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目が覚めたら天空都市でしたが、日本への帰り道がわかりません  作者: 相内 充希
第二章 この世界はすべて舞台

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57.晩餐という打ち上げ

 中庭での晩餐は、いわば打ち上げのような感じだろうか。

 今日好成績で試験を突破した学生たちも招いた晩餐は、ちょっとしたお祭りのようなにぎやかさだ。

 立食式なのは彼らがくつろげるようにとの配慮らしい。段々寛いできた学生のにぎやかさに懐かしさがこみ上げた萌香は、

 ――若いなぁ。

 ついそんなことを考えてしまう。

 彼らの自立が日本より早いとはいえ、やはり二十歳と十代半ばの差は大きいのだ。


 萌香たちは朝食のメンバー以外に、執事のロッテとその夫のフィンセント医師(せんせい)、それからアルバートの「キッド」であるレイク・ルドも招かれていた。


「いや、本当に驚きました。何も覚えていないんですね?」

 ルドの顔には同情と気遣いが見える。間違っても面白がったりしていないし、とても誠実そうだ。

「ええ、ごめなさい。これから改めてよろしくお願いします」

 頭を下げる萌香に、ルドはとんでもないと手を振る。

 彼も絵梨花の見合い予定者だったらしいことは、本人から直接聞いた。アルバートの支度が素晴らしいとほめられ、いつか自分もお願いしたいものだと陽気に話すルドに、

「ええ、機会があればぜひ」

 と答える。できることならば、ユリアとまとめてさせてもらえれば嬉しいと、心の中で付け加えながら。


 彼は二十二歳でユリアはまだ十五歳。日本の感覚だとロリコンが入ってるようで微妙な感じだ。だがこの国ではちょうどいいバランスらしいし、萌香の目から見ても二人はとてもしっくりくる。母親たちの視線も温かいものなので、きっと問題はないのだろう。


 ――久々に一目ぼれの瞬間を見たなぁ。


 ルドが初めてユリアを目にした瞬間を思い出すと、自然と頬が緩む。一本の見えない線がスッと通ったようなあの場面は、特別なドラマを覗き見たような気がするのだ。それはめったに見ることが出来ない、宝物のような瞬間。

 ミアと一緒に、ルドとユリアを生暖かい感じで見守るのも学生時代を思い出して楽しく、二人がうまくいくといいなぁと素直に思った。


 学園寮の親子制度というものに萌香はなじみがないが、この親子制度は死ぬまで関係が続くことがほとんどらしい。ただの先輩後輩より密な感じだろうか。たしかアルバートの母であるクリステルは、イナの「マム」だそうだ。

 絵梨花のマムは、元婚約者の現婚約者になっていると夕べ聞いた。となると、絵梨花には「キッド」もいるのだろうか?

 

「ああ、エリカの子はファン・マリーだったな」

 萌香の疑問にはトムがはすぐ答えてくれた。マリーは絵梨花の二つ年下だそうだ。とはいえ萌香は一度も彼女の名前を聞いたことがない。見舞いひとつなかったということは、その子とはあまり関係がよくなかったのか。

 そんなことを考えていると、トムがそれを察したのか何か言いにくそうな顔をした。

「いや。マリーは今眠ったままらしい」

「え?」

「エリカの事故と同じ日に倒れて、今も意識が戻らないと聞いている」

「そんな……」


 萌香が絶句していると、飲み物を取ってきたアルバートが「なんの話だ?」と聞いてきた。マリーのことだというと「ああ」と頷く。

「ひどい病気なのですか?」

「いや、マリーは病気ではなく眠っているだけらしい」

「眠ってる?」

 一瞬萌香の脳裏に眠り姫の城が浮かんだ。

 マリーは学校で倒れ、多少ケガをしたものの脳に損傷は見られず、今は実家で療養しているそうだ。


 ――絵梨花の事故と同じ日だなんて、これは偶然?


