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SS 49話で、萌香が部屋に戻った後のトムとアルバートの話

拍手ボタンの中に入れていたSSですが、意外と重要なシーンなので表に出します。最新話(第71話)まで読んでいた皆様にはご迷惑をおかけしてすみません。

これに伴い、拍手ボタンは撤去しました。

 エリカを部屋に送ったあと、アルバート達は今には戻らず、トムの部屋で飲み直すことにした。部屋に落ち着くと、トムはしばらく複雑な表情でぼんやりと考え込むように宙に視線を彷徨わせていた。


「どうだった?」

 長い沈黙のあとアルバートが聞くと、トムは「うん……」と呟く。

「思ったより元気で良かったよ」

「そうだな」

 トムの不安を知ってか知らずか、当たり前のように兄に笑顔を向けたエリカ。最初は少し不安そうな表情ではあったが、すぐに彼女の周りにあった壁は消えた。


「なあ、アル。変な話なんだけどな、今のエリカを見ていると、なんとなく、懐かしい感じがするんだ」

 何かを思い出すようにそう言ったトムに、アルバートが視線で先を促す。

「うまく言えないんだけど、小さい頃のエリカはこんなだったなと……」

「エリカが幼くなってたか?」

「そういうわけではないんだが……。そうなのかな? なんとなくあの子の表情が、子どもの頃を思い出させるんだ。多分エリカの意味を知らなかったら、もしくはエリカじゃなかったら、こう育ってたのかなぁ、なんて」

 それはアルバートも感じていたことなので、同意する。

 まるで別人。なのに本人。

 いつもアルバートがエリカに感じていた違和感は、彼女の鎧だったのだろうか?


萌香(・・)についてはどう思った?」

 アルバートが聞くと、

「萌香の人格は、可愛いよな」

 と、少し考えてからトムは頷く。

「あれがどういうことかはさっぱりわからないけど、あの子がウソを言ってるようには見えなかった。俺じゃなく弟がいると言われたのは、少しショックだったけどね」

「そんなものか?」

「うん。子どもの頃も一度あったんだ。お兄さんなんていないって拒絶されたことが。それが、けっこうショックだったんだよ」

「――いつの話だ?」

「いつだったかな。俺がラピュータに行く前くらいかな。寂しくて駄々をこねてるだけだろうって、周りには言われたけどね」


 トムがラピュータに行く前ならエリカが五、六歳のころか。

「病気で心細くなって拗ねてたのか」

 幼少期のエリカを想像して思わず吹き出しそうになる。

 自分で言っておきながら、アルバートにはエリカが拗ねて駄々をこねるところなど想像が出来なかった。

「たぶん、そういうことだったんだろうね」

 可愛いよねと、トムは柔らかく微笑んで頷く。

「ふん、仲が良かったんだな」

「羨ましいだろ?」

 心底そう思ってるといったトムに、アルバートは再びフンと鼻を鳴らした。


  ◆


 寝室に戻ってからも、アルバートの頭の中を占めるのは萌香のことばかりだった。

 蜃気楼を見て取り乱した彼女を、あの時は軽く流してしまった。

 改めて話をして、萌香をエリカのもう一つの人格という仮説を立てた。

 だが名前はともかく、年齢も家族構成も違うのはいったいなぜなのだろう?

「二十歳という年齢に、何か意味があるのか?」


 二十歳になれば、彼女が引きこもりたかった大叔母の屋敷が彼女のものになるという。

 だが、今はそのことは萌香には伏せられているらしい。それはなぜなのか。

 そもそも事故とは、どんなものだったのだろう?

 記憶を失うほどのそれは、恐怖だったのか、悲しみや絶望だったのか。

「……本当は、フリッツを愛してたのか?」

 ならばどうして、自ら手放すようなことをしたのか。

 あの日、エリカが二人を見る姿は満足そうに見えた。だが、彼女は一瞬にして本心を隠す――。あのとき一瞬だけ泣きそうに見えた顔。あれが本当の顔だったなら、エリカは何を思っていたのだろう。

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