然ない。


 それでも手帳にさっと目を通して分かったことは、「R」という単語――多分誰かのイニシャルがたくさん書かれていたこと。それから色々な記録が「鈴蘭邸」にあること。

「アールは人っぽいかな。イニシャルか……あるいは」

 絵梨花はアルバートを「アル」と呼ぶ。アールはイニシャルじゃなくて記号のようなものかもしれない。

 手帳の終盤に殴り書きに近い文字で書かれたものを、萌香は声に出して読んでみた。

R(アール). I wanna(あなたと) be with(一緒に) you.(いたい)


 なぜか胸がギュッと掴まれたように痛くなり、萌香は胸元を強く押さえた。

自分の体に起こっているかもしれない謎。

そして、絵梨花と自分は別人である可能性がますます高くなった萌香。

絵梨花は何を思ってこれを書いたのでしょうか。

次回は「これも一種のプロポーズ?」です。

サブタイはこんなですが……(目そらし)

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