「それは心配ですね……」

 萌香が知らない子ではあるが、一度見舞いに行こうと決意していると、ふいにアルバートと目が合い一瞬ドキッとした。

 ――今日の出来事が舞台上だったら、今頃アルバートさんに握手を求めているだろうなぁ。もっとも、今握手やサインを求めたら、ただの変な人でしかないだろうから我慢するけど。


 無意識にアルバートの着崩れた服と髪を直す萌香に、周りの人が面白そうに笑った事には気づかなかった。


 絵梨花の婚約者候補だと表明したところで、彼の態度に変わりはない。

 かわりにロベルトが「じゃあ僕も立候補します!」と言い、ちょっとした騒動になった。

「アルとエリカさんは六歳差で、僕とエリカさんも同じ年の差です。王家繋がりという立場でも、僕とアルの条件は同じですよね」

 一目見てエリカを忘れられなくなったなどと言う少年は、真剣なまなざしを萌香に向けた。


 ――ごめんなさい。私は絵梨花じゃないし、年の差も八歳なのよ。


 絵梨花がモテるにもほどがあるだろうと、内心頭を抱える。

 だが今ここに絵梨花はいないし、萌香だったとしても、さすがに小学生年齢の少年との婚約など考えられない。あと五年もすれば彼も極上の青年に育つかもしれないが、その頃には多分萌香はここにはいないはずだ。


 絵梨花本人ならどう答えただろうと考えるが、相手が子供とはいえ真剣な気持ちを茶化すこともできない。とはいえ、萌香が返事をできる事案でもないため、「一度に一人しか考えられません」と答えるにとどめた。


 一連の出来事をユリアが息をつめて見ていたのは、絵梨花と「姉妹になれる可能性をつい夢見てしまった」からだという。大人がだれも止めなかったことを見ても、文化の違いだなぁと苦笑いしたくなる。ついていけない気持ちと申し訳ない気持ちで、萌香が曖昧に微笑んでいると、

「いえ、相手があのアルバートでも、エリカ様の身内になれるのでしたらステキです。ぜひ前向きに考えて下さいませ」

 と前のめりで言われてしまった。


 ――はい。早めに絵梨花を見つけるよう、頑張ります。



 そのあとは学生たちに労いの言葉をかけたら、逆に学生たちから多くの礼を言われてたじたじとなったり、問われるまま化粧の話をしたりと、晩餐の時間はあっという間に過ぎる。


「私、ラピュータの上級学校に勧めることになりました。エリカ様のおかげです。本当にありがとうございます」

 目を潤ませながら萌香にそう言ったのは、試験直前に萌香が髪に手を入れ、表情のアドバイスをした女の子だ。

「とんでもない。元々の実力よ。おめでとう」

 シモンが経営する上級学校は、身分的には上流の人間がメインだ。中流階級の人間がそこに推薦されるのは、本当に狭き門だという。


 エムーアには大きく分けて四つの階級がある。

 王族含む特級。

 萌香の翻訳が最初に翻訳した言葉通りだと、その下に武家。これが上流階級。貴族と大企業の社長を足したような感じ。萌香の感覚だとセレブ。

 町人及び農民が中流階級。萌香の感覚ではいわゆる庶民。厳密にはこれも結構幅が広い。中の上くらいだと上流社会で働けるチャンスがあり、イチジョーの学生や働いているのもこの階層だ。

 その下がうまく翻訳されなかったのだが、下民。最初に萌香が懸念したように、子どものほとんどが学校に通えず、その日暮らしに近い階級だ。

 ほぼ萌香に情報は入っていないが、子どもが働かなくては食べていくことも難しいのではないだろうか。


 一つの国だけで成立している世界。地図が正確であるならば、エムーアは日本より少し大きい程度ではないだろうか。

 燃料、金属、布、紙、食料。

 資源はどこから来ているのか、作られてるのか、とれるのか。

 日本なら子どもが社会科で習うようなことも、ここではわからない。多分知っているのは限られた人だけ。

 エムーアで教育を受けられるというのは特別なことで、それも階級によってレベルがまるで違う。だからこそ、その階級を超えられる機会は貴重なのだ。


 彼女は中流階級でも、イチジョーにはぎりぎり来れた程度の身分らしい。試験前に萌香が手を入れアドバイスをしたことで落ち着き、存分に実力を発揮できたことも大きいかもしれないが、元々本人がどん欲に学び努力した結果だ。


 身分というものがある世界で、上に行くのは立ち居振る舞い一つとっても難しいだろう。上級学校に行けても、無事卒業できるとは限らないのだ。

 だが萌香も、万が一エムーアで生きることを考えれば、行けるなら行きたい。だけどエリカとしてはそれは叶わない。

 素直に羨ましく思い心からのエールを送ると、彼女は真剣な目をして、

「絶対ご期待に応えます」

 と、萌香の手を握りしめた。

希望にあふれる学生たちがまぶしい萌香でした。

もし普通に転生したと自覚できていたなら、こんな不安はなかったのかもしれませんが、まだ真実は分かりません。

次は「図書室での発見」。

手紙に書いてあった絵梨花の残したものは見つけた萌香は・・・

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