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目が覚めたら天空都市でしたが、日本への帰り道がわかりません  作者: 相内 充希
第二章 この世界はすべて舞台

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44.お兄様

 食後の茶の後は、女性陣は引き続き明日の打ち合わせを兼ねたおしゃべりをしていたが、シモンは早々に引き上げていた。ユリアも母親に言われ、部屋に帰されている。


「エリカ、少し話をしようか」

 トムに誘われ快諾した萌香は、トムとアルバートと三人で少し小さめの居間に移動する。小さいとはいえ、大きなソファーやテーブルがあっても広々とした空間だ。大きな暖炉があるので、冬は素敵な雰囲気になるだろうと思っている。


 ――そういえば、ここにはクリスマスみたいな行事ってあるのかなぁ。


 火の入った暖炉を思い浮かべると、その前で寛ぐ幼い絵梨花と小さなお兄ちゃんのトムの姿が自然と浮かぶ。幸せな光景だと思った。


 トムたちはメイドに酒を用意してもらい、エリカは温かいお茶を淹れてもらう。萌香は二十歳なので日本だったら飲酒可能ではあるが、エムーアの飲酒可能年齢は二十一歳だ。ほんの少しアルコールの力がほしいような気もしたが、どちらにせよ飲めないものは仕方がない。メイドたちには下がってもらったので、居間には三人だけになった。


「エリカ、もうすっかり具合はいいのかい?」

 話の糸口を探すためか、トムがソファーで寛ぐ萌香を上から下まで見つつ、そう尋ねる。

「ええ、すっかり元気ですわ」

 萌香がエリカ風の口調で話すと、アルバートの眉がピクリと上下するのが見え、思わずフフッと笑い声が漏れる。今はエリカなの? と聞かれたように思ったのだ。

 いたずら心がムクムクとわいてきて――萌香のほうがいいか?――と、アルバートに目で問うと、

「今はそっちが自然なら、それがいいんじゃないか?」

 と言われてしまう。トムが二人を交互に見て首をかしげるが、萌香はエリカの仮面をすっかり取り払い大きく息をついた。トムと初めて会った時から、彼の前で仮面をつけるのは無理だと思っていたのだ。


「では遠慮なく素でいきますね」

 にっこり笑う萌香にトムは一度だけ大きく目を瞬くと、すぐに気を取り直したように柔らかく微笑んだ。

「ああ、俺の前では力を抜いてていいよ。覚えてないかもしれないけど、いつもそうだったんだから」


 ――トムさん優しい。うん。彼は確実に「妹がいるお兄ちゃん」だわ。


 今まで周りにいたのが、大人や、同世代でも主従関係になってしまう人ばかりだったのに比べ、対等に身内として扱ってくれるトムに、萌香の心の中の鎖がほどけていくのを感じる。


「私……絵梨花は、えっと、トムさんの前ではどんな風だったんですか?」

 萌香のままでトムを兄と呼んでいいものか悩み名前で呼んでみると、トムはクーンとしょげ返った小犬のような顔をするので焦ってしまう。

「さっきみたいにお兄様とは呼んでくれないのかい? 今の俺は、どこかの知らないおっさんも同然?」

「え、あの、ごめんなさい。おっさんだなんてそんな。トムさん、いえ、お兄様」

 しどろもどろになる萌香に、アルバートが顔を背けるのが見えた。


 ――アルバートさん、絶対笑ってるでしょう! 肩が小刻みに震えてるし!


 少しくらい助けてくれたらいいのにと、萌香は少しだけむくれててしまう。

 だがトムはアルバートのほうをちらりと見て、

「こいつが仏頂面なのはいつものことだから、気にしなくていいよ」

 と言うのでびっくりした。


 ――いやいやいや。この方めちゃくちゃ笑い上戸ですよ、お兄様!


 目を見開いてアルバートを見直すと、彼はひそかに大笑いしてたことなど微塵も感じさせない涼しい顔でグラスを傾けている。その姿にポカンとした萌香に、アルバートはバチンと派手なウインクを送ってきた。


 ――ああ。また私、からかわれてるのね……。


 優しい長男に、ちょっと意地悪な次男。

 そんな図が脳裏に見えた萌香は、ちょっとだけガクリと肩を落とす。

 おかげで少しだけあった緊張感は、きれいさっぱりなくなった。

次は「悪役令嬢?」。

兄たちに婚約解消時の話を聞いた萌香は、絵梨花が言ったという言葉に驚きます。

それは、萌香がエムーアに来てから読んだ流行りのロマンス小説にはない設定のようで……。

え、どういうこと??

